気付かなかった、皆様が悪いんですよ?
悪役令嬢ものにはまっています。
連載が進みません………。ゴメンナサイ。
「…………ヒナ、婚約は破棄させてもらう!
リリィに言った数々の暴言、行った精神的、肉体的暴力の数々!
王妃としての器に、相応しくない!!」
…………ああ。
馬鹿だ馬鹿だとは思っていましたが、ここまでとは、ね。
皆様、初めまして。私は、ヒヅナ・レイアノメと申します。
由緒正しいレイアノメ侯爵家の長女で、少し前までは、この馬鹿王子の婚約者でありました。
…………失礼。
お耳汚しでしたね。
それで…………婚約破棄、と申されましたね。
そもそも、政略的な考えの入った婚約ですので、この男性の一存で破棄はできないはずなのです。
もし、陛下などの許可を得ているのなら別ですが………こんな下らない理由で、許可はないですよね。
あの男性と違って、陛下は良識を持った素晴らしいお方ですから。
ん、あの男性の名前?
覚えてますけど、呼びたくないです。
この間呼べば、「お前に名を呼ぶ事を許した覚えはない!!」と、怒鳴られまして。
…………いやいや、婚約者ですが?
仕方なく殿下、と呼んでいましたが、不仲を疑われて困るのは貴方ですよ?
本当なら、あの男、で十分なんですがね。一応王族ですから。一応。
それから、婚約破棄をしても尚、私の愛称を呼ぶのですね。
そう言えば、私こそ愛称を許した覚えはないのですが。不思議ですね。
それで、この可笑しなお話を進めたいのですが。
それ以前にこの人達、私の話を聞く気、ありませんよね?
件の男性は声高々に、全く覚えのない罪を叫び。
取り巻き———コホン。側近の方々は、煽る様に五月蝿い相槌をうち。
リリィ、と呼ばれたご令嬢は…………いらっしゃりませんね。
彼女と話した事はないので、黒だか白だか分かりません。
あまりに五月蝿いので色々考え事をしていると、あの頭の緩い方々は、私がショックを受けていると思った様で。
ドヤ顔で調子に乗っています。
正直に言っていいですか?うざいです。
周りの方々も、ドン引きですよ?
………ああ、今の状況を説明しましょうか。
夜会会場のステージで、騒いでいる五人の方々。(言わずもがな、件の方々です。)
その正面に、一人立つ私。(エスコート?何処かの誰か様が放棄したので、一人で参りましたが何か。)
そして、私とお馬鹿様方から数メートル離れたところで、見守る皆様。
そうですね…………。二割は興味なし。七割は興味なさげなふりをしながらも、面白がっている。後の一割が、見せ物の要領で楽しんでいる方々、ですね。
…………ああ、この夜会は、各国の方々がいらっしゃる大きなものです。
勝手に下らない理由で婚約を破棄した誰かのせいで、この国の信用はガタ落ちでしょうねぇ。
気の弱い王妃様は…………ああ、倒れていらっしゃる。
陛下も、青い顔で立っていらっしゃいます。
お気の毒に。
「…………殿下、この様なお話は、関係者だけでするものではありませんか?」
取り敢えず、避難をお勧めします。
私だって、愛国心はありますよ。生まれ故郷ですしね。
「何を言っている
ずる賢いお前の事だから、逃げるかもしれんだろう!
ここにいる、全員に証人になってもらう!!」
……………分かりました、殿下の生恥の証人ですね。なんて、言えるはずもなく。
はぁ、面倒臭い事、この上ない。
「ふん、リリィを虐めた悪女が!
逃げ道を失って、もう戦意喪失か!?」
煽りますねぇ。
それ、貴方の首を締めていると分かりませんか?
分かりませんよね。だって、分からないからこんな事になっているんですから。
「………そもそも、リリィ様とは何方ですか?
話した事も、お見かけした事もないのですが」
「それは、貴女が差別をしているからでしょう!
平民あがりの男爵令嬢だからと、貶めていた事は知っていますよ!!」
…………知ってたけど、本物の馬鹿だなぁ。
ところで、私、面倒なのは嫌いなんです。
我慢の限界なので、やっていいですよね?
陛下に目を向けると、青い顔を更に蒼白にしながらも頷いてくださいました。
「私は、その様な意識はございませんが
そもそもクラスが違う上、私は殆ど毎日、王宮か自宅で勉強しておりました
それに…………その様な考えに至り、それを肯定する様な発言をするのは、如何なものかと」
私の言葉の意味を、まだ理解できていないお馬鹿様。
…………ああ、他の方々は、殆どの方が理解されている様で何よりです。
「貴方の言葉は、元平民の男爵令嬢は、貶められても仕方がない、と言っていますよね?」
「なっ、何故そうなるのですか!?」
貴方、本当に宰相様の息子ですか?
