その9
出ていってしまった。なんで僕あんなこと言っちゃったんだろう。目一杯落ち込んでいたら、ドアが開いた。
「瀬名、外にお前の見舞いって女の子きてるけど、どうする。会うだろう」
タイミングが悪すぎる。こんな気持ちじゃ誰にも会いたくないよ。
「会いたくない」
「どうしてなんだよ。わざわざ来てくれてんのに」
「会いたくないって言ったら、会いたくないんだよ」
思わず怒鳴ってしまった。勝弥はなんとも返事をしてくれなかった。ドアが大きく開く音がする。ため息をついて反省しても遅かった。一度出てしまった言葉は戻らない。またドアを開ける音がして、
「これ彼女からの見舞いだって。お前の好きなケーキだってよ」
箱を僕の床頭台の上に置いてくれたようだった。
「なんで会ってやらないんだよ。寂しそうにして帰っていったぜ」
「だって、こんな格好悪い姿見られたくなかったんだ。勝弥もそうだろう。そんな姿彼女になんか見られたくないだろう」
言ってしまった後で、僕は気がついた。勝弥は一生その姿のままであるということを。「ああ、見られたくないね。だけどさ、どうしようもないよ。俺も隼人もずっとこのままだしな。それより、わざわざきてくれてる彼女断った理由がそれか」
「そうだよ。悪かった」
「悪いと思うよ。凄く話したいことがあったかも知れないじゃないか。聞けるときに聞いておかないと、後で後悔するぞ」
「どうしてそんなこと言うんだよ。別にかまわないだろう」
「俺の経験上言ってやってるんだよ」
勝弥にしては珍しく、話し始めた。
「後悔してるからだよ。いつでもあいつの言葉が聞けるからと思っていたから。今度でいいよなんていってその日に……。もうあいつに一緒俺は会えない。会いたくても会えないんだよ。あいつに謝りたいのに、謝れないままで、中途半端で、この気持ちなんとかしたんだけどどうすることも出来なくって……ずっと俺はたぶん死ぬまでこの気持ち引きずってんのかなって……」
「勝弥ってけっこうイジイジしてるんだね。もっとあっさりしてるんだと思ってたのにな。それこそ行けばいいじゃないか。車椅子でだったら、もうどこでも行けるんだろう。さっさと行って謝ってくればいいじゃないか」
売り言葉に買い言葉。もう、僕の中は泥沼状態だった。こんなこと言いたくないのに、どうしていっちゃうんだろうな。
しばらく沈黙が続いた。そして勝弥が、きっぱりと力強い声で言った。
「そうだよな。勇気だして行ってくるよ。イジイジしている俺から抜け出すよ。ありがとう瀬名。背中押してくれて」
その時の勝弥の声は、晴れ晴れとしていたように僕には聞こえた。
車椅子の音が、僕のそばから離れていった。




