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救世主 1


ー見知らぬ者を簡単に信用するな。事実を確かめもせず動くなー





 アキラは目の前の友人の剣幕にたじろいでいた。


「何で杉浦君と別れたのよ!あんなにお似合いだったのに!!」

 道行く人々が何事かと振り返った。


「シノブ、落ち着いて……」


 杉浦君というのは同じ高校に通う私の元カレで1ヶ月付き合って1週間くらい前に別れた。別れた理由ははお互い合わなかったから。お互い別れようかという話をして別れて今に至るのだ。


「わたし、アキラのために諦めたんだよ!なのに別れるなんてヒドイ!!」


 そんなことをいわれても困る。それはシノブの問題で私の問題じゃない。


「まだ好きなら付き合いなよ。私は合わなかったら別れたんだよ。杉浦君とシノブは合うんじゃない?」


 本当のことだった。杉浦君は自分よりもシノブの方が合うんじゃないかと付き合っているときに何度か思った。


「そんなことしたら私がアキラの彼氏取ったみたいになるじゃないの」


「私はそんなの全然気にしないよ」


「アキラが気にしなくてもまわりが言うでしょ?私のこと彼氏泥棒って。だから、ヨリ戻してよ」


「えー、無理。私はシノブのために杉浦君と付き合ってたわけじゃないし、そんなこと言う子たちはほっとけばいいじゃん」


「イヤよ。わたしは誰からも好かれる人間だもの。周囲から認められるなら付き合うわ」


 うわ、出た!シノブの聖女王様。中学のときからこうだもんな。


 皆に好かれたい一心で色々と我慢する聖女様と、それが上手く行かないときに責任を取らせる女王様の二面性がある。シノブは常に自分の欲を満たしてくれる存在を探していて、友人である私にもこうして女王様の面を構いもせずに押し出してくる。


 私はシノブのためにしてきたことなんて一度もなかったがシノブの方は違っていたみたいだ。


「ね、わたしたちって友達だよね?」


 お願いをするときは決まってこの文句だ。だからといってシノブの欲を満たすために杉浦君とのヨリを戻すことはできない。


「うん、友達だね。だけど、杉浦君とのヨリは戻さないよ。私はシノブのために存在してるわけじゃない」


「は?どの口がそう言うワケ!?わたしはあんたのために我慢したんだからあんたもあたしのために我慢しなさいよ!!」


 シノブの叫び声が響き渡った。周囲の人間が一斉にこっちを見たけれど私は気にしなかった。


「シノブの言う友達って我慢して友達の欲を叶えるの?そんなことを私に求めていたの?」


彼女の暴走を止めるにはこのセリフが一番効き目がある。だけど、今回はそうでもなかった。


「そうよ。だって今までもそうだったでしょ?わたし、アキラに言われてずっと我慢してきたの。だから今度はアキラが我慢する番よ。杉浦君とヨリを戻してわたしを満足させてよ」


 聖女王様を貫き通そうとするシノブの言葉にアキラは愕然とした。


「私はシノブを満足させるための存在だった…?」


「今さら気づいたの?それならわかるわよね」


「私はシノブの欲を満たすための存在じゃないから。そんなに杉浦君が好きなら告白して付き合った方が全然いいよ」


「だからそれはやりたくないって言ってるでしょ!!なんでわからないの?わたしの友達ならわかりなさいよ!!」


ドン。突然シノブに突き飛ばされた。



「っ痛……、…」


 何をするんだシノブ!と言おうとしたが言葉が出なかった。


 アキラはどこかの部屋の床にに座っていた。


 なんだ、ここは……。


 自分の周りを円で取り囲んであり、何かミミズのようなの文字が四方八方に伸びていた。立ち上がってみると、アニメとかゲームで出てくる魔方陣が座っていた場所を中心に書かれている。


 私は夢でも見ているのだろうか。シノブに突き飛ばされた折に頭を打って肉体は意識不明になっているのではないか?


「おや、これはこれは…!!」


 茶色のボロ布を頭の上から被った何者かが気配もなく後ろにいてアキラは飛び跳ねるように驚いた。


「ぎゃっ!?」


「驚かせて申し訳ありませぬ。私は魔術師ダルグワーズ。預言を聞く者でございます」


 深々とお辞儀をしたダルグワーズの顔は仮面に隠されて顔が見えない。怪しさ100点満点だ。


「………………」


 やはり突き飛ばされたときにどこか頭を打ったんだろう。異界とか魔術師とか預言とか、非現実なワードばかり……。やはり夢の中かもしれない。


「これは夢だね。おやすみー」


 魔方陣の中で横になって目を閉じたアキラの目の前でダルグワーズの持っている杖の切っ先がガツンと床に下ろされた。


「これは夢ではございません。現実なのです」


 ダルグワーズが言うには、“2つの世界が交差するとき救世主が現れて世界を救うだろう”という預言が下されていて、私をこの世界に召喚したという。


 夢でも現実でも迷惑だった。大抵この後に来る言葉は決まってる。


「どうか、救世主となってこの世界をお救いください」


 ほら来た。


「断る」


 アキラは間髪入れずに答えた。先程友人だと思っていた人物から、自分の欲のためにその身を差し出せと言われたばかりだ。夢の中ではあるが、この魔術師はシノブと同じことを言っているように聞こえたのだ。


「世界をまたぐほどの召喚術が使えるなら、あなたが救世主になればいい」


「私がなっては意味がないのです。預言通りではいかなくなります」


「いいじゃん預言通りでなくても。史実に適当にかけばいい。私は全然気にしないよ」


「そういうわけにはいきません」


「私は救世主じゃない。そんなに世界を救ってほしいならやる気のある人を救世主にしなよ」


 とにかく私は救世主はやらないからと手をシッシッと振った。


「」


「ダルグワーズ様、騎士団長がお呼びでございます」

 西洋の中世の騎士の恰好をした男性が魔術師を呼んだ。


「ちょうどよい。そこの者、救世主殿は召喚の影響でお疲れになっている。東の塔へ案内してくれ…」

「はっ!」

「ちょ、救世主はやらないって…」

「ほら、この通り強い魔力に当てられて精神が混乱しているようなのだ。1日休めば元に戻るだろう」


 何言ってんだこのボロ雑巾魔術師!勝手に決めるな!離せ……っ……!!


「御免」


 首に衝撃を受けてアキラの意識は暗転した。




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