第一章01 名門野球部のある高校に入学するために
7月。これからますます暑くなる時期に大神庄太郎は教室で呆然としていた。
先輩から目つきが悪くて生意気だと言われたタレ目の瞳は覇気がなく、後輩から『元気のバロメーターっすよね』と半分馬鹿にされてたツンツン頭も、ワックスのノリが悪かったのかどことなく元気がない。いつも気を張って締まっている口元もぼんやり空いていた。
その理由は目の前に積まれたこの『山』のせいである。
「まっ、これだけやればギリギリ合格するでしょ」
その山とは机の上にある大量の問題集。十冊までは積まれるたびに数えていたがそれ以降は数えたくなくなり、気づけば一つの山ができていた。
その山を積み上げたショートカットの少女、セカンドを守るチームメイトでもあった篠崎彩音は得意げに腕を組んでいる。ややつり上がっている眼は笑っているようだが、その笑いはこの状況を嘲笑っているように見え、庄太郎は全く笑えなかった。どうやらこの山積みの問題集は知り合いの先輩から大量にもらってきたようで、庄太郎はこの山を一瞥すると大きくため息をついた。
「いままで勉強しなかったツケか……」
志望している名門と言われている野球部がある静岡明倭高校に合格するためにはやるしかないと理解しているが、身体が言うことをきかない。これまでの成績は決して悪い訳ではないが、彼が志望する高校にはまだ実力が届いていない。正直なことを言うと、自分には野球のスカウトがきて楽して名門や強豪の高校に入学できると甘い考えを持っていた。
しかし、全国大会出場どころか一回戦敗退の自分にスカウトなど来ることはなかった
そのため、今彼が思い当たる道は一般入試で合格するしか道はない。
「篠崎も明倭受けるんだっけ?」
「そうよ。悪い?」
「悪かねえけどさ」
篠崎彩音は成績優秀であるため明倭なら余裕で合格するであろう。だからこそもっと上の進学校に行けるはずだから疑問であった。
「がんばんなさいよ」
余裕を感じさせる発言が少し鼻につくも、今はただ目の前の課題と向き合うしかなかった。ペラペラと苦手科目の問題集をめくればめくるほど嫌気が増してくる。
興味のない分野ほど吸収しにくいものはない。学ぶ意思がないのだから。ただ受験のための詰め込み作業でしかない。庄太郎の苦手分野勉強の考えはこうだ。
「あんたがあそこで打たれなければこんなことしなくてすんだかもしれないのにね」
あそことはもちろん先日の試合。見事にタイムリーヒットを打たれて敗北してしまった。
「あいつには必ず高校でリベンジしてやる。次は俺が勝つ」
「はいはい、聞き飽きました」
かなり悔しかった庄太郎は何度もそう言っていた。唯一ヒットを打たれた選手に対し勝手にライバル意識を燃やしていたのだ。この同じシニアチームにいた彩音や他のチームメイト、仲の良い友人は本当に飽きるほど聞いている。
「でも、そのためにはまずは高校に受からないとね。リベンジはそ・れ・か・ら」
彩音の言うとおりにまずは目の前の目標から手をつけようと庄太郎は考えた。