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  作者: 多摩川
滅魂編 第一章ヤマト、イズモの女
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一章 第五話異形の美を持つ女

―オオアマミノミコトの宮殿



オオワニヒコ……彼の苦しみは10年前から始まった。

オオアマミノミコトに嫁いだ自分の姉が、正気を失ったのがきっかけである。


そのきっかけを説明する為に、まずは10年前のオオアマミノミコトの話をする。

当時の若きヤマトの国主(きみ)オオアマミノミコトは、覇気に満ちあふれ、北に、東に軍勢を差し向け、多くの国を従えんと欲する、野心的な王だった。

彼の望みを支えていたのが、双神山で取れる石“カンカン石”である。

但し、このカンカン石、彼が自由に扱える物ではない……アワジの大王(おおきみ)の物なのである。

金属の武器が非常に貴重だったこの時代、武装するのに最も適した資材は、緻密な構成を持つ石材だった。

ソレも質の高い石材は産地が(わず)かしか無い。

特に切り口が鋭いガラス質の石材は、ヤマト・カワチ・ヤマシロ・オウミに流通する物が少なく。

スワやオキの島で取れる黒曜石……(ほし)(くそ)か。サヌキ及びヤマトの双神山で取れる“カンカン石”しか無い。

特にヤマト国内で産出する双神山のカンカン石は質が高く、加工すれば槍の穂先、肉をたやすく切り裂く短剣として、十分に使える物だった。

さらにカンカン石は、稲穂を刈る鎌としても、食料を切り出す庖丁としても、ヤマトやカワチの民衆の生活を支えている。


そのような貴重な石を算出する双神山を、アワジの大王(おおきみ)も放っては置かなかった。

先代の大王(おおきみ)御代(みよ)に置いて、現在のアワジの大王(おおきみ)の姉である、娘の大神官ミクリヤノスメラヒメの所領としたのである。

さらに当時の大王は、非常に巧妙な策をこの双神山に張り巡らせる。

オオイズモの国主から、ヤマトを奪い取った際に、この山をアワジの管理下に置き、その被官として、降伏したばかりのイズモの旧臣達を登用したのだ。

こうして大王は、未だ隠然たる力を持つイズモの庇護者となった。

ヤマトやカワチの国主(きみ)に仕官せず、敗北した事で根無し草と化した、当時のイズモの民の新しい主として君臨するアワジの大王(おおきみ)

大王(おおきみ)はこれにより、ヤマトやカワチの国主(きみ)が勝手に武装する事を防いだ。

また天孫の末裔が治める、ヤマト・カワチの国主の領国内にイズモの残党を孤立して配置する事で、彼等が逆らった場合、たちどころに鎮圧できる事も同時に示したのだ。

双神山はアワジのオオキミがヤマト・カワチに影響力を持つ為の、砦の役割を担ったのである。


オオアマミノミコトは父親からヤマトの国主の地位を引き継いだ際、この双神山を我が物にせんと欲した。

自らの野心の実現のためには、双神山のカンカン石、そしてそれで作られる大量の武器が必要だった。

そこで、彼はオオイズモの国主(きみ)であった、ホズミノミコトの娘であり、現在その家臣でもあったオオシバヒコの養女、イサゼリノモモカヒメを4番目の妃に迎えようとしたのだ。

双神山の(みやつこ)オオシバヒコさえ、ヤマトに引きずり込んでしまえば、実質的に双神山を支配できる。

しかし彼の目論見は、間もなく崩れた。

イサゼリノモモカヒメが、男装し、女を辞めたと言いだしたのだ。誰にも嫁ぐ事はしないと彼女は言う。

……こうして、激怒したオオアマミノミコトは早速イサゼリノモモカヒメを召喚したのが、10年前なのである。


やがて呼び出しを受け、宮殿に上がる、イサゼリノモモカヒメ。

当時まだ9歳でしかない……

しかし美しい容貌を持ち、男と比べても長身の身の丈に、惚れ惚れするほど均整のとれた体つきを持った男装の美少女は、オオアマミノミコトの前に姿を露わして、凛として「自分は女を捨てたので、誰の妻にもならない」と答えた。

