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  作者: 多摩川
滅魂編 第一章ヤマト、イズモの女
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一章 第一話プロローグ(旅の終わりから)

桃太郎伝説は、現在の皇統に連なる吉備津彦による温羅うら伝説が元になっております。さずがに小説にするには憚りが在り、それよりも500年ほど遡らせ、神武天皇の東征前にあったと、記紀に記載が在った古代大和が舞台です。

しかし未熟な知識で大和だと明記するには、個人的に恐れを抱いたので、そこはぼかして記載する事に致しました。


時代小説に取り組む諸先輩方には申し訳ございませんが、宜しくお願い致します。


小説初投稿です。温かく見守って下さい

アヤの国ラクロウ郡に、ウェイ人の国の一つである、キビからの使者が来たのは8月に入ってからだった。


 

 ラクロウ郡はかつてエイマンと言う男が立てた国が、アヤの国に滅ぼされた後に立てられた場所にある。

 誕生は今から150年前。

 その太守の所在地であるオウケン城は、かつてはエイマンの王国の都であったが。今ここはアヤ人の町であり、アヤの様式の建物が立ち並んでいる。

 町はセンと呼ばれる高さを低く焼いた、平たい煉瓦の塀が長く続き、その塀の向こうに他所よりも窓が少ない家が建つ。

 家の屋根は(かや)ぶきが多い。

しかし大きな邸宅となると、やはりアヤの国本土同様に、瓦と呼ばれる焼き物で天井を覆った。

 当時世界中を見回してもそのようなぜいたくをするのはこの国だけだろう。

 ラクロウ郡の庁舎もまた、そのような屋根を持っている。柱は朱塗り、窓の細工は精緻を極める。


 ……しかし、その豊かさゆえにこの国は常に外敵から狙われる運命を持っていた。


 かつてエイマンの王国が滅び去った後、この地には4っつの郡が誕生した。

 中心となるラクロウ、その南にあったシンバン、東にあったリントン、北にあったゲント。

 しかしその4郡は、ラクロウを残しすべて消滅した、シンバン・リントンは誕生して間もなく、そして百年国の北辺を担ったゲントは今から30年以上前に……コクリ国のムクリ人により滅亡した。

