表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/10

昔話し

 昔、宇宙旅行中、宇宙船が故障した事があった。

 宇宙船修理屋業を営む前だ。

 エンジンが止まり、完全に宇宙空間に漂う状態になった。

 船内用発電機は故障し、船内を制御するあらゆる機器が反応しなくなった。

 空気は冷え、音もない。

 食料はいずれ尽きる。

 かろうじて、緊急連絡用通信機のバッテリーだけが生きていた。


 キリ達は、緊急連絡信号を発すると、信号が受信される事を祈った。

 キリ達が乗る宇宙船は二人乗りの小型船。

 何千にも収容可能な大型船と違い、小型船に修理機能は無い。余分な食料も無い。宇宙航行のための機能だけしかない。

 宇宙空間は寂しい。


 バッテリーの残り時間は、地球単位で24時間。

 バッテリーが尽きるのが先か、信号が受信されるのが先か。

 身動き出来ないキリ達は、待つ事しかできない。

(私たち、このまま宇宙空間を彷徨うのかな?)

(分からない。緊急連絡信号は10光年先まで届く)

(10光年って、どれくらいの距離?)

(最新型の宇宙船だと、一週間ぐらいかな)

(最新の宇宙船でもそんなにかかるんだ。10光年ってすごい距離だね)

(誰か見つけてくれるよ。とにかく助けを待とう)

(うん、そうだね)

 助けを待つ間、キリとユイは当てのない会話を続けた。 


 宇宙船が停止する。

 こんな経験は滅多にない。

 全ての宇宙船は自己修復AIを備えている。

 宇宙船用自己修復AIは優秀だ。

 あらゆる宇宙船の故障に対応する。だから、宇宙船に詳しくない素人が、宇宙旅行ができる。

 人の手が必要な場面はイレギュラー。

 想像外の出来事だ。だからこそ、深刻な状況に陥る。


 キリとユイは助けを待つ間、ずっと言葉をかわし続けた。

 他に、やる事がない。

 時間を潰す。不安をまぎわらす。

 理由はいくらでも思い浮かぶ。

 真空の宇宙空間は不気味だ。

 宇宙船の外は、死を待ち受ける世界。

 美しさは心模様で変わる。


 ・・・1時間、・・・5時間、・・・10時間。

 時間が経過する。

 一秒、一分が早い。

 緊張に身が強張る。

 

 バッテリー残量は10分。

 このまま誰にも気づかれない、キリはそう思った。

 その時、緊急連絡用通信機が点滅している事に気づいた。

 “ソチラニムカウ。マタレタシ”

 一バイトのテキストメッセージが届いていた。

 何光年先から送られてきた小さなメッセージ。

 キリとユイは目を合わせた。

 ホッとした。

 ユイも同じ気持ちだったのかもしれない。

 二人手をつないで、ぐったり倒れこんだ。

 心臓が鳴っていた。

 突然の宇宙船の故障に命が打った。

 それに気づかないほど、緊張していた。


 普段は遠くに感じる“死”が側に来た。

 宇宙に生きると、日常的に死を耳にする。

 けれども、自分が死ぬ、という事を考える事はない。 

 どうしてだろうと思う。

 他人は他人、自分は自分、という事なのだろうか。

 死は他人事。 

 

 けれど、ユイと手をつないで思う。

 ユイの死は、耐えらない。

 こうして、手をつなぐと強く思う。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