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青色に誓った約束の光 〜高校野球青春物語〜  作者: 神山ギン
第一章 大神庄太郎 中学編
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第一章05 紀柳学院野球部

「おっ、一輝」


 素振りをしていたやんちゃそうな顔立ちの野球部が一輝に声をかける。高校生だけあって身体つきはガッチリしていた。


「ちーっす陸斗先輩。今日もちょっくらお邪魔しまーす」


 一輝は軽い感じで挨拶した。もうすっかり顔なじみなのだろうと分かって少し安心した。


「今日はツレも一緒なのか?」

「大神庄太郎です。よろしくお願いします」


庄太郎は一輝とは打って変わり真面目に挨拶した。


「一輝と違って丁寧なやつだな」


 陸斗は大神の姿勢に感心していた。この様子から一輝は無礼なやつだったのかと想像した。


「おっさんは?」

「監督ならたぶんいつもの日陰で休んでんぜ」

「あざっす」


 一礼してその場を離れた。監督が日陰で休んでることより、今、その監督のことをおっさんと呼んだことに庄太郎は驚いた。不敵で無礼で気さくなやつ。今のところの一輝に対する印象であった。


「今の先輩さ、守備とかすっげーうまいんだけどよ、打撃が不調だからああやって素振りをずっとやってんだ」


 高校の敷地内を堂々と歩きながら一輝はこの野球部のことを話してくれた。

土曜は自由練習であること。強制はない。監督が休めと言ったらなるべく休まなければならない。文武両道はもちろん、限りある青春ライフを悔いなく過ごせと選手達に伝えているようだ。

話を聞いているとここの監督の指導のしかたに魅力を感じていた。


「おっさん、道具借りていいか?」


 一輝が声をかけた男は。ベンチで横になり、扇風機の風で涼んでいる。目元には帽子をアイマスク代わりに置いて、口元は無精髭を生やしている。

 その男はゆっくり起き上がると大きなあくびをした。頭はボサボサな頭で監督とは思えないほどラフな格好をしている。


「ああ、一輝か。あまってる道具適当に使っていーよー」

「サンキュ。あと、こいつにも貸していいか? さっきそこで知り合ったやつなんだけどよ」

「いーよー。うちは来るもの拒まず、去る者追わず主義だから。お前さんの練習用ユニフォームも詩織ちゃんが洗濯してくれるから自由に使え」

「ありがとうございます」


 礼儀正しく頭を下げた。その後監督は再び横になり目を帽子で隠して休み始めた。なんて自由な監督なんだと思った。

 一輝に連れられてロッカーへ入ると、ユニフォームを手渡され着替えようとした。ロッカーを一瞥するとすでに一輝の名前がそこにあった。監督への態度もそうだが、改めて何者なのだろうと考えた。

 ユニフォームへ着替え、スパイクを履き、左利き用のグローブを借りてグラウンドへ出た。


「あっ、いっくん。今日も来たんだ」


 女の子のマネージャーらしき少女が一輝に声をかけた。背が少し高くて身体のラインが綺麗。髪はポニーテールで顔立ちは整ってる。かなりの美人でこれが東京の女子高生かと庄太郎はドキッとした。


「ま、暇だからな」

「勉強もしなきゃダメだよ」

「ボチボチやってるさ」


 かなり親しげに話してる姿を見て庄太郎は少し羨ましく思った。


「友達も一緒なんて珍しいね」

「は、はじめまして。大神庄太郎です」


 美人に声かけられてかなり緊張してしまった。我ながら恥ずかしいと感じている。


「この野球部のマネージャーをやってる藤原詩織フジワラシオリよ。いっくんとこれからも仲良くしてあげてね」

「はい!」


笑顔を残して詩織は何処かへと行ってしまった。あんな美人を今まで見たことがないため、少し呆然としてしまった。


「なにボケっとしてんだ」

「いやすまん、見惚れてた」

「正直なやつだな……」

「嘘をつく理由ないだろ」


 良くも悪くも基本的に正直者。これのせいでシニアチームでトラブルもあった。


「よし、キャッチボールしようぜ」


 軽く準備運動をした後、一輝に言われるままキャッチボールを始めた。一輝はさすがと言うべきか、フォームも綺麗で球もキレて、とにかくうまい。


「へぇ、なかなかいい肩してんじゃん」


 投げながらだんだんと距離をとっていき、十数メートル離れたところで一輝が呟いた。


「もうちょっと強めに投げていいぞ」


 庄太郎はそう言われると素直に強めに投げた。左腕から離れた球は風を切って一輝のグローブに鈍い音を立てて収まる。


「やっぱ俺の見込み通りか……?」


 一輝はそう呟いた後口元を緩めた。


「なぁ、俺と勝負しようぜ」

「勝負?」

「一打席でいいからよ」

「構わねえけど、マウンド借りていいのか?」

「おっさんに話しつけてくる」


 一輝はベンチで寝転んでいる監督の所へ交渉しにいくと、二つ返事で了承してくれたようだ。なんとも緩い監督だと思ったがこの時はありがたかった。

 偶然出会ったこの男がどれほどの実力者であるか知りたいということもあるが、勝負しようと言われて燃えないはずがない。

 この男に勝ちたいと強く思った。

 監督は立ち上がると少し離れたところで練習している選手に声をかけている。呼ばれた選手はキャッチャーのプロテクターを装着し、監督もアンパイアの格好をした。ありがたいことに本格的にやってくれるようだ。


「一輝と勝負すんのか?」


陸斗が様子を見に来ていた。


「はい、挑まれたので」

「ハハッ、またか。あいつ、うちの投手達にも勝負挑んだんだよ。俺が勝ったらここの野球部に入れろって言ってな」


「すごいっていうか、なんかずうずうしいですね……」

「だろ? でもよ、うちの投手陣は誰にもあいつに勝てなかった……何度やってもだ」

「えっ?」

「生意気なとこあるけどよ、あいつは正に怪物だ。リトルでは日本代表で、中学は都内の名門シニアで一年からずっと5番打者だったってよ」


 陸斗の言葉から察するに、口だけの男ではないと悟った。

 『怪物』と呼ばれた男。そんなやつに今まで出会ったことがない。一人だけ思い当たる人がいるとすれば、それは庄太郎の中学野球を終わらせたあいつしかいなかった。

 あいつからは特別な何かを感じていたが、この姫川一輝からも同じように特別な何かを感じる。

 例えるなら強打者のオーラのようなものだ。

一輝はヘルメットを被り、黒い金属バットを肩に担ぎながら打席へ来た。長い髪を後ろで束ねているせいか雰囲気が変わっている。

 戦う準備はできたようだ。

 騒ぎを嗅ぎつけたのか、何人かの選手が見学にやってくる。その中にマネージャーである詩織の姿もあった。


「そんじゃ、一打席の真剣勝負といきますか」

「ああ」


 庄太郎はマウンドへ歩き出した。怪物と呼ばれた男との勝負、一歩歩く度にワクワクしてくる。


「先に言っとくけどよ、俺に負けても野球辞めたりするなよ」


 一輝は自信満々に言い放った。


「安心しろ、俺が勝つから辞めねえさ」


 庄太郎も負けじと言い返す。


「おまえが何処かの名門シニア出身だろうが、高校生に混ざって練習してようが、怪物と呼ばれていようが……」


 マウンドへ上がると振り返って一輝に強い視線を送った。


「ーー何一つ、俺が負ける理由にならねぇよ……!」


 庄太郎も戦う準備ができた。その気迫に一輝は思わず身震いする。


「いいねぇ……きな!」


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