 激しい略奪と、凄惨な虐殺の末に……

 その記憶は今なお新しく、アヤ人の脳裏にこびりついて離れない。

しかも蛮族はこれだけでは無い、南にクタラ・シルラ、そして北のコクリ。全てがゲントよりも豊かとされたこのラクロウ郡を狙っている。

 ラクロウのアヤ人達は、この蛮族を常に叩き伏せ、そして互いに憎しみ合う様に(あやつ)りながら生き延びている。時には連中に利益を与えながら……


 ウェイ人は、そんなラクロウ郡にとって、重要な“操り人形”の一つだった。

 ラクロウの南部、カラと呼ばれる地域。そのカラの地にてクタラ、シルラと言った国々をけん制し、ラクロウの生存に手を貸しているのがウェイ人達なのだ。

 只彼等も油断はならない、彼等はラクロウ郡と国境を接してない為、その間に挟まれたクタラやシルラを攻撃しているにすぎない。

 故にラクロウ郡の外交とは、突出した、国力を持つ国を、カラの地に誕生させず、それぞれがけん制し合う状況を、作る事を目的としていた。



 ―ラクロウ郡、オウケン城太守執務室

使者到来の(しらせ)を聞き。ラクロウ郡の太守であり、チョウセン県の県公でもある、オウマイは首をかしげた。


「キビの国?ツクシにその様な国が在るのか?」


聞き慣れない国の使者が、彼の元を訪れた。

初めて聞く国の名前に戸惑うオウマイに、情勢に詳しい家臣は「いえ、ツクシからでは無くアキツ島にある国だそうです」と答えた。

ツクシの島はカラ人達が住む土地の南に在る島で、ウェイ人が住む。

さらにその奥、外国人が訪れる事が許されない所に、ツクシの何倍も大きな島であるアキツ島が在り。彼等を支配するオオヤマタイの国がそこには在る。

そのこと自体は、太守オウマイも知っていた。

キビはそんな外国に門戸を開かない、アキツ島にある国らしい。


「何の用で使者が来たのか?」

「はっ、なんでも使者が言うには、アヤの国より流れ着いた剣を返納したいと言う事だそうです」

「返納……つまり盗みが在ったのか?」


オウマイはラクロウ郡の倉庫に入った盗人が捕まり、ウェイ人達が律儀に返しに来たのかと思った。

部下は深衣の袖を合わせ、手を恭しく前に出すと「閣下の威徳が、蛮人にもお届きになった証でございましょう」と答える。

「はっはっはっ、そうかそうか!」

「お会いになりますでしょうか?」


オウマイは、この言葉に気を良くし「ならばこちらに連れてまいれ」と答えた。



しばらくしてオウマイの前に、キビから来たと言う使者が現れた。

キビの使者の名前はイヌカイタケルと言う、頭髪は布でくるまれ、衣服は白一色。

ウェイ人は衣服を染めない、カラの国々からの使者とはそこに違いがある。

彼は来るなり膝まずき、二振りの剣をオウマイに差し出した。

オウマイの部下が剣を受け取り、ソレをオウマイの前に在る机に置く。


「使者の者大儀である」


オウマイはねぎらいの言葉を吐きながら、ウェイ人の使者の様子を見た。

使者の男は精悍な顔立ちの男で、身のこなしもまるで弓の様に良くしなる、挙動の一つ一つに何か緊張感を持っている。

手が大きく、指が太くて長かった。

おそらく武人なのだろうと、オウマイは見当をつけた。


「使者殿、どちらから参られた?」

オウマイがそう尋ねると使者は「キビの国主(キミ)イセザリヒコが家臣、イヌカイタケルと申します、キビの国より参りました」と答える。

「ツクシより奥にある国と聞いたが」

「そうです、ツクシからさらに海を隔て、船で10日ほど行った、アキツ島にある国でございます」

「ふむ、豊かな国なのか?」

「オオヤマタイでは大乱が続いておりました、先年ようやく大乱も静まり、これから復興する事になります。

キビも例外では無く、今は戦で傷つき貧しい国です」

「大変じゃのう……」

「御憂慮頂き、痛み入ります」


