プロローグ
快晴の空の下、静岡県にある野球場は熱気に包まれている。マウンド上の大神庄太郎は白球に息を吹きかけてじっと構えた。
左打席に構える打者は真剣な表情で大神に集中している。睨むとも見つめるとも言い難い視線。庄太郎はそれに重圧を感じていた。
振り逃げで一塁を踏み、盗塁で二塁に進んでいるランナーは、絶妙な距離でリードしている。彼が打つことを疑わず、ホームに帰ることだけを考えているようだ。長打が出れば両者無得点の均衡が破られてゲームセット。抑えれば延長戦。しかし規定により庄太郎はこの回で降板しなければならない。その後は仲間に頼るのみとなるのだが、今はただ、この相手を倒すことのみを考えていた。
庄太郎がここまで許した安打はたったの一つ。目の前にいる男だけだった。
だからこそ味方の期待と不安が二人に向けられている。
そんな中、庄太郎はは深呼吸をし、心を落ち着かせてイメージした。いつも描いている三振のイメージを。
--大丈夫。いける!
自信はある。勝てる。重圧を振り切り気持ちの全てを投球に集中した。
セットポジションから右脚を上げ、力強く踏み込み、白球に全ての力がいくように左腕を振り下ろした。バックスピンのかかった白球はうねりを上げて真っ直ぐにキャッチャーの構えるミットへ走る。球威もコントロールも申し分ない球だ。
そして、この一球が中学公式戦最後の球となった。