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青色に誓った約束の光 〜高校野球青春物語〜  作者: 神山ギン
第一章 大神庄太郎 中学編
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第一章02 引退した部活


 放課後になり庄太郎は野球のための足腰を鍛えるためだけに所属していた陸上部の部室に顔出した。今はもう引退している。

 彼が入ってきたことに気づいた後輩たちは姿勢をよくして頭を下げた。


「そうゆう堅苦しいのいいから」


 他の三年生とは違ってその辺は緩かった。運動部の縦社会が嫌いで、そんなもんはくそくらえだと思っていた庄太郎はフレンドリーな先輩でいたかった。と言うのは以前ここにいた先輩の受け売りで、その人はチームの誰よりも優れた選手であるが、庄太郎を1人の男として見てくれていた。それが嬉しくて自分も後輩には同じようにしようとしていたのだ。 しかしながら目つきが悪いせいか、野球のためだと割り切っていて陸上部の競技に対して本気で打ち込んでいなかったせいなのか、陸上部内では怖がられてそれができないでいる。


「滝川いるか?」

「はい!」


 ロッカールームの奥から返事がきた。すると背の高い少年が庄太郎に近づいて頭を下げた。


「お疲れ様です大神さん!」

「だからそういうのいいから」


 この男、滝川浩斗は真面目なやつだ。いつも礼儀正しくて教員からの評判もいい。人当たりがいいから同級生にも人気がある。いわゆるイケメンだ。そして庄太郎と同じ野球のシニアチームの選手としての実力もあると折り紙付き。

 庄太郎達三年生が滝川をキャプテンに指名したのは満場一致で一切の疑問はなくすぐに決まった。


「俺の練習メニューほしいって言ってたろ? 授業中書いてきた」

「ありがとうございます」


 庄太郎は一枚のルーズリーフにビッシリ書き留めた練習メニューを手渡した。それを広げた滝川は目を身広げて驚愕した。


「こんなにですか」

「俺が二年の秋にやったやつはな。三年の時はその1.5倍な」

「そんなに……」

「ま、がんばんな」


 庄太郎は滝川の肩を軽く叩いて部室を出ようとドアノブを捻る。あっさりと帰ろうとする姿に滝川は思わず庄太郎を止めた。


「もう行ってしまうのですか?」

「受験勉強だ。ま、なんかあったらいつでも来な」

「ありがとうございます。受験勉強頑張ってください」

「おう。じゃあな」


 それだけ言うと部室のドアを開けて帰路についた。

 その帰り道、正門を出て左へ曲がり、歩きなれた道をのらりくらりと歩いていると「やっ」のかけ声と共に背中に重い一撃がきた。反動で前につんのめるが倒れはしなかった。振り返るといたずらに笑う彩音がいる。


「だらしがないぞ。引退したからってダラけるな」

「ダラけてねえよ。いてえな。殺す気かよ」


 凶器のスクールバッグを睨みつけた。おそらく参考書でも詰まっているのだろう。かなり痛かった。


「昔のあんたなら避けれたでしょ?」

「昔は背後から命狙われてねえよ」

「でも避けれたわよ。ダラけてるしょーこ。そんなんじゃ高校行ってから差が出ちゃうわよ?」

「トレーニングは続けてるさ。でもよ、今は受験勉強で頭がいっぱいなんだよ」

「ふーん……」


彩音は考え込むそぶりをみせるとはっと何かを閃いた。そのときの顔は大抵ろくな事がないと庄太郎は自負している。


「私が勉強教えようか?」

「いらん」

「えーなんでよ? 英語は私の方が成績いいのよ」

「数学は俺の方が上だ。それにいざとなれば塾でもなんでも通うさ」


 そうは言ってもまだそんな気分ではなかった。受験勉強も大事だがもっと野球がうまくなりたい。強くなりたい。負けた悔しさが焦らせていた。

まだ切り替えていない気持ちのまま勉強を教わるなど失礼だろう。身に入らないだろうから。


「なあ、お前は高校行ったらマネージャーやんの?」

「そのつもりよ」

「ふーん」

「悪い?」

「いーや、違う高校だったら俺の弱点見透かされてやりにくいなって思ってよ」

「その言い方だと違う高校行きたいわけ?」

「いや、そうじゃなくて受かるかわかんねえからさ」


 今更ながら明倭などという偏差値の高い高校に行けるか心配になってきたのだ。だからこそ違う高校に行った場合、自分の事をよく知る彼女が脅威に感じるであろう。


「今から弱気になってどうすんのよ。覚悟を決めたら突き進むのがあんたでしょ」


 篠崎彩音は大神庄太郎のことを理解していた。彼の性格、良いところ悪いところをおそらく本人よりも。


「まだ勉強をやり抜く覚悟なんてできてねーけど、同じ高校だったら頼むわ」

「だったらじゃないの。勉強がんばんなさい」

「へいへい」


 こんなやり取りするのもあと少しだろう。部活をやってた頃はほぼ毎日一緒に帰っていた。方向が同じという理由なだけであったのだが、終わると思うと少し寂しくなる気がしていた。


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