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アウレリアの乙女達  作者: たぬきしっぽ
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全てのものに等しく祈りを

初投稿になります。

完全自己満の物語で、全く方向性も正直決まっておりません…。記録という形で、思うままに書いていきたいです。

 ユリアの魔法士としての能力が覚醒したのは、5歳として儀式を受けてすぐのことであった。


 ユリアの暮らす孤児院は年に一度、大掃除を地域ぐるみで行う。町から少し離れた森の中にある子どもらの家は何かと手入れが必要なのだ。町への一本道は舗装されておらず、雨風で削られ穴ぼこがいくつか空いていた。大人たちは森から運んだ土で穴を埋め、道に散らばる木の実や葉っぱをかき集めていた。一方で、まだ体力の少ないユリアのような幼子らは、花壇の草むしりを命じられていた。花壇の側にある林檎の木の作り出す木陰はすっぽりと子ども達を覆っている。涼しい風も吹いていたため、ユリアは全く作業が苦痛ではなかった。しかし周りの子どもらは、退屈なのかお喋りに夢中であった。雲ひとつない空の下、大人たちは汗水を垂らし道の清掃に取り組んでいたが、子供らが真面目に作業していないことを咎めることはなかった。なにせ5歳の儀式を終えたばかりの小さな子どもである。今回は、地域の一員としての活動内容を少しでも学ぶ機会になればいいと考えていたからだ。


「むしってもむしっても、なくならないじゃないか。ぼくたち、少しお休みしようよ!」


 単調な作業に耐えきれなくなったのか、一人がそう叫ぶと、皆一斉に教会の水飲み場に向かっていった。その中で、花壇に残り懸命に作業する少女が一人。この国では一般的である黒髪に、アンバーの瞳。自分の丈ほどある雑草を抜こうと、目鼻立ちのはっきりとした綺麗な顔をこれでもかと顰めている。

「自分にできる範囲でいいんだよ、ユリア」

 花屋のおじさんがみかねて声をかけてきた。

「ユリア、ご褒美のためにがんばりたいの!皆んなの中で1番がんばった人が大きなケーキ食べていいって先生が言ってた!」

 ユリアは草を引っ張りながらそう答えた。どうやら幼い子供達が少しでもやる気がでるように言った先生の言葉は、ユリアには抜群に効いたようだ。ユリアの楽しみは、食べることだ。今日も朝ご飯のスープもしっかりおかわりをした。好き嫌いはなく、何でも喜んで頂くが、孤児院では質素倹約に努めなければならないため、好物の甘いものは滅多にお目にかかれない。しかし、地域行事の大掃除では子供達にご褒美としてケーキが振る舞われるのだ。そのため、1番大きなケーキは必ず手に入れる!とユリアは意気込んでいた。

「そうかい、そうかい。でもこの草は私が抜いてあげよう。よっこら…おや?なかなか抜けないね…」

 おじさんが両手で思いっきり引っ張るものの、びくともしない。草の根が余程強く張っているのか、全体重かけても、ちっとも抜けそうになかった。

「おじさんも無理だったらユリアも出来ないの仕方ないよねー」ユリアはけらけら笑って側にある小さな草を引っこ抜いた。

「これは精霊様にお手伝いをして頂こうかな。」

「精霊さまがお手伝いしてくれるの??」

 ユリアは不思議そうに花屋のおじさんを見つめた。孤児院では精霊様に感謝を伝える言葉を朝と寝る前に言う習慣があるが、ユリア達はまだ精霊様が授ける奇跡を知らなかった。

「そうだよ。精霊様は心を込めてお願いをすれば、私たちに手を差し伸べてくださるんだ。」そう言って、首にかかった浅黒い牛皮の袋を握りしめ、目を閉じて祈り始めた。するとユリアが苦戦していた雑草がほんのわずかに白く光り輝いた。おじさんは目を開けると、その雑草を片手で軽々と抜いた。ユリアは目を丸々として、雑草が抜けた土穴を見つめた。

「これが精霊さまのお手伝い!すごい!すごいよ!おじさん!」おじさんはユリアが感動するのを見て微笑んだ。

「ユリアも7歳になったら、精霊様に力を分けていただけるよ。その日まで毎日感謝の言葉を伝えるんだよ。」

「ユリア、7歳まで待てないよー!ユリア、このおっきな草抜いてみたい。おじさんの真似して、精霊さまにお願いしてみる!」そう言って、ユリアの首にかかる小さな黒い布袋を握りしめ、目をギュッと閉じた。ユリアの真剣な様子から、したいようにさせてあげたほうが良いと判断して、花屋は黙って様子を眺めた。7歳になった後の魔法石鑑定を経ないと力を使えないと現実を言うのも気が引けたのだ。


(精霊さま…精霊さま…いつも私たちを見守ってくださってありがとうございます。ユリアは、この雑草をやっつけて、先生に褒められたいです。そして、ユリア大きなケーキが食べたい!精霊さま、精霊さま、ユリアに少し力をわけてください。)


 ユリアは目をつぶって一生懸命祈った。5歳児の欲に従った素直な祈りである。


 すると何ということだろうか。花壇に生い茂る雑草全体が白い光に包まれた。そしてひとりでに雑草がぽんぽんと音を立て抜けていくではないか。


 あまりの光景に花屋は声も出なかった。予想もしてなかった出来事に目を疑う。5歳の儀を終えたばかりの子どもが、ましてや精霊の加護の鑑定も受けていない子が、そこらの成人した平民でも出来ないような加護の力を持っているとは…花屋はぽんぽんと抜けていくただただ雑草を見つめるしか出来なかった。

しばらくすると道の清掃をしていた大人達が謎の音を不審がって集まってきた。そして音の原因に気がつくと、眼を見開いて固まった。


「ビル!これは一体なんなんだ…!」

「ユ、ユリアが…ユリアが加護の力を…」花屋のビルの溢した言葉に大人たちはざわついた。信じられない…あんな小さな子が…村の人々は黒髪の小さな少女の背中を見つめた。

当のユリアは周りが騒然としていることに気がつくこともなく、目を瞑ったまま、まだ祈り続けている。


 ぽんっ 


 とうとう最後の雑草が抜けた。ユリアはようやく目を開けて、花壇を見渡した。あんなに生い茂っていた雑草は全て抜け、辺りに散らばっている。綺麗になった花壇には僅かばかり小さな青い花が咲いていた。それを見たユリアはくるりと花屋の方を振り返り、満面の笑みでこう言った。





「おじさん!大きなケーキはユリアが食べていいよね!」





第一話 隠れし花

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