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接舷しましょう

 時速1,000キロの相対速度。

 ダイーク号は相手宇宙船の前方に位置取った。

 強制停止クッションを衝突させ、速度を殺す。


 キリは、緊急停止用クッションを手動制御に切替た。

 元々は、ダイーク号用の装備だ。

 今回は、他に停止手段がない。


「キリ、慎重にね。チャンスは一回だけ」

「分かっている。ダイークが助けてくれる」


 本来、強制停止クッションはダイーク号用の装備だ。

 速度を強制的に殺す。

 だから、強い衝撃を宇宙船に与えることになる。

 もし衝撃に耐えられなけば、宇宙船は大きな損傷を受ける。

 粉々になる可能性もある。


 キリは発射口を構えた。

 等しい相対速度の中で、お互いが止まって見える。

 狙うは中心部。

 中心部以外への命中は失敗だ。

 ダイーク号と相手の宇宙船との軸が一致する瞬間を狙う。


「いけっ」

 

 真空の宇宙空間に音はない。

 モニターが宇宙船の位置を示すのみだ。


「どうだ、ユイ?」

「少しづつ、少しづつ、スピードが落ちてるよ」


 モニターが写す相手宇宙船のスピードはゆっくり小さくなっていた。

 ダイーク号との距離が広がっていく。

 強制停止クッションは命中した。

 問題は、速度がゼロに到達するかだ。

 キリはジッとモニターを見続けた。

 

 心臓が鳴る。


 こういう仕事は手が震えてしまう。


 失敗するか、成功するか。

 自分の腕に人の生き死にがかかっている。

 ダイークは成功確率を99%としている。けれども、心のどこかに不安が居座る。

 “もしも”、が起こったらどうしよう。そう思うと、体から汗が出る。


 キリは、深呼吸した。

 こういった、“荒っぽい手”を使うシーンは以外と多い。

 でも、慣れることはない。

 慣れてしまえば、終わりだ。

 人が死ぬのだから。

 

 モニターの速度表示はまだ止まらない。

 速度は時間に意地悪だ。


「時間が掛かるね」

「仕方ないさ。かなりの速度が出ていたからな」

「私たち、こうやって時間を待つこと多いよね」

「時間?」

「私たちが宇宙で遭難したとき、こんな風に二人で待っていたよ」

「あの時は、時間を待っていたんじゃなくて、助けを待っていたんだろ」

「同じだよ。あの時も、今も、宇宙船の故障で困っていた。でも、ジタバタしても仕方がないから、時間を待つしかなかったよ」

「今は、助ける側だ」

「くすっ。そうだね」


 ユイは、時々、二人が宇宙船事故にあったときの話をする。


「キリ、イレギュラーな出来事に出会うと、いつも汗をかくでしょ?」

「緊張するんだから、仕方ないだろう」

「人が死ぬのは怖い?」

「当たり前だ」


 そう、人が死ぬ。

 ユイは、敢えて言葉にする。

 きっと、自分の緊張をほぐすためだ。

 人が宇宙空間を移動できるのは、発達したテクノロジーのおかげだ。

 AIの助けがあれば、腕の良い悪いは意味がない。

 AIを信じることが、宇宙で生き残るためのレッスンだ。


「落ちついた?」

「少しだけ」

「ふふっ」

 ユイは笑った。

「キリ、速度がゼロに近づいている」

「よし、接舷だ」

 キリは、相手の宇宙船への接舷をダイークに命令した。


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