事実上の拒絶である……

そんなイサゼリノモモカヒメを初めて見た時、オオアマミノミコトは言葉を失った。目から火花が散った様な感じがした。

強い目力を秘めたイサゼリノモモカヒメは、改めて『自分は女を捨てたと』勇敢にもオオアマミノミコトに言う。


……オオアマミノミコトは、そんなイサゼリを罰しなかった。


オオアマミノミコトは、その異形の美に心を奪われてしまったのだ。

自分の物にならないと言ったこの少女を、どうにかして自分の妻にしたいと思った。

彼自身にも妻も居れば、愛妾も居る、しかしそれよりも、このイサゼリが放つ異常な美に心を奪われたのだ。

やがて彼の妻達は、夫から(ないがし)ろにされ始める。

彼は事あるごとにイサゼリに『他の女と共に過ごす事等していない』と囁き、イサゼリの歓心を買おうと励みだしたのだ。


……それは、家族に屈辱を加える。

常に心の内に他人が居る男を、愛する女はいない。ましてや妻ならばなおのことだ。

やがてオオアマミノミコトの2番目の妻だったオオワニヒコの姉は、怒り狂い、嫉妬に狂い、イサゼリを呪いそして遂に心の正気を失った。

彼女は今、ワニ氏の館の奥に居る。

オオアマミノミコトとの間にできた息子に、会う事はもう無いだろうと、皆に思われていた。


……だからオオワニヒコは思う。

(全てはあの女のせいだ……

あの頭がおかしいあの女のせいで、姉も私も苦しんでいるのだ!)


それは半分事実であろう、残りの半分は周りが見えないオオアマミノミコトの愚かさが原因である。だがその愚かさを表に引きずり出したのは、他ならぬ彼女の異形の美しさだ。

オオワニヒコ及びワニ氏と、オオシバヒコを中心とするイズモ衆はこうした事が在って、頻繁に対立を繰り返す間柄になった。


昨日一人で太市郊外に居たイサゼリを辱める為に、狩りで使った弓矢で脅したのは、その為である。

あの一件は実は単なる偶然的な遭遇だったのだが、それがあのエミシ装束の男のせいで、自分の家臣が手ひどい目にあわされる事件に発展した。

最初に手を出したのは、もちろんオオワニヒコの方ではある……

だがいずれは何らかのきっかけでこうなるだろうとは、誰しもが思っていた矢先の出来事であり。話を聞いた者は“ついに来たか”と噂する。


いよいよ正面から衝突する事になる、オオワニヒコとイサゼリ。

オオワニヒコにとってのイサゼリノモモカヒメとは。異形でもって心たぶらかす、邪悪な存在(おんな)であり、家族を不幸に落としめた(にっく)(かたき)(ほか)ならない。

10年……10年もの間家族を苦しめたイサゼリの美。その美しさに振り回され、ついには正気を失った姉とその家族に流れた10年が、今日の彼を異常な熱気と共に支える。


彼は朝が明けるやいなや、すぐに宮殿に参上し、そして後でやって来る筈のイサゼリを待った。

彼は登り始めの日差しの下、宮殿の一角に立って、一人ぶつぶつと口走る。


「イサゼリめ!あの女。

姉を苦しめ、我が家を苦しめたあの女。

今日であいつも終わりだ!

