悪鬼羅刹
残暑の残る9月 四国の片田舎 香川にて
深夜2時 田舎の田んぼ道を走る青年がいた
裸に作務衣 手には木刀 足袋を履き
田んぼのアスファルト道を狂ったように疾走していく
半月の灯りが照らす夜道を抜け、薄汚ない神社にたどり着いた
真夜中の神社は不気味なほど静かで
青年は境内の前で一心不乱に木刀を振るう
その姿はまるで悪鬼羅刹のようであった
1章
田舎の進学校で無気力な高校生活を送り
県外の大学に進学したが、授業についてゆけなくなり中退し
地元に帰り鬱屈としたフリーター生活を送っていた
打ち込めるものもなく、友人もいなかった
酒を飲んで泥酔し、家に帰って寝る生活が続いていた
青年は体格も運動神経も優れていたが
それを活かせるものに出会えなかった
高校では柔道部に入りたかったが
人数の少ない進学校では柔道部はなかった
青年は密かに総合格闘技に夢中だった
当時は総合格闘技黎明期で
近しい柔道部に入りたかった
青年は小学生の時はTVドラマ特捜最前線の影響で警察になりたかった
自分でメモ帳に黒い折り紙を糊付けし、警察手帳を作って持っていた
中学生の時は戦争映画の影響で自衛隊に入りたかった
ロッキーから始まりランボー プライベートライアン
プラトーン 地獄の黙示録などを見た
善通寺駐屯地の陸上自衛隊祭を友達と見に行った
しかし親や祖母がとても怒った
自分にはそういう血が流れていて、そっち方面に行くしかないと思っていたのだが、それを否定された
女の考えは男には分からない
男の考えも女には分からない、そう思った
中卒で自衛隊に入るのは諦めて大学にいく為に進学高校に入った
大学を出て陸上自衛隊幹部候補生になりたかった
しかし背伸びをして理系の大学に進学したが為に
すぐ授業についてゆけなくなってしまった
また人間関係にも疎い自分は友達も全く出来なかった
(自衛隊は今や技術職なので、理系が有利
当時は就職氷河期で理系じゃないと就職困難だと思っていた)
基本的には真面目だが人間関係を苦手とし
社会性や協調性が欠けている自分には、難しい方面だった
バイトを始めたかと思うと、大体の仕事内容を把握したら
すぐ辞めてしまう そんな癖がつき
酒や服を買い、お金も貯まらない
自堕落な生活が続き、無気力になっていった
体を鍛えなくては
そう頭ではなく心で感じた
このまま堕落して、年をとるのは虚しい
俺はまだ燃え尽きてない
そして青年は夜を駆け出した