オウマイは今のやり取りで、この跪く男がなかなかきれいなアヤの国の言葉を話す事に、感心した。

好感が持てる。

オウマイは多少相好を崩しながら「そなたは我が国の言葉が綺麗だな、何処で学んだ?」と尋ねる。

使者は答えた。

「はっ、信じられぬかもしれませんが幼き頃より、かつてアヤの国で王だったと言う(あやかし)の存在に言葉を学びました」

「あやかし?」

「ハイ、このたびご返納する剣はこの(あやかし)の王が、私に返納を命じた物でございます。

返納するのに14年もかけました。

お納めください」


キビの使者はあやかしと言ったが、アヤの国にその様な言葉は無い、アヤカシと言う国も存在した事もない。

すなわち何を言っているのか判らなかった。

明晰だなと思った男が、やはり違和感を放っている事に(彼もまた蛮族だな)と言う思いもし、何よりも心に不信感が湧きたつ。

とにかく心に浮いた、警戒心と共に、オウマイは捧げられた剣を鞘から抜き払った。


「コ、コレは……」

「オオ……なんと」


鞘から放たれ、現れた剣の姿に、オウマイも、そしてその傍に仕える者も感嘆の言葉を放つ。

剣は金、刃は黄金の色。その刀身の側面を精緻を極めた装飾と、文字が鮮やかに彩る。

金は青銅とも呼ばれる。

形から言って古い剣だった。しかし年月は感じさせない。

二振りの剣は未だ生まれたばかりの光沢を失わず、剣の腹に走る見事な模様は、未だ色あせた様子はない。

眺めまわしても錆び一つ浮かばない、金の剣、(すがた)は恐ろしく古めかしい、ケンギョウと呼ばれるアヤの国の南方の都市付近の、古い剣に姿が近い。

ウェイの国で新たに打った剣なのだろうか?しかし未開のウェイで、これほどの剣が作られているとは思えない。


(やはり使者が言う様に、この(アヤの)国の剣なのだろう)とオウマイは思った。


この二つの剣は、刀身の模様がそれぞれ異なっている。

一つは黒い線が踊る剣。

もう一つは白い菱模様が、煌めきながら踊る剣。

……受ける印象はそれぞれに違った。

オウマイは「見事な物だ……」と呻き、その輝きに魅入られる。

やがて、キビの使者は言った。


「黒き剣の名は“転魂”、白き剣の名は“却邪”と申します。

私を導いた王の名はエツ。

剣に文字が刻まれていますが私には判りません、太守様がお読み下さればと思います」


文字は柄の近くに描かれている、転魂は赤、却邪な深い青で表されている。

文字を見るオウマイは「ふーむ、コレは古い文字だ、私にも読めぬ……」と呟く。

アヤの国でも、もう使われぬ文字だ。

(都の大史令なら読めるか?)オウマイはそう思った。

オウマイは剣を鞘にしまいながら「イヌカイタケルとやら、この剣をどうして手に入れた?またどうして戻そうとした?」と尋ねる。

イヌカイタケルは頭を上げ、オウマイの顔を見つめ返しながらこう答えた。


「私の国に“却邪”が辿り着いたいきさつは判りませぬ、古い古い昔にはアキツ島にあったと思われます。

我々の祖先はエツに滅ぼされた、ゴ国の民であると言う言い伝えが在ります。故に一部の国では水神を崇め、親から頂いた髪の毛を切りません。

アヤの国でもそのような伝統が在ると、聞きます」

「そのような風習が在るのは知っている。

それと剣のいきさつとに関係が在るのか?」

「おそらく我々の祖先が、ささやかな復讐として、この剣を盗み出し、我が国に持ち出したのだと思われます。

今は伝承も絶え、私はそのように推測しております」


オウマイは使者の言葉を信じてみようと思った。

これほどの剣をカラの諸国も、ウェイの諸国も作る事は無理である。

使者の言葉を信じる方が自然な気がするのだ。


(それにしても、この使者の口上、振る舞いはなかなか筋が通っておる。

ウェイ人でこれ程堂々とモノを申す者はなかなかおらぬ。

偽りを申している風でもなく、ましてや剣の返却に来るとはな……)


