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何にもない朝

作者: 雨月 秋

あさ、目がさめると、おなかがすいていたのですが、食欲がないもので、コーヒー一杯で済まそうと、ふらふらした意識の中で思うのです。キッチンに立って、ぴっぴっと、あたたかいみずをわかします。「なんか、暗いな」待っているあいだ、ふと気づきます。窓の外を見ると、今にも雨が降りそうでした。窓際のかごの中、文鳥のぶんちゃんが鳴きます。今、ここには、わたしとぶんちゃんしかいません。少しさびしいので、テレビをつけました。わたしたちのものではないけれど、笑い声が聞こえました。ピーっピーっと、ふるえるやかんの声も聞こえました。キッチンに戻り、ぴっぴっと、火を止めます。安物の粉末コーヒーのふくろを開けます。ふくろの表面には、「ころんびあぶれんど」なんて書いてありましたが、好きなコーヒーではなかったので、正直、どうでもよかったです。これを飲んで、好きになれたらいいなぁ……くらいの気持ちしかありません。ドリッパーをセットして、ゆくりゆくりと、お湯をそそぎます。じわじわ、フィルターの白が、コーヒーアイス色に染まっていきます。少しだけ入れて、休みます。きゅぅきゅぅ。ぶんちゃんのさえずりが聞こえます。もう一度、ゆくりゆくりと、お湯をそそぎます。少しだけ入れて休みます。ざぁざぁと、雨が降り出しました。もう一度、ゆくりゆくりと、お湯をそそぎます。少しだけ入れて、休みます。あと半分です。プルルルっプルルっと、電話が鳴ります。ママからの電話でした。「欲しいもの、何かある?」と聞かれたので「なつやすみ」って言ったら、「何言いよると?」って小馬鹿にされました。そのとき、はじめてわたしは気づきます。自分の声が鼻声になっていました。最近、くしゃみをすることが多いので、もしかしたら、風邪をひいているのかもしれません。電話を切って、キッチンに戻ります。もう一度、ゆくりゆくりと、お湯をそそぎます。少しだけ入れて休みます。パッと、雨が止みました。テレビから流れる声だけが、部屋の中に残りました。最後に、もう一度、ゆくりゆくりと、お湯をそそぎます。コーヒーアイス色のフィルターの端っこをそっとつまんで、ゴミ袋に、ぽい、と投げ捨てます。出来上がったコーヒーを持って、机の方に、ふらふらと歩きました。コーヒーのいいにおいが、ふわふわしています。手元では、ちゃぷちゃぷと音を立てて、揺れていました。そっと机の上に置きます。そして、そのまま、ぼーっと、テレビを見るのです。きゅんきゅぅ、ちゅ。ぶんちゃんの声が聞こえます。


何にもない朝です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 雨月さん、こんばんは!文鳥、可愛いですよね。行動描写がしっかりと描かれていて、状況を頭で思い描くことができました。朝のコーヒー、いいですね。私は寝起き時気力が下限すれすれな状態なので、台所…
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