あの女に、必ず思い知らせてやる……」


……その様子は異様だった。

目をギラつかせ、幾度も足をふみならし。

周囲の者を怯えさせる、怒りも(あら)わなオオワニヒコ。

顔は赤く、目は寝ていないのか真っ赤に血走り、そして額のコブが角の様に存在感を放った。


「あの女はまだか!」

宮殿の内部、板の間をせわしなく動き回るオオワニヒコは、待つ事に耐えきれなくなって叫びを上げた。

家臣は膝をついて(かしこ)まり「使者はあの女の元に行っております、間もなく来る筈なのでもう少しお待ちください」と答えた。

「早く連れてまいれ!」

「…………」


オオワニヒコは、そんな家臣に無理な命令を下す。

家臣は黙ってうつむき、返事をしない事でその命令を拒絶するしかない。

ソレを見てオオワニヒコが、感情的になって吐き捨てるように言った。


「どいつもこいつも……

皆、みんな愚か者ばかりだ!」


オオワニヒコは怒りのあまり、心の平静さを失っていた。

その挙動はまるで狂人のようであり、振舞いの全てに怒りが満ちる。

その様子を宮女や、兵士たちが遠巻きに見守った、嘲りと怖れを秘めた目でもって……

オオワニヒコは、普段はこの様に怒りを表に現す性質では無い、彼の家臣は今日の主は狂っているのだと思った。

そうでないと、面目を失いつつある今日の彼に、これからも仕える自信が持てない。


そんな周りの様子が全く目に入らない、異常な精神状態のオオワニヒコ。

彼は昨日から眠る事も出来ず、ままならない全てに怒り、不満をぶつけ続け、その赤々とした目に殺気を(みなぎ)らせ、今日この時を迎えている。

彼はその目でイサゼリが来るのを、今か今かと待つ。




―それから少し時経った頃……


イサゼリは時間をかけて、美しく男性の装いを整えると、ゆっくりとした足取りで、宮殿に参上しようとしていた。

やはり今日の裁判に、気持ちが籠もっているらしく、彼女の装いに隙が無い。


折り目正しい下ろしたばかりの白いウェイ人特有の装束に、落ち着いた色合いの美しい()()いの紐で(すそ)を縛られた(はかま)

