第二章プロローグ 桜舞う春風に乗って
4月2日。大神庄太郎は電車に乗って秋葉原に着いた。さすがは都会、人が多い。その人混みに圧倒されそうになるもすぐ駅前の大型家電量販店へたどり着いた。
一度は行ってみたいと思っていた場所に到着すると、少し感動があった。
目的は特になかったが店内を適当に周り、本とプラモデルを買って満足して帰ろうとした。
エスカレーターで一階まで下り、駅に向かって出口を抜けると、シュークリーム屋が目に入った。
すると看板に限定100個プレミアムシュークリームと書いてあるではないか。大の甘党である庄太郎はこれは買うしかない、買わない理由などないと思って列に並んだ。
限定シュークリームはいったいどんな味なのか、食感はどんなものか、クリームの舌触りはいかがなものか、いろんな想像が浮かんでくる。一番嬉しいのはその想像を凌駕することだ。
夢と希望が膨らみ、ワクワクしながら並んでいるとついに庄太郎の番が来た。
「プレミアムシュークリームください!」
ここ最近で一番いい声で注文した。
「申し訳ございません、先程売り切れてしまいました」
「なん……だと……?」
ここ最近で一番ショックを受けた。並んだのに買えなかった。ないと思うとたまらなく食べたくなる。しかしそこにシュークリームはない。明日もし地球が滅んだら二度と食べることができない。それはもう生きる希望がないということになる。
ーー終わった……終わっちまったよ……あとは真っ白な灰になるだけさ……
涙こそ出なかったが精魂尽き果てベンチでうなだれていた。
その時、運命が動いた……
「こんな楽しい場所でこの世の終わりみたいな顔して、どうしましたか?」
暗闇の中で一筋の光が見えた気がした。優しい甘い香りもする。顔を上げると同い年くらいの少女が庄太郎の絶望に満ちた顔を覗き込んでいた。
「俺の楽しみが、夢が……希望が、目の前で消えたんだ……」
もちろんシュークリームのことである。
「それは悲しいですね……そうだ、このシュークリーム一つ差し上げます。とっても甘くて美味しいですよ。限定品みたいです」
少女が差し出したもの、それは庄太郎が食べることができなかったプレミアムシュークリーム。目の前で消えた希望がまさに天から舞い降りた。
ーー天使だ……天使がいる……!
目の前に天使が舞い降りたと錯覚した。幻だが光り輝く翼が庄太郎には見える。彼女の優しさが絶望から救ってくれた。
「あ、ありがとう……」
庄太郎は本当に感謝した。すると自然と笑顔になる。
「その笑顔、素敵ですね」
「えっ?」
天使は庄太郎の笑顔につられたのか、理由はわからないが満面に笑みを見せてくれた。よく見なくてもわかる。どこかのアイドルかと思うくらい美少女だ。永遠に感じた一瞬の時、庄太郎は彼女に見惚れていた。
「まいー、行きますよー」
遠くで誰かが天使を呼んでいる。それは天の使いーーいや、ただの女の子だ。
「それでは私はこれで」
決して限定品だからではない、後にも先にもこのシュークリームが一番美味しかったと、大神庄太郎は感じていた。
「まい……か……」
桜舞う春風に乗って、かすかに聞こえた彼女の名前。庄太郎はその名前だけは忘れないだろうと思った。
「やべ、なにもお礼してない……」
ついでに連絡先も訊いていない。庄太郎はいつかどこかでまた出会えたら、必ずお礼をしようと心に決めた。