序章
カランコロン
入口の鐘の音が鳴り1人の男らしき人物が入ってきた。その者は席につくと一言。
「酒をくれ」
そう言い放った。フードを深く被ったその人物は声からして男、顔はよく見えなかったが私もこの商売は長い、声を聞けばその人物が未成年かそうでないかは何となくわかる。
「失礼ですがお客様、お客様は未成年ではございませんか?」
「!」
男は一瞬驚いたような仕草を見せた。
「別にいいだろ、この国には未成年は酒が飲めない法律でもあるのか?」
確かにこの国にはそんな法律は無かった。しかし、酒場の店主としてあまりこういった若者に勧めるのは些か抵抗があったのだ。
「もういい、だったら水でもなんでもいいから持ってこい」
「かしこまりました」
しばらくすると、男の前に綺麗な青い色をしたグラスが置かれた。
「こちら、この国で取れたベリーをあしらった特性カクテルでございます。アルコールは入っておりませんが、飲むとリラックスできると思います」
男はそれを手に取ると口へ運んだ。それはスっと口の中にほんのりと甘さと少しの酸味が広がり体の中に溶けていくのが分かった。
「美味いな」
「それはようございました」
「お客様は、異国の方ですか?この辺りでは見掛けないですが」
「あぁ、ベリルという街から来た」
「それはまた随分と遠いところから、ここへは休暇で来られたのですか?」
「俺が旅行客に見えるか?」
男の身なりは破れたフードと黒いズボンに黒い服、見たところ大きな荷物もなく、背中は不自然に膨らんでいた。何かを背負っているのだろうか。
「いいえ、では旅の途中で立ち寄ったのでしょうか」
「…」
男は急に黙り込むと、少し間をあけて話し出した。
「魔物というものを知っているか」
「魔物…、でございますか?はて、魔物…」
「あんたもこういう所で働いているなら少しは耳にしたことはあるだろう」
「確かに、魔物に人がさらわれた。なんて話は時々耳にしますが、たんなる噂話でしょう」
「たんなる噂だと?」
一瞬、ピリッとした空気が流れた。それは殺気にも似たもので、フードの中から鋭い目がこちらを睨みつける。
「噂などではない、魔物は確かに存在する。俺は何度もこの目で見てきた。人が殺されるところも、食われるところもな」
その男が話すことはにわかには信じらりない話だったが、男が嘘を言っているようには見えなかった。
「しかし、人を食う化け物、そんなものが本当にいるのだとしたら、もっと大事になっていてもおかしくないのではないですか?」
「奴らは人の姿にだってなれる、もしかしたら、そいつ自体が魔物になっている場合だってあるんだ。最近この辺りで人が失踪した、なんて話はないか」
「確かにそんな話は耳にしましたが、そんな事この国のように大きな街ですと珍しくはないのでは?」
「そうやって、油断している奴らから順番に殺されて行くんだ。奴らの殺し方を知ってるか?」
「口から体内に入って、生きたまま体内から食われていくんだ」
酒場の店主は一緒に鳥肌がたった。そんな殺され方聞いたこともなかったからだ。店主は恐る恐る男に問いかける。
「で、ですがそれとお客様とどのような関係が…?」
「それは俺が…狩る者だからさ」