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第二十話 エピローグ




 仰天した。


 深夜の空、見上げるMSAの周りには、あれほど集っていた狐火が一つも見えない。

 電気による照明以外はすべて消え去っていた。


 突如現れた銀色の巨人は何なの?

 あんなものは記録にも伝承にもない。まったく聞いたことがない。狐火と妖魔を喰らい、MSAを破壊、霊力の大咆哮を残していきなり消えた。

 伝説の〈でいだらぼっち〉だろうか。けれど西洋甲冑風なのは違和感がある。

 まさかあれが、大鎮守〈おやもりさま〉の顕身されたお姿?


「あれ、何だったんです? 三分間ヒーロー?」

「不思議過ぎるのー。霊力がすっかり凪いでますよ」

「倒れてた人たち、大丈夫なのかな」


 霊力を消耗して身体の重そうなシイノちゃんとカエデちゃん。かなり混乱している。

 私も自分で見たものがとても信じられない。

 霊力の乱れによる幻覚なのか。

 近年では例がないけれど歴史上そうした記録は確かにある。けれど霊感も含めた身体感覚が、あれが実際にあった事だと告げている。


「壊れたのぜったい見たはずなのに、壊れてないのー」

「すごい音で身体が芯まで震えました」

「ちょっとだけ架画井さんの霊力に近いものを感じましたが。さすがにこれは――」


 叩き割られたはずのMSA。けれど今は無傷だ。こんなのあり得ない。

 確かに何かが起きていた。私たちの理解を超えたことが。

 警察と消防の人たちが走り回っている。状況の把握に苦労している様子。事故の痕跡もなく怪我人も要救助者もいないのだから。


「何が起きたか、さよには分かりますか?」

「あの――もうしわけありません。お姉さま」


 答える前にためらう葉。

 やはり何か見えていたのね。

 葉が知らせてくれたおかげで、直前に結界を張り、巨人の凄まじい霊力波を和らげることができた。でなければ私たちは皆気絶していただろう。


「確認が取れましたよ。周辺地区全てで妖魔は消失したそうです。霊力も異常なし。旧再開発地区担当の退魔士以外は緊急召集も解除になります。今回の事態は終息ということです。皆さんお疲れ様でした」


 尾登さんが、ふうと溜息を吐く。

 なぜかMSAから目を逸らしているけれど。うっかり見たら、また壊れた状態に戻って面倒が増えると思ってるのかな。尾登さんも疲れているのね。


「真霜先輩たちは無事でしょうか」

「おそらく先にお帰りになったかと、シイノちゃん」


 緊張が解けたのか、車に乗り込むとすぐに眠ってしまう葉。夜更かしが過ぎたものね。

 この様子だと真霜さんたちは今夜はもう姿を見せないと思う。


「では、私たちも帰りましょう。尾登さん、よろしくお願いします」

「お任せください」


 運転する尾登さんはなぜかホッケーマスクを被ったままだ。

 家に帰るまでがナントやらかしら。



 ◇◇◇



 あの後、えもりんの秘密基地マンションに招かれて休憩した。

 何LDKか知らないけど一家族が余裕で住めそうな広さだった。これで一人暮らしとか贅沢だな。


「美味いな」「うまいよー」「美味いだろよ」


 やたら高級そうなコーヒーメーカーがあった。家庭用とは思えないサイズで音も静か。香りの良い一杯をご馳走してくれるえもりん。リビングのソファも上質で快適だ。


「それでさ、えもりん。壊れたMSAが謎の光に包まれて、あっという間に元に戻ったんだよ。ビックリだよ」

「だよねー」

「そんなアホ話、誰が信じるよ? どんなミラクルだよっ」


 ヒーロー物なんてそんな話ばかりだろうに。


「そう言われてもな。事実だし」

「だよねー」


 えもりんには謎の銀色巨人スーパージャイアントが降臨して悪しきモノを殲滅、ドヤ顔で帰ったと伝えた。気を失ったのは互いの魔力フォースが過度に干渉したからだと。嘘は言ってない。


 俺たちのいるリビングから隣の部屋が覗ける。

 というか、見えるようにドアが開けてある。

 クローゼットルームにしているのか数々のヒロイックな衣装が飾ってある。ワンダーでファンタスティックでジャスティスでXなガーリーコスチュームが。自慢のコレクションみたいだ。


 えもりんがチラチラと期待を込めた視線で誘ってくるが、俺と希理はガン無視。

 これ、触ったらぜったい話が長くなるヤツだし。

 いつか時間のあるときゆっくり聞くからな、えもりん。




 夜明け前に〈転移〉で家に戻った。

 朝食が済むと、伯父さんと伯母さんは急遽開かれることになった御和足みわたり神社の氏子集会に出掛けた。何となく今回の事件と関係ありそうな気がしないでもない。


 希理と二人リビングでテレビを見る。

 早くも昨夜の騒動を各局が伝えていた。

 損壊したはずのMSA〈まがたまスーパーアリーナ〉は一見何事もなかったように日曜日を迎えていた。

 俺が〈神力〉で丁寧に復元したし。

 前よりちょっとだけキレイになってるような気もする。


「意外と、なんとかなるもんだよな」


 施設管理や防犯のシステムが再起動したり警報が鳴り響いたけど深刻な実害はなかったはず。警察や消防も駆けつけ、管理会社の人たちが忙しい目にあったくらいか。ほとんどはから出動になったはずだけど。大混乱の夜間スタッフにも怪我人はいない。