次男とは言え、将来が不安でなりません。
「だって、その出来事が起きた事を肯定しているではありませんか
皆様、その場に居合わせましたか?その耳で、リリィ様以外から、その出来事を耳にしましたか?」
そうでないのなら———リリィ様が、虐められる様な存在でないのなら、出来事そのものを否定するはずです。
それをしないと言う事は、リリィ様———もしくは、元平民の男爵令嬢は、貶められても仕方がないと。
そう言っているという事でしょう?
私の言葉に、ようやくお一人、気づかれた様ですね。
それでも貴族としては失格なのですが…………他のお馬鹿様は気付いてません。
「それから、私に虐めを行う暇なんてありません
皆様、私のスケジュールをご存知ですか?」
知らないでしょうね。知ってたら怖いです。
予想通り、皆様———ああ、観客を含めての、皆様が首を横に振られます。
「まず、朝は三時ごろには必ず起床します
それから一時間かけて準備をして、学園登校までの時間に、昨日の復習
ああ、一日中、マナーには気を配りながらですよ
登校してからは、休み時間には世間話をします
侮らないでくださいよ?貴族の情報源は、常に奥様、お嬢様方です
最後の授業が終われば、生徒会の仕事です
報告書に目を通し、学校内の問題点と改善点を洗い出します
それから————今の時期ですと、卒業式、卒業パーティですね
予算や時間を考慮して、計画を立てていきます
協力してくださる方を見繕いながら、副会長や書記の方々と討論ですね
六時頃までそれをして、帰宅をしてからは——————」
「待った!
何だ、そのスケジュールは!?
それに、何故お前が生徒会にいる!?」
…………は、今更ですか?
「何処ぞの元婚約者様が仕事を放棄されているので、私にしわ寄せが来たんです
それからは正式に会計として就任しましたが…………それが何か?」
そもそも、知らない事があり得ません。
このお馬鹿様方、国の恥ですね。イライラは溜まる一方です。
「まあ、とにかく
これで、私がその様な事をやる暇がないと分かりましたよね?」
「うっ………だ、だが!
誰かに命令していたのだろう!!」
………どうしても、私と婚約破棄したいのですか。それとも、濡れ衣が目的ですか?
「そもそも、私にはリリィ様を虐める理由がありません
何故その様な見た事もない方に固執しなくてはいけないのですか?」
これが一番の謎です。
「は?
それは、俺がリリィを気に掛けるから嫉妬して…………」
その言葉を、最後まで聞く事はなかった。
何故か?
…………私がキレたから。
「は?
自惚れもいいところね
この婚約は王家からの打診で、一種の契約。私の意思なんてないに決まってるでしょ?
しかも、怠惰で、傲慢で、鬱陶しい貴方を好きになるわけないでしょ?馬鹿なの?」
「な…………」
誰も、言葉が出ない。
はぁ、不敬罪まっしぐらかぁ。
…………まあ、どうでもいいか。国外に逃げよう。
「婚約破棄?どうぞどうぞ
仕事は押し付けられて
いつも嫌な態度で
こっちは義務でやってるのに、それを当たり前かの様に見下す
私が嫉妬?するわけないでしょ?
むしろ、だいっっっっっっきらい!!!!」
終始無表情。
こんなやつに、表情筋使うとか無駄なだけだし。
ああ、体力無駄にした。
今までの我慢は無駄だったか。
面倒なだけだったし、もっと早くに申告するべきだったかな。
ん、敬語?