黒が美しく輝く、汚れ一つない足の皮靴。

そして腰に巻かれたシズリと呼ばれる帯は、調和をとる様に抑えた色身だが、カラ国からの舶来品と一目で判る、絹で織られた高級品が使われた。

さらに手首を飾る()(だま)も、首や胸元を彩る(くび)(だま)摸色味を抑えた(くだ)(だま)で作られており、そこで使われる勾玉は、全て青色が見事なヒスイである。

男衣装なので化粧はしていないが、唇を綺麗に見せるために、彼女は赤土を砕いた物を舐め、より唇の色を鮮やかに見せた。

こうしてイセザリは、自らの特徴である異形の美を、いつも以上に匂い立つほど美しく飾り立てた。

髪も米糠(こめぬか)で洗って輝かんばかりに仕上げる。

ただしミズラを結う左の紐だけは、先程コムクリが献上したタケミノ方が昔使っていた、お世辞にも美しいとは言えない貧相な紐で結んだ。英雄の加護を願っての事だ。

イサゼリは自らをこうして着飾り終えるや否や、館を後にして宮殿へと向かった。


……そんなイサゼリの後を、コムクリが付き従う。

コムクリは例の木杖を小脇に抱え、胡乱(うろん)(やから)から彼女を守るつもりでいた。


そんな従者役のコムクリの装いは、イサゼリと比べると、より実用的な物である。

髪が肩までしか無かった彼は、ミズラを両耳に作らなかった。ミズラは長い髪の男でないと、美しい物にならないのだ。

なので後ろで髪を束ね、隠す様に頭巾を頭に巻く。

そして服は昨日頂いた、元々オオシバヒコの物を着た。

手には皮で作った手甲(てこう)、脛を守る(きゃ)(はん)を足に巻き、半ば戦いに赴く様な格好である。


イサゼリとコムクリは、太市の道を悠然と歩いて、宮殿へと向かう。

噂話は、もう十分に太市に出回って居る様子で。道中出会う人々は、皆不躾(ぶしつけ)にイサゼリの顔を見た。

オオワニヒコとイサゼリの対決は、彼らにカッコウの話題を提供しているのだ。

道を行くにつれ、徐々に自分達を見る人の目が増えて行く。

やがてそんなイセザリに向け何人かの若い女性が、黄色い声を上げてイサゼリに微笑みかけた。


……美しさが、人目を奪い始めたのだ。

多くの人々はイサゼリを見、そして少なからず好意を示して微笑み、さらに幾人かの男女が、顔を赤らめて通り過ぎて行く。

そして少なくない数の男女が、これ見よがしにイサゼリを意識しながら、話しかける事も無く、顔を怒らせて目の前を通り過ぎる。


彼等、彼女等にイサゼリに怒り向ける理由は無い筈である。

その証拠に敵意やら殺気やらを、こちらに向ける様子が無い。

違和感にさらされたコムクリ。

やがて(どうやら無視はするが、自分の存在をイサゼリに印象付けようとしているのだ)と、察した。


……なぜわざわざそのような事をするのかは、コムクリには判らない。


とにかくそうした人々様子を、イサゼリの後ろで見守っていると。コムクリは世界が彼女を中心に、回っているかのような錯覚を持った。

コムクリはこのイサゼリの容姿が、これほど人々に影響を与えると知って驚く。

自分一人が歩いても、この様な好奇とも、好意とも受け取れる目線を、浴びる事は無かったからだ。


こうして常に他人の目線を奪い取りながら、イサゼリは顧惑的な微笑みを浮かべ続けて、宮殿へと辿り着いた。

宮殿前に居る兵士達はイサゼリの姿を見ると、表情を変えずに頭を下げ、そして後ろに居るコムクリを睨みつけた。

イサゼリは宮殿前を守るこの兵士達に言った。


「ご苦労である、今日は初めて連れ行く家臣が居てな。

先日スワより数年ぶりに帰還した者で“タケル”と言う者だ」


打ち合わせも無くしれっと嘘を吐くイサゼリに、コムクリは驚いた。

目を丸くするコムクリに、イサゼリはニヤッと得意げな笑みを見せ「タケル、挨拶をしろ」と言った。

いきなりの無茶ぶりである。

とにかくコムクリは促されるまま、胸を高鳴らせ「タケルと申します、以後お見知りおきを……」と答えた。


挨拶を受けた兵士は、まずコムクリが持つ、異常なほど太い木杖を見た。

やがて頭を下げるコムクリに「そなた、(かばね)は?」と尋ねた。

(かばね)”は職務を示す名前である。

現在の名字に当たる名前は“(うじ)”と言った。


びっくりして顔を上げたコムクリ。8年前まで(せい)(こう)だった彼に(うじ)(かばね)もある筈が無い。

ましてや正式にイサゼリに仕官しても居ない客人の筈である。

困り果てたコムクリは咄嗟(とっさ)に「イヌカイと申します」と答えた。

昔ワダの集落で犬を飼っていたからだ。

イサゼリはソレを聞くや否や、たまらなくなって、キラキラとした目を見開いた。


一方聞いた兵士の顔はきょとんとする。

「な、なんだその姓は……」


そう言葉を言い始めた兵士の口を遮る様にイサゼリが言う。

「ウム、イヌカイの姓はイズモにはごくありふれた姓である。

故についつい言い忘れてすまぬ。

ヤマトではなじみがないのは無理がない。

実はタケルは8年もの間太市を離れていて、この前ようやく戻って来たばかりなのだ。

慣れぬ者故、振舞いにおかしい所もあろうが、許してくれ」


イサゼリはそう言うと、美しい顔に親しみのある笑みを浮かべ、兵士の顔を見た。

ソレを見た兵士は吊られる様に、僅かに微笑み、イサゼリとコムクリを宮殿の中に入れた。美人は特である。たちどころに信用された……

その様子に、美しさは才能であると、コムクリは痛感する。


とにかく宮殿の敷地に入るコムクリとイサゼリ。

今いる場所から、広い宮殿内の庭を抜けると、目的の建物が目の前にそびえているのが見えた。

コムクリは宮殿の庭を横切る途上、誰も居ない場所でイサゼリに尋ねた。


「なぜあのような戯れをしたのです?」

するとイサゼリは悪戯を楽しむ様にニヤリと笑い「コムクリではエミシの名前であろう、故にタケルとしたのだ」と悪びれずに行った。


(だったら、前々からそう言え!)

