第一章03 清水の花火
夏休みに入って数日月たち、自宅で受験勉強をしていると庄太郎のスマートフォンに着信が入った。画面を見ると、ただでさえ悪いと言われている 目つきがより悪くなり、不機嫌に応答した。
「もしもし。ただいま受験勉強で大変忙しいです。御用のある方は合格発表までお待ちください」
『なに言ってるのよ。勉強漬けで疲れてるでしょ? 花火いくわよ」』
着信は彩音だった。
「勉強しろって言ったのはお前だろ」
『いいから花火いくわよ』
「どこの?」
『清水港の花火よ』
「あー清水港のか。今日だったんだな」
『それじゃ5時に新静岡駅に集合ね』
「えー……」
『返事は!?』
「……あいよ」
半ば強引な誘いであったが断らず、庄太郎は支度をして待ち合わせの時間5分前に新静岡駅改札前へ着いた。それからしばらくして彩音が到着する。
「おまたせ」
彩音は浴衣を着ていた。水色が主体で所々に花の模様がある。いつもと違う雰囲気に庄太郎の胸が少し締まった。
「浴衣似合うな」
「ありがと。あんたがお世辞言うなんて珍しいわね」
「お世辞じゃねえよ。嘘ついてどうすんだ」
「えっ、あ、ありがと……」
彩音の頬が少し赤くなった。まさか本当に似合うと言ってもらえると思っていなかったのだ。庄太郎は基本的に嘘はつかないが、彩音の外見を褒めることなど今まで無かった。
「行くぞ。電車に乗り遅れる」
「う、うん……」
電車に乗って新清水駅で下車。そこから会場まで無料シャトルバスがある。清水港の花火大会の会場近くは小さなショッピングモールになっていて、食事処やゲームセンターもある。庄太郎達はそれの何処にも寄らず、花火会場へ行き屋台を見て回った。
「よし、あれを食うぞ」
庄太郎が真っ先に向かったのはチョコバナナ。その次にりんご飴、そして綿菓子、最後にかき氷だ。
「あんた甘いものしか食べないのね」
「小遣いを使うんだから食べたいもの食べるさ」
庄太郎は自他共に認める大の甘党。彩音も甘い物が好きであるが、彼女が引いてしまうくらい甘い物が好きだ。
「それじゃお腹すくでしょ。私の焼きそば半分あげるわよ」
「サンキュ」
二人はその後、見やすいポイントまで移動しようと思ったがすでに混雑していた。仕方なく少し離れたところで立って見ることに。どこで見ても見える物は同じだ。
「綺麗だね」
「そうだな」
「花火よりお前のほうが……とか気の利いたこと言えないの?」
「言って欲しいのか?」
「別にいいわよ」
「どっちだよ」
彩音は昔から素直になれない。強がりばかり言ってるが本当は寂しがりやだと庄太郎はわかっていた。
「来年も一緒に来たいな……」
彩音が小さく呟いた言葉をが花火の音がかき消して庄太郎は聞き取れなかった。
「えっ? なんだって?」
「なんでもないよーだ」
彩音はいたずらに笑った。