いらないでしょ。敬意を払う要素が微塵も見当たらない。
ああ、陛下と王妃様譲りの、顔と立場だけはそうか。性格が全部壊してるけどね。
「…………陛下
私は、この国を出るつもりでいます
いくら相手がこのボンクラと言えど、不敬に変わりありませんし」
「あ、ああ…………」
陛下も混乱されている様子。
「…………図々しいながらも、一つ、お願いしてもよろしいでしょうか」
「…………分かった
今まで、苦労をかけたのだ
遠慮なく申してみよ」
「ありがとうございます
家族には罪を負わせないでいただきたいのです
これは、勝手に私がした事です。家族は関係ありません」
「ああ………
出来れば其方も罪は無くしたいが、面子もある
それに、この国にはもう、いたくないだろう」
流石陛下。ありがとうございます。
…………私は、この恵まれた環境に生まれてこられた事が、幸せでならない。
残念ながら去る事になってしまったけれど、幸せな思い出は、これからの糧となる。
母様、父様、兄様……………陛下、王妃様……………友達になってくれた皆も…………。
「…………今まで、お世話になりました
皆様、お元気で」
心からの笑顔で、笑える。
…………はずなのに、な。
頬を、何か暖かいものが伝う。
私の感情は、嬉しさと、寂しさと…………ぐちゃぐちゃだ。
最後にカーテシー。
今まで培ってきた礼儀作法は、意識せずとも完璧にできるほどだ。
会場には、静寂が響きわたる。
そして、私は振り返り、会場を後にしようとした…………。
そう、しようとした。
「ちょおおっと、待ってください!!!」
私の目の前に、汗だくで、取り乱した様子の可愛らしい少女。
「えっ?」
まさかの展開に、私も、周囲も間抜けな声を漏らす。
「私、リリィ・フェローと申します!」
「え、あ、初めまして」
混乱からは抜け出せない。
「リリィ!」
と、後ろから、お馬鹿組の声が。
…………あ、この方がリリィ様ですか。
お馬鹿組筆頭、馬鹿王子がリリィ様に触れようとして…………振り払われました。
おおお?
リリィ様、どう言う立場なのでしょうか。
「ヒヅナ様、本当に、ありがとうございました!!」
「…………はい?」
私は、初対面のはずなのですが………。
助けた覚えもありません。
「私、その方々に付き纏われてて、怖かったんです!
遠慮なく触れられて、鳥肌はたつし、皆様には白い目で見られるしで………っ!!」
うわ、お気の毒です。
ちょっと………この方、可哀想な被害者では?
「だけど、いつも困っていた時に、ヒヅナ様が助けてくださいました!
ヒヅナ様が覚えていなくても、私は覚えています!」
「………ええ?」
全く分かりません。
「道端で、皆様に注意して下さったり!
教室で取り囲まれていたら、追い払って下さったり!
ヒヅナ様は、本当に私の救世主様です!!」
…………ん?
教室で取り囲まれ………道端で…………ピンクの髪…………あ、分かった。
「いや、あの、感謝される筋合いはありません
通行の邪魔でしたし、婚約者のいる身で女性に群がる様な最低は、目に入れたくなかったので
教室の件は、私は何もしていませんよ
授業の前に早めに来たら、明らかにクラスの違う方々がいたので、注意しただけです」
偶然でしかない。
って言うか、お馬鹿組は尽く馬鹿。
不敬?今更だし。
ストレス発散しないと、やってけない。
「それでも、私が助かったのは事実なんです!
本当に、ありがとうございました!!」
九十度を裕に超えるお辞儀を披露。
あらら………気持ちは伝わったけど、貴族令嬢としてそれは駄目ですよ。
「…………ところで、皆様
リリィ様はこう言っておられます
…………では、そのお話。何処から聞いたのでしょう………?」
凍てつくほどの笑顔で振り返る。
ガクガクと震える皆様。
あらあら、本当に気づいてよかったです。
こんな方々が重鎮につく予定だったなんて、寒気がしますね。
「…………あ、そうですね
一つ、大事な事を言い忘れていました」
首をかしげる皆様。
「殿下、貴方は、王太子ではありません
従って、私が王妃になる予定は全くございませんでした」
間抜けな顔を晒す皆様。
最初に、「王妃には相応しくない」とか言っていたから、頭大丈夫かと思いましたよ。
まさか、本気で信じているとは、ねぇ?
だって、王太子様は健康で、隣国の皇女様との御結婚も済ませていますし。
立派な後継様もいらっしゃいますし。
聡明で、お優しい方ですし。あ、もちろん人望もありますよ?
「殿下、勘違いも程々になさってくださいませ、ね」
***
その後、私は隣国へ逃亡。
(実際は、皆様協力してくれました。王太子様との婚姻で、繋がりもありましたしね)
そして、今では皇宮で外交官見習いやってます。
いやぁ、毎日が楽しくて仕方ない!
………ん?馬鹿王子達?
噂によると、王子は幽閉。取り巻き1、2は廃嫡の上、王都追放。取り巻き3は厳しいお父上にしっかり教育されているとか。4は、行方知れずらしいですよ?
リリィ様?
こっちでお弁当屋さんやってます。
結構人気ですよ。
毎日届けてくれます。美味しいです。
あ、やらかしたのに、私が幸せなのが納得行きません?
……………でも、ね。
気付かなかった、皆様が悪いんですよ?