第1幕
異世界ものです。ゆっくり楽しんでいってください
「今日でとうとうエデルも二十歳になったのだな あんなに小さな赤ん坊だったお前がなぁ」
「うん!今更改めて言うのも恥ずかしいけどこんなに大きくなれたのも父さんのおかげだよ。ありがとう!」
そうだ、ようやく僕エデルは待ちに待った二十歳の誕生日を今日迎えたのだ
きっと今日という日は僕の人生の分岐点となるはずだ。きっとそのはずである。
「言葉遣いも気付いたときには大人になっていてお父さんは誇らしいぞ」
そう言いうるうると涙を流し始めた父さん。
いつものことです。お父さんは涙もろいんです。"極度の"という言葉が必要なほどにね。
「これを母さんが見てたらきっと喜んでいたんだろうな。是非とも見せてやりたかった」
僕のお母さんは丁度僕をこの世に産み落としてから急激に具合を悪くしてそのまま亡くなったとお父さんからいつしか聞いた。
だから僕はお母さんがどんな人だったかはまるで知らない。ただ美人さんだったと父はいつも自慢していた。
よくそんな父さんの馴れ初め話を聞かされたよ。この街の男の人たちが全員たかるようにしていつも母さんに告白をしていたのだけど皆玉砕され、何故か父さんの告白だけはOKしてくれたのだってさ。
母さんは一体父さんに何を感じ取ったのか分からないけど…うーん?人間性に惹かれたのかな?
そしてそんなお父さんはまた涙を流し始めた。もはやうるうるなんてものではないな、言葉通りまるで目から滝だ。
過去のことを思い出すだけでも父さんは泣いちゃうんだよね。
「と、とりあえずいってくるね!!」
僕は若干引きながら玄関前での挨拶を強引に終わらせて家を出た。
それにしてもあれだけ涙を大量に流しても体の中の水分が枯渇しないのかな?
本当にそのくらい数分の会話で涙を流してた。
あっ!ちょっと説明が遅れてしまったね。 僕がなぜこれほどまでに二十歳になりたがっていたかと言うとこれから冒険者ギルドという場所で成人した人間は必ず通る儀式【職業付与】というものがこの後あるからだ。
この世界での職業というものはその後の自分の人生を大きく分けてしまう可能性のあるもので、一度ギルドからもらった職業は基本一人一つしか頂けない。例外としてお金で強引に自分のなりたい職業になるという横暴なやり方もあると聞くけど貧乏街道一直線な僕の家庭とはどうにも縁がない話だね。
そしてこの儀式はなんでもその人の人格が顕著に表れやすいらしいんだ。未成年の時にしっかりと真っ当な人生を歩んでいる人ならそこまで悪い職業にはつかないと聞くけれど……。
"だけど"と僕が言う理由は【職業付与】がどのような方法で行われているかはギルドの決まりで口外してはいけないというのがあるので、ちょっとだけ怖いんだよね。
ただ、僕はそんなことはどうでもいいと思っている。
「魔法戦士がきたらいいなぁ」
そう、僕は魔法戦士という職業を心から望んでいる。理由?そんなの一つだよ。僕が暮らしているこのビヤルドの街の伝説の英雄がかつてその職業を授かり邪悪なドラゴンを倒し平和を勝ち取ったと言われるソレ。それになりたいんだ。そして僕もそんな力を手に入れて人のためにそれを使いたいと思っているのだ。単純な理由だなだって?でも僕がそれで納得しているからいいんです。
「おいおい見てみろよ!あんな所に伝説の英雄になりたがっている次期英雄様がいるぜぇ〜」
「あいつなんか所詮ハズレ枠【農家】ぐらいが丁度いいだろ。なぁ兄貴?」
「ハッハッハッさすが我が弟だよく分かってるな!そうさ、英雄を夢見てて農家が本当に出たらすげぇおもしれぇなぁ!そのギャップがよぉ!」
街で彼らにあってしまうとは僕もホントに運がない。
馬鹿のひとつ覚えのごとく僕に対する罵倒しかしてこない目の前の2人はノエル家の兄弟でこんなんでも僕より誕生日は3日遅い。 つまり僕が若干、本当に若干年上なのだがそんなのこの2人には関係ないらしい。
金髪のオールバックを決め込んでいるのは兄のカイン。サングラスをして柄の悪さの着こなしを完全にマスターしたかのような服装の奴は弟のトールという
「まぁせいぜい良い職業が出ることを祈ってるんだな!農家なら俺らの家でこれでもかってほど働かせてやるからそんときは感謝するんだな!」
ノエル家はビヤルドの街でもかなり有力貴族だからこの2人はそれを振りかざし、やたらと僕にケチをつけてくるのだ。
今日も相変わらずひどいこと言って風のように去っていった。本当にスンゴイ腹がたつ奴らだなぁ。
まぁあんな奴らに僕の将来の夢をベラベラと話してしまったことが事の発端だからほとんど僕のせいなんだけどねぇ。テヘッ!
そんなバッドイベントを掻い潜りとうとう冒険者ギルドの目の前まで来た。入り口の上には金色のドラゴンが炎の剣に討たれている様子が描かれた大きな盾のエンブレムが飾ってある。勿論さっきの英雄伝説のその人のことを表している。
このギルドの扉を潜れば僕は今より大きな人間になる。きっと…いや絶対に今まで僕を罵っていた人たちを超え…二人目の伝説の英雄になってやるんだ
期待と不安を和らげるため深呼吸を一つして冒険者ギルドへと僕は足を踏み入れた
シリアスものよりギャグものにしていきたいですね