「いやいやいや、普通どうにもならないよこんなの。あきれた力技だよー」

「MSAの復元も結構な人数に見られてたか」

「目の前で起きても信じられないと思うよ。あんまりすぎて」

「復元は一瞬だからな。錯覚と思ってくれればいいけど」


 いつもと変わらない姿のMSA。

 その前で無理に緊迫顔を作るレポーターは違和感たっぷりだ。


「こっちはもっと賑やかだな」

「ネット?」

「うん」


 スマホでチェックするとMSA関連のネタがどこでもトップだった。

 都市部での謎の発光現象と轟音は結構な数の野次馬を集めたようだ。

 闇に浮かぶMSAに群がる大量の発光体と、いきなり現れて腕を振り回す銀色の巨人、そして崩落していくMSAのカタストロフィックな動画がいくつもアップされ、エラいさわぎになっている。

 テレビ番組もそれを引用する形だ。

 映像さえあればいくらでも番組になるしな。後は目撃者インタビューとか付ければいいし。


「なにこれ、すごい迫力だね」

「ドローンの映像かよ」


 巨大レムに大胆に寄った空撮動画が公開されていた。うっかりできないな。けど、迫力あり過ぎて逆にウソっぽい。撮ったヤツGJなのに。


 局地地震かテロか欠陥構造かと賑やかだが、銀色巨人の扱いについては困っているようで、イメージプロジェクションだ、いや新手のバルーンアート、果てはMSAの正体は極秘裏に開発中の人型決戦兵器の発進基地というお約束説まで、言いたい放題だ。独自の画像解析で動画捏造の証拠を掴んだと主張する元気なブログもある。


「うげっ」

「どうしたの?」

「この書き込み。ホッケーマスクって」


 ブラウザを表示したままのスマホを希理に渡す。


「ふむふむ。ホッケーマスクの美少女たちを見た。謎のオカルト乙女集団、ね。だけど顔を隠してるのに美少女って分かるの?」

「きっと相当訓練された紳士がいたんだろう」

「妄想乙なレスばっかだね。助かったかな」


 画像もあるけど遠くて不鮮明だ。

 希理が画面をスクロールする。


「最新の同調型幻覚性ガス散布か? てのもあるよ」

「そんな便利なガスあるかよ」


 そういうデタラメは勘弁して欲しい。


「わっ、えもりんちゃん可哀相」

「どうした?」

「踊る赤ビッチ、って」

「あー。確かに目立ってたしな。微妙に事実だし」


 でもビッチはないよな。

 真実と嘘が混じってるのは当事者からするとかなりハラハラする。知らない人たちからすれば全て妄想ネタにしか思えないだろうけど。

 しかし、ヒーローデビューは遠いな、えもりん。あの衣装はお蔵入りかな。


 結局のところ、騒動の中心のMSAの外観にまったく変化がないので、組織的なフェイクニュースか凝ったイタズラという線で落ち着きそうだ。たぶん鎮静化も早いだろう。M・S・Aが「まさにアリエナイ!」を意味する新たなネットスラングになったくらいか。警察や消防からも特別な発表はないようだ。


 破壊と混乱の映像証拠がどれだけ上がっても、無事な現物がそこにあるのだから映像の方が嘘になる。手の込んだヤラセCGでしかない。

 MSA自己修復機能説と、未来予知空間出現説は、ちょっと面白かったけど。


「俺、原状回復に頑張ったんだから、知らんぷりしてもいいよね?」

「いいと思うよ。ていうか名乗り出ても信じてもらえないし、その手の人が一人増えるだけだよ。しかもいちばんイタい人にされちゃいそう」


 事実を真顔で訴える目撃者を揶揄的に扱う初老のスタジオ司会者が映っている。


「共犯者の同意が得られてホッとしたよ」

「え。私、共犯?」

「ほら。俺たち運命共同体だろ」

「そう――だっけ?」


 俺たち仲間だろ。強い絆で結ばれた同類だろ。目を逸らすなよ。


「えーと。あ、シン君ほら。桜の開花だってさ」

「もう五月じゃん。北海道の話?」

「まがたま市だねこれ」


 テレビには市内各所で突然開花した桜の様子が映し出されていた。

 一月前に散った花がまた咲くなんてM・S・A。


「なんでって――あ、そうか――」

「ふふ。さすがロアムちゃんだね」


 異世界の土の精霊ロアムが力を放出したせいだ。

 桜だけではなく公園の植木や花壇、家庭の鉢植えやプランターまで活性化しているようだ。精霊による自然への影響は計り知れない。植物の生育促進はとくに分かりやすい事象だ。

 当のロアムは反省するでもなく希理の中で寝ている。


「もう七分咲きのところもあるって。お花見しようか?」

「希理さんや、俺たちが行くとロクなことにならないよ。大人しくしてようぜ」


 反動がなければいいけど。大量枯死事件とかイヤだなー。

 きっとロアムや〈おやもりさま〉が何とかしてくれる。うん。

 俺、精霊信じてる。


「なんか疲れたよ。今日はのんびり昼寝の気分」

「だめだめ、こんなに天気がいいんだもん、お洗濯だよ。庭の草取りも」

「俺がやっとくよ。一瞬で」

「懲りてねーなー、こいつも」


 日曜朝のレギュラーコメンテーターの某大学准教授が、MSA騒動を集団催眠という無理筋で語り始めたのを生温かく聞き流してテレビを消す。


「もう、夢オチでいいよな」




 ※この物語はフィクションであり、作中の施設、組織、名称等はすべて架空のものです。



 あとがき


 お読みいただきありがとうございます。ブクマ、評価も感謝です。

 無理矢理な展開にお付き合いいただき、お疲れ様でした。

 今はアレでも、後日読み返すと面白く感じるかも。だといいなー(瞑目)。

 とりあえず全部アラタのせいにしておきましょう。


 本年もよろしくお願いします。

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