表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

桜の木の下の5秒

作者: Sora猫


「ジリリリ…」


薄暗い朝に鳴り響く音。


「ん~、はっ、やべぇっ!!」


私は目を開ける。


時計の針をみると、6時丁度を指していた。


「まじかよっ、まだ朝早いじゃん。」


そう私は、タイマーを1時間早く設定していたのである。


いつもならここで、2度寝という、遅刻パターンを繰り返すのだが、やけに目が冴えている。


「飯でも食べようかな。」


私は眠たい目をこすりながら、起き上った。


カーテンを開けると外は、薄明るく、鳥の鳴き声は心地よい。


重い扉を開け、階段を下りる。


台所では、母親が味噌汁と玉子焼を作っていた。


「おはよう。」


いつもは挨拶をしないのだが、久々に早く起きたのでしてみた。


「今日は珍しく早起きね。」


平凡な返事が返ってきた。


内心では、俺だって早起きすることくらいあるぞっと思いながら席に着く。


「 …チッ」


早起きは三文の徳とかいうことわざがあるらしいが、なんの徳だってないじゃないか!!


ぼそぼそ呟いていると、味噌汁とご飯、玉子焼きを運んできてくれた。


私はイライラしながら口に運ぶ。


「今日の味噌汁は味が濃いね。」


と嫌味を言ってやる。


「味噌をちょっと入れ過ぎたかしら」


ととぼける母親を横目に、私はクスクス笑うのである。



朝食を食べ終えた私は、歯を磨き顔を洗う。


春という訳の分からない季節のせいで、蛇口から出る水はやけに冷たい。


「よし、顔を洗うぞ!」


と、意気込み顔を洗う。


この拷問は毎朝辛い。


顔を洗い終えた私は、パジャマを脱ぎ棄て、制服を着る。


そして弁当と水筒を鞄に入れ、学校へ向かう。


本来なら、30分後に家を出でるのだが、今日は違う。


学校へ行く途中、腕時計をみるとまだ時間に余裕があった。


私は、いつもと違う道から行こうと、川沿いの道を走ることにした。


川沿いの道の遠くに、一本の桜が咲いていた。


「きれいだな~。」


私はたまには早起きもいいかなと思いながら、その桜の木に近づく。


近づくと、桜の木の下に一人の女性が立ち止っている。


遠目ながら、「どこかのJKだろう」と考えていてると、段々近づいていった。


あれ?


背中まで伸びた長い髪の毛。


細長い手と足は、なんだか可愛く見える。


ちょっとタイプかもって思っていると、女性のすぐそばまで来た。


長い髪に隠れいてた顔がうっすら見える。


髪の毛には桜の花びらが一枚、ひらり。


朝の陽ざしに照らされて反射する、薄ピンクが女性を包む。


私の心の中も、ピンク色に染まる。


「時間よ止まれ」


何度も私は心の中でつぶやく。


しかし、自転車は止まらない。


無情にも私は、女性から離れていく…。


よし明日、同じ時間に、同じ場所にもう一度行って、今度は話しかけるぞ。




(時は流れ・・・・・・・)




あれから、私は何度も何度も女性と出会った時間に、川沿いに咲いた一本の桜の木の下に来てみた。


お陰で、早起きが習慣になってしまった。


だが、何年、何十年と…、一度も彼女に会うことはなかった。


桜の木を見上げるたびに、私は思うことがある。


ひょっとして私は、女性に恋をしたのではなく、このきれいな桜に惚れてしまったのではないだろうか。





おしまい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