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積み木

作者: 朝陽乃柚子

 新しい始まり、今日から彼はここで働き始める。誰にでもできる仕事だが、長年部屋に引きこもりなにもしていなかった彼にとっては、とても新鮮で刺激のある物だった。



 カプセルに薬剤を入れふたを締める、ただそれだけ。だがこの簡単な仕事をすることでわずかなお金と満足感がもらえる。



 彼は一生懸命にネジを閉める。初日はノルマの半分もこなせなかったが、2日目、3日目へ続くにつれて作業量が増えていった。そのことに彼はとても満足した。自分は成長している。その喜びを噛み締めた。



 一週間が経った頃、彼はついにノルマの作業量をこなせるようになった。周りからの祝福を受け、人生で初めて努力を認めて貰えた彼は、自分自身のこともここで初めて認めることができた。



 1ヶ月が経った頃、彼は作業量が全体でトップを取るまでになった。初めてもらった1番は気がつけばあっという間に側にあって、隣で彼を祝福する。



 3ヶ月が経っても彼はネジ締めに精を出す。あれから1番は取れていないが、出来上がったカプセルの山を見ると充実感が生まれる。



 半年が経った頃、彼は少し伸びをしながら作業に向かう。変わりばえのしない日々、かつて1番を取った日の事が随分昔に感じる。



 9ヶ月目に入ると、彼は仕事を休みがちになった。2日出勤したらすぐに疲れ果て、翌日は休んだ。徐々に仕事が嫌になっているのを感じる。



 今日は働き始めて丁度一年目、だが彼の顔に笑顔はない。仕事にも行かず前のように部屋に引きこもっていた。体育座りをし真っ暗な部屋で下を向いていると、部屋のドアが小さく音を立てた、恐らく母がノックをしたのだろう。



 重い体を無理やり持ち上げドアを開けると、職場の責任者の老人が立っていた。そして彼に一枚の便箋を渡す。それを受け取り怪訝な表情をしながら目を走らせる。



 あなたのおかげでこのひまわりが咲きました。ぜひ来年も咲かせて欲しいです、このひまわりを通じてしか、私はあなたに感謝するすべがないのです。



 読み終わった彼の手を取り、老人は何かを握らせた。彼が握った掌を広げると、そこにはいつの日か芽吹きを待つひまわりの種があった。

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