コムクリは口にこそ出さないがそう思っていると、そんな事お構いなしにイサゼリが言った。


「上手く行ったでは無いかタケル」

「…………」

「しかし面白かったなぁ、これほど愉快なのは本当に久しぶりだ。

面白かっただろう?そなたも」

「面白くは無い」

「うん?」

「……いえ、面白くはございません」

「そうかそうか、やはりな。

あーっはっはっはっ」


なんと言う意地の悪い振舞いなのかと、コムクリは憤慨した。

だから家臣が居無くなったのか……と、仕返しの様に胸の内で毒づく。

初めて知った事だがイサゼリは人を玩具の様に扱う所が在ると、コムクリは胸に刻み込んだ。


「お前年は幾つだ?」。

イサゼリが不意にそう尋ねるので、コムクリは「確か18でございます」と答えた。

「そうか、ならば私の方が年は上だな、私は19だ」

「そうですか」

「年上の言う事は良く聞くものだぞ、タケル。

しかしそれにしても……思い出しただけで笑える、礼を言うぞタケル、実に愉快だ!」

「そうですか、(ひと)月ほどお世話になります」

やや投げやりにコムクリがそう言うと「お前怒っているのか?」と、からかう様にイサゼリは言った。

コムクリは“当たり前だろ!”と言うのを、寸前でこらえる。


此処で、コムクリはふと自分を見る幾つもの目線に気がついた、遠巻きに何人もの女官が、嬉しそうにこちらを見ているのだ。

やがて歩みを進めて宮殿に辿り着くと、多くの女官が、一言二言イサゼリに挨拶をし、そしてイサゼリから離れると「キャーッ」と奇声を次々と発した。


一体これは何事だ?と思っていると、イサゼリは遠くに向かう女官に微笑む。

するとまた女性の奇声が上がり、その様子を見たイサゼリが「ふふっ、可愛らしいではないか」とのたまった。

聞いたコムクリは、黙ってイサゼリの顔を見る。

するとイサゼリは得意気になって「どうした?お前面白い顔をしているぞ」と言う。

「…………」


コムクリは目の前の女が、奇妙な人だと納得した。

イサゼリは女でありながら男装し、そして女心を(もてあそ)ぶ事を楽しんでいる。

もてはやされることがそんなに楽しいのかと、コムクリは思った。

……嫉妬心が心にうずく。


「イサゼリノモモカヒメ、中に入られい!」

この時ちょうど宮殿の中に入る許可が下りたようで、イサゼリにお呼びが掛かる。

「では、行ってまいる、そなたはココで待っておれ」


イサゼリは一瞬で顔を引き締めると、靴を脱いで階段(きざはし)を登り始めた。

「待って下さい、イサゼリ様」

コムクリはそんな彼女を呼び止めた。


「今日はこの宮殿に邪気が籠もって居ます。

騒ぎが起きましたらすぐに駆けつける為、何処に居るのか教えて下さい」

「邪気が?そなた占卜(せんぼく)もできるのか……」

「“せんぼく”とは何かを知りませんが、森を見、山を見る事で、人や(あやかし)の気配を知ることは出来る様になりました。

今日は我々が来る前から、邪気がこの宮殿に籠もってます。

何か良からぬ事をたくらむ者が居るのは、間違いございません!」


コムクリがそう言うと、イサゼリは起こると言われた争乱に、思わず小首をかしげた。

やがてボソボソと「(いさか)いを“起こす”と言うならオオワニヒコは起こすのであろうな」とつぶやき、やがて彼女は騒動を待ち望む様な邪な笑みを浮かべる。

そしてイサゼリは「ならばまっすぐ来い、いかなる脇道も見ずに来れば、私の元に来れよう」とコムクリに告げ、階段を上った。

コムクリは静かにソレを見送った。


発掘が続けば変わるかもしれませんが、現在の所ヤマトの弥生集落はあまり金属器が無かったとされています。

なので主に使われて置いたのは、当時は石器であったと言う事です。

石器は二上山のカンカン石が使われていた事が多かったようです。カンカン石は別名サヌカイトと呼ばれ、ネットで調べる時はこちらの名前の方が良く通っています。


ちなみに作中で使われるスワの近くにあるワダと呼ばれる場所は、長野県の和田峠をモデルにしています。当時此処がワダと呼ばれていた場所では多分無いと思いますが、ネットで調べるのに限界が在り、やむなくこうした名前にした次第です。

どなたかこの地の古い名前を知っている人がいたら教えて下さい。


ちなみにこの和田峠の人々は黒曜石を、星ぼしのクソだと考えたらしく“星糞”と名付けていたそうです。ロマンが在るんだか無いんだか、良く判らない名前ですね。

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