2光年
2光年先のSOS信号。
キリ達が受け取った緊急修理依頼の信号までの距離。
地球圏から約1日。と言っても、キリ達が乗るダイーク号にとっての時間距離だ。
宇宙開発が始じまった2世紀前では不可能な到達距離だ。
長距離移動の実現は一世紀前。
超長距離移動可能な宇宙船は未だ一握り。
最新技術を用いられた特殊船だけだ。
ダイーク号はその一握りの一つ。ただし、“中古”だ。
超長距離移動を可能にする最新型エンジン。
最新型エンジンを制御するAI技術。
超長距離に耐える船体部。
最新技術は、何億回の試行錯誤の結晶だ。
その結晶を得るために、膨大な失敗が繰り返される。
超長距離移動を実現するために、何百何千のプロトタイプ船が製造された。
プロトタイプ船は言わば失敗を前提とした船だ。だから、役目を終えればゴミになる。
ゴミとなった宇宙船は宇宙に捨てられる。
宇宙は宇宙船にとって最終行き場だ。
特に、ジャンク屋にとって最新技術を積んだゴミとなったプロトタイプ船は恰好のオブジェクトだ。金が落ちているに等しい。
腕利きのジャンク屋は、そういった金なる“ゴミ”の収集に長けている。
ダイーク号は、そんな腕利きのジャンク屋から手に入れた、捨てられた最新技術を継ぎ合わせて造られた宇宙船だ。
正規船でない。いつもガタを抱えている。だから、いつも修理が必要となる。
言わば、修理屋専用の宇宙船だ。
そんな最新鋭の“中古船”だからこそ、2光年先のSOS信号に対応可能だ。
「お疲れ様。はい、冷えたジュースだよ」
「ありがとう」
倉庫から居住区へ行くとユイが待っていた。
こうしたちょとした気遣いが、嬉しい。
「お、美味しい。これは?」
「ブートに貰ったんだよ。地球産の果物ジュースだよ」
果汁たっぷりだ。酸っぱさに顔がギュッとなる。
宇宙に生きると、こうした地球の食べ物は珍しい。
ブートは宇宙に生きる人の気持ちをよく分かる。
キリ達は修理部品を収納すると、早々にブートのジャンク屋を発った。
緊急修理依頼を受信して、3日が経過している。
まさか、手遅れ、と言う事はないだろう。
宇宙空間の修理依頼は、地球の場合と異なる。
真空の宇宙空間で、宇宙船の故障は死と直結する。
宇宙船が動かなくなればそれまでだ。
空気がなくなれば死ぬのみだ。
だから、緊急の修理依頼信号は冗談で済まない。
「あとどれくらい?」
「まだ地球圏を離れたばかりだよ。あと1日は掛かるよ」
「2光年か。結構遠いよな。ダイーク号でなかったら絶対に間に合ってないよな」
「そうだね。間に合えばいいよね」