第8幕
「もう、やるっきゃない!」
僕は今赤い子供の狼と相対している。
今までこの北の樹海をこれでもかというほど目の前のこいつから逃げた。
だがもう食料も水も底が見えているし、このままでは埒があかないことも直感で感じていた。
だから僕は目の前のこの狼を 倒す!
これまで一週間以上逃げ続けてきたせいですでに足がパンパンで睡眠もろくにとれておらずフラッフラなのだが仕方がないのだ。
食われるよりはマシだ。
でも逃走劇を繰り返しているうちにかなりの違和感を僕は覚えている。
それは他でもなく目の前の狼のことだ。というのも、今だ僕を追ってくるだけでかつて一度たりともあの狼が僕のことを襲っていないということだ。
襲うのだとしたら狼のような夜行性の動物はこちらの自由が制限される夜にいくらでも実行できたはずなのだがそれをしようとしないのだ。
それによく見るとめっちゃ尻尾振りながら遊んで〜とでも言っているかのような素振りさえある。
そんなことを悶々と考えていると
『なんだ?貴様、もう追いかけっこは終わりか?我はまだまだ遊びたいぞ!』
あれ?僕疲れてるかもしんない
今、目の前の狼が喋ったような。
『幻覚じゃないぞ!我はゆーしゅーな狼だから人間の言葉なんか簡単に扱えるぞ!』
やっぱり喋った!!ていうかなんか僕の心を読まれたような
『当たり前だ!今、貴様は既に我のごしゅじんなのだ!貴様はもんすたーていまーなのだろう?ほかの魔物との会話ぐらいしたことがないのか?』
僕の枕…じゃなくてスライムは寝ている間にテイムがなぜか解除されてて、朝にはいなくなっていたしそもそもこの樹海に入ってから地獄のマラソンをしていたせいでこっちにはそんな余裕が無かったわけで…
『そんなことはこの際どうでもいいのだが。 おい!貴様、我を貴様の冒険に連れて行くのだ!』
「え!?え〜〜!!?」
ちょっとまてちょっとまてなんか話がぶっ飛びすぎて理解出来なくなっている。
え〜っとまず僕がこの樹海でこの赤い子供の狼に遭遇して、ステータスが恐ろしく高くて討伐なんてできるはずもないから逃げたらこの狼はずっと追いかけてきて最終的にいつの間にかこの狼は僕のテイムモンスターで冒険に連れて行けとなぜか命令口調で言ってきたわけか。
うーん?訳がわからんな。
でも冷静になって考えてみるとそりゃあこんな強い子をテイムできれば高ランクの冒険者になることも夢ではないであろう。しかし問題だらけだ。第一、この子の親が心配するのではないだろうか?
これで連れていって子供を取り返しにきたこの子の親に襲われたら確実に屍になる自信がある。
それにモンスターテイマーという職業は僕しかなったことがないのだから街で175センチある僕の身体の下半身ほどまである子供とはいえ狼を連れていたら大騒ぎになってしまうかもしれない。いや断言できる。確実になる
「ありがたいんだけど狼くん?その話は諦めて欲しいんだけれど?」
『我の父も母もすでに死んでしまっているし、街の人間にも神狼の子供といえば問題ないのだ』
僕も母親を幼い頃に亡くしている身であるからこの狼が本当は強がっていることなんかはすぐに理解できていた 。なんだろう…この子を放っておかない。
ここで会えたのもきっと何かの縁かもしれないし、それなら
「僕の名前はエデルだ 君は?」
僕が問いかけると目を輝かせて
『我はフルという名だ!これからよろしく頼むぞ!!』
といって尻尾を振りながら嬉しそうに僕のほっぺを舐めてきた。
ヤバいかわいい