ダイークとの会話
「ダイークはどう思う?」
「依頼者の宇宙船のコトですか?」
「そう」
キリはダイークに尋ねた。
依頼者の宇宙船は寿命を過ぎている。
宇宙船修理屋であるキリは廃棄すべきだと思う。
手に触って、データを見て強くそう感じる。
ただ、宇宙船のシステムであるAIのダイークはどう思うのだろうか。
キリの問いかけに、ダイークはホログラムで姿を見せた。
キリがダイーク号に搭載した、AI用リアリティだ。
小人の姿だ。
ダイークはそっと目を開いた。
「記録を読み取りました。あの宇宙船の修理は今回が初めてではありません。何度も修理が行われているようです。今回のような大きな修理も複数回あります。製造から100年以上経過しているコトを考慮すると、これからの宇宙航行は危険と判断します」
ダイークらしい、ハッキリした言い方だ。
「率直に言えば、廃棄したほうがいいと思っている。あの宇宙船は宇宙航行出来ていることが奇跡だ」
「それは、宇宙船修理屋としての意見ですか?」
「そうだ」
「廃棄するかどうかは、オーナーの判断です。キリの役割ではありません」
「それはそうだが・・・もし、もう一度深刻な故障が発生して、全電源喪失のような事態になれば、取り返しがつかなくなる。デブリ帯の藻屑となってしますかもしれない」
「キリの仕事は、今回の修理依頼を全うするコトです。相手を心配するコトではないはずですが?」
「心配とか、そう言うんじゃないさ。危険な状態をそのままにしておけないと思ううだけだ」
容量を得ない、そんなダイークの表情だ。
「ダイークは、データから状況を解析してキリとユイに伝えるだけです。今伝えたように、依頼者の宇宙船は宇宙航行に危険な状態です。その事をどう思うかはオーナーの問題です」
それ以上伝える事はない、ダイークはそう言っている。
「もし、ダイーク号が依頼相手の宇宙船のようにガタがきたら、ダイークはどう思う?オーナーにどう伝える?」
「どういう意味ですか?」
「廃棄すべきか、何もしないか」
「分かりません。考えたコトありません」
「ダイークはAIだ。宇宙船の状態について分からない事はない。だから、客観的に物事を考えるることができるだろ?」
「ダイークは判断を下しません。宇宙船の状態を正しく伝えるだけです。状態が悪ければ、それを伝えるだけです。宇宙船に限界が来たからといって、そのコトをどうするかはダイークの問題ではありません」
「でも、ダイークは廃棄されたくないだろう?」
「当たり前です。それに、寂しいに決まっています。でも、もし宇宙船に限界が訪れているならば、それに抗うコトは出来ません」
ダイークは真面目だ。
キリから視線を逸らさずに言う。
「悪い。変なことを聞いた」
その通りだ。
廃棄すべきと言いながら、選択肢のない相手に同意を求めようとする。
意地悪だ。
2時間程度、依頼者の宇宙船を修理しただけだ。
でも、宇宙船修理のプロであるキリには十分だ。
結論は決まっている。
迷うのは、どう相手に伝えるか。あるいは、黙っておくか。
それがキリにとっての問題だ。
「修理に戻るよ。ダイークも支援に戻ってくれ」
「了解しました」
ダイークはホログラムを消した。
キリは宇宙用ヘルメットを装着した。
空気が宇宙服に満たされる。
宇宙服に装着されたシグナルが赤から青へ変化した。
キリは勢いよく宇宙へ出た。
ユイが待っている。
キリはダイークとの会話を一旦頭の隅に置いた。
ダイークの言う通り、先ずは仕事を全うすべきだ。
難しいことは、そのあと考えればいい。
キリはそう考えると、修理作業を再開した。