文字も知らぬ蛮族の言葉は、鼻もちならぬ尊大さと、質問にまともに答えられぬ理の無さに満ちている。

少なくとも、オウマイはそう思っていた。

これまで、彼の元に訪れた使者の多くは、原因と結果が結び付かない話を、傲慢な風貌で散々に語ってくれたものだった。

それに比べてイヌカイとやらは(見所が在る)と、オウマイは考えた。

ましてや彼は、綺麗なアヤの国の言葉を話す。好きになれそうな男だ。


オウマイは、口に手を当て、先程よりも柔らかい調子で「それで“転魂”とやらはいかがしてアキツ島に来た?」と尋ねた。

「はっ、あの大罪人“セキオン”が我が国に運び込んだモノでございます」


セキオンと聞いてオウマイの顔が僅かに歪む、彼は此度起きたオオヤマタイの大乱を引き起こした張本人だ。

しかもカラの地域でも、ワイ人の集落を、呪術の研鑽の為と称して幾つも滅亡させた。

その所業に恐慌をきたしたワイ人の多くが、ラクロウ郡に逃げ込み、ラクロウ郡全体を一時大混乱に落としたのだ。


オウマイにとって、憎い名前の一つが現れ、思わず彼は「あ奴はどうなった?」と、使者に尋ねる。

使者は答えた「この手にて、討ち果たしました」と。

「……なんと」


《セキオンを倒した》と、目の前のウェイ人が言った事に驚くオウマイ。

と、同時にあのセキオンを倒した男が、この様に礼儀正しい振舞いを見せる事がおかしくも感じる。

あのセキオンを倒すのだから、もっと虎か熊みたいな男だと思っていた。

その事は胸の内に隠し、オウマイは驚いた次の瞬間、僅かに笑ってこう言った。


「ふ、あの大悪人が死んだか、コレは愉快だ。

セキオンを倒すとはなかなかの武芸。

タケルと言ったか、見事だ」

「は、恐れ入ります」

「剣の話は後に聞こう。

セキオンの最後はどうなった?」

「…………」


イヌカイノタケルは、ココでためらいを見せた。

その表情が嘘をつく時の、コクリ国のムクリ人に良く似ていたのを、オウマイは見逃さなかった。

使者は言う「あ奴めは、誰からも助けをもらえず、オオヤマタイの神の思し召しか、みじめに倒れました」と。

「……ふむ」


こいつは嘘をついている、オウマイはそう感じた。騙されるのは彼の好みではない。

そこで、オウマイは使者に質問を一つぶつけた。


「話は変わるが、使者殿。

そなた“本当の名前”は何であるか?」

「は?」


使者はそのような質問が来るとは考えていなかったので面食らって、間の抜けた声を上げた。

ソレを見て、威圧する様な眼をオウマイは使者の男に差し向ける。


「私には判る、使者殿は自分を偽るのが苦手なようだ……」

「は、ははっ。本当の名前と言われれば、確かにそのような名前を私は持っておりますが……」


オウマイは沈黙し、居抜く様な目で使者の目を除きこむ。

やがて使者のイヌカイタケルは、その威厳にたじろぎ、その緊迫した雰囲気に押し出される様にこう答えた。


「私の名前は、私の主から頂いたモノです。

私に名前を授けた養い親からは“コムクリ”と呼ばれておりました」

「ふむではコムクリ、偽り無く申せ、セキオンはいかがして死んだのだ?」


此処でイヌカイタケルは、嘘をつく事も出来たであろうが、ソレを許す様な気配を、オウマイは発しない。

雰囲気も変わり、嘘をたちどころに見破られてしまう予感が、使者の心に満ちて行く。


……ただ剣をオウマイに渡す為に来たのではない、彼には“使者”の役目が在った。

ラクロウ郡の太守である、オウマイに嫌われまいと思う気持ちが、彼に鉛の様な唾をのみ込ませ、そして真実を吐かせた。


「……さすが“キビの冠者”と、言われる様な雄々しき戦い方で死にました。

しかしツクシのナ国の王は奴によって鬼に変えられ、ヤマトのオオアマミノミコトは策略によって、死にました。

オオヤマタイの大王(おおきみ)も死に、今はミクリヤノスメラヒメを新たに大王(おおきみ)にお迎えし、国を再建しております。

あやつめは悪しき者であります。

どうかご理解のほどを……」


アキツ島も複雑である、オオヤマタイ大乱をもたらしたセキオン。

見事な勇者らしく戦ったと、使者は評せない。キビの国主(キミ)に仕える彼にも立場が在るのだろう


興味を掻き立てられたのでオウマイは尋ねた「なぜ、セキオンはそれほどまでの力をつけたのだ?」

使者は答える「セキオンはキビの国を治め、かの国を大国にしました。

それまではオオヤマタイの国に搾取されるのみの国であったと聞きます。

そして、それを可能にしたのが“転魂”の剣です」

「この剣がか?」

「はい“転魂”の剣は鬼が封じ込められております、セキオンの正体はその鬼でございました」

「……にわかには信じられぬな」

「セキオンがアキツ島に引き連れた鬼は他に七体。

”掩日” “断水” ”懸剪” “驚鯨” ”滅魂” “真鋼”そして目の前にある“却邪”。

アヤの国に仇名すつもりであった、鬼達でございます。

その全てを討ち取りました、そして、その過程に置いて、オオヤマタイの国は半ば崩壊したのです」

「…………」

「お聞きになりますか?セキオンの事、我々の事を?」

「うむ……」

「太守様、話の途中ではございますが、お願いしたき事がございます。

どうか我が国を、お助け願えませんでしょうか?

ツクシの国々は今や食うモノも事欠く有様。

どうかシルラ、クタラの国に停戦をお命じ下さりませ。

あ奴等は、我が国の窮状を見て、戦の準備を進めております。

もし、停戦をお命じ下されば我々は未来永劫、アヤの国に恩を感じる事が出来ます。

どうか我々にご慈悲を……」


シルラ、クタラはカラの諸国に一つである。

そしてウェイ人達が住むミマナ、クヤカラの事をずっと狙っている国で、どうやら戦争の気配が在るらしい。


(なるほど、ただ剣を返しに来た訳ではないと言う事か……

まぁ、そうだろうなぁ)


これほどきれいな言葉を話す人間を送り出すのだ、ウェイ人達も今回の使者を重要視しているのだろう。

今彼が発したお願いこそが、イヌカイタケルの本当の目的だと言うのは、合点がいく。

とは言えオウマイは、使者の頼みがラクロウ郡にとって悪い頼みだとは思わなかった。

クタラやシルラがこれ以上強くなるのは、ラクロウ郡の太守として歓迎できないのだ。

使者の願いを聞き届けるのも悪くはなさそうだと、彼は計算高く考える。

そこで「分かった、シルラ、クタラに使者を送ろう」と、オウマイは答えた。


使者は「ありがたき幸せ!」と言って、深々と頭を下げ、安堵の表情を浮かべる。

使者の願いを聞き届けたとしても、別にラクロウ郡の懐は痛まないのである、聞き届けやすい願いだった。

オウマイは言葉を続ける。


「それでは“コムクリ”話を聞かせよ。

鬼どもはいかがして、そなたらに討たれたのだ?」


コムクリと呼ばれた使者は、頭を上げると静かな口調で口を開いた。

「今から4年前の事になります……」





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結構豆腐メンタルなので、反応が在った方が嬉しいです。下らない雑談も大歓迎です、なんでも良いので送って下さい。


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