ボロ船部品
ブート骨材屋の倉庫はバカ大きい。
中型の宇宙船を数千台収納可能だ。
倉庫の端が霞んでいる。
ブートによれば、ジャンク屋の倉庫としては普通らしい。
宇宙空間は無限だ。だから、大きさに制限を設けるようなことはしない。
好きなだけ大きくすればいいと言うことらしい。
「あっちだ」
倉庫移動用の小型船を降りるとブートは置き場所を指差した。
と言っても、歩ける距離にはない。
キリとユイはブートの後に続いて、移動用レールに乗った。
「依頼のエンジン部品、たまたま倉庫に転がっていたぜ。なんせ、大昔の宇宙船の型だからな。お前ら運が良かったぜ」
「流通していない部品だよね。ジャンク屋じゃないと手に入らないと思ったの」
「多分な。型番は100年以上前のものだった。流石に製造もされてねぇだろう。ジャンク屋に問い合わせたのはいい判断だぜ」
ユイは巨大倉庫に積まれた大小様々な船や部品を見ながら言った。
慣性が働いている。
手すりを離すと転げそうになる。
「でも、どうしてこんな骨董品が必要なんだ?」
「私たち緊急修理依頼を受けたの。急ぎの依頼だから助かったよ」
「はぁ?緊急修理?」
「たまたまSOS信号を受信したの。信号の色は緑。つまり、緊急性が高く深刻な問題みたいたの」
「年代物の宇宙船に乗るなんて命知らずな連中だな。エンジン故障は船が死んだも同然だぜ。その連中生きてるのか?」
生きる、死ぬ。
気軽に口にすべきことではない。
でも、宇宙で生きるといことは死と隣り合わせだ。
「多分ね。連絡があったのだもの。生きているハズだよ」
「がははは。死ぬ奴が悪りぃ。宇宙に神様はいねぇぜ」
そう言うと、ブートは移動用レールを止めた。
錆びれた宇宙船が保管されていた。
デブリ帯に放置された機械類は例外なくボロボロになる。
宇宙はそれだけ過酷な環境だ。
「ずっと前に拾った宇宙船から拾った部品だ。外見はガラクタだが、中身は無事だぜ。動作確認も問題ない。持ってけよ」
キリは修理部品の前に立つと状態を確認した。
「どう、キリ?」
「うん、大丈夫みたい。ブートの言う通りだ」
キリはAIスキャン画像を見て答えた。
スキャン画像は状態をSSと判定している。
「使えそうな物は手入れしているからな。俺としては金になって万歳だぜ」
「ブートは商売上手だ。入金するから確認してくれ」
キリはガジェットを空中に表示させると、画面を操作した。
「お前達、すぐ行くのか?」
「ああ、緊急だからな。ゆっくりは出来ない」
「依頼が済んだらまた来いよ。話したいことがある」
珍しい。
ブートに誘われたのは初めてだ。
宇宙は広大だ。
一生に一度の出会い、なんて言葉は宇宙のためにある。
宇宙に生きると、人との出会いは珍しい。
一欠片の電波受信より小さい。
だから、人との繋がりは疎にも密にもなる。
商売はより人を遠ざける。
損得を割り切れなければやっていけない。
ブートは分のある人だ。
「嫌な予感」
「がはは」
ブートは笑うだけで、話の内容を言わなかった。
キリ達は修理部品の収納作業を始めた。
エンジン部の部品だと人の背丈の何倍もある。
人の力でどうにかなる大きさでない。
キリは倉庫のAIロボにダイーク号に運ぶように指示した。
「ユイ、ダイーク号で待っていてくれ。荷をつ見終えたら直ぐ戻るよ」
「分かった。あまり余裕はないんのだから、早く戻ってきてね」
ユイはブートにお礼を言うとダイーク号に戻った。
「キリ、約束だぜ。仕事を終えたら、ここに寄ってくれ」
「やっぱり、嫌な予感だな」
「そういうな。がははは」
そう言うと、ブートは自身の事務所へ帰って行った。
ユイが言うように、今回は緊急依頼だ。
時間に余裕がない。
ブートの話が気になるが、それより仕事優先とキリは気持ちを切り替えた。