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国落としの勇者様  作者: 新聞紙
第一章 悪魔殲滅編
3/12

第三話 とある王女の依頼

 寝落ちして、投稿が遅れてしまいました。

 あと、プロローグの文章中の表現を少し変えましたが、内容に変化はありませんので、ご報告だけ。

 青年に連れられ、少女が辿り着いた先は、町の通りの中にある目立たない小さな平屋だ。平屋の端には申し訳程度に『何でも屋』と書かれた木製の看板が置かれている。


 「ささっ! 狭いけど、どうぞ入って」


 「失礼します……」


 平屋の入口は簡易的な木の机が置かれ、ちょっとした受付のような形になっている。奥の方が居住スペースとなっていて、外見よりも広く見える印象を受ける。


 「何か飲み物でも出すから、適当に座ってて」


 そう言って、青年は恐らくキッチンと思われる場所へ消えていく。


 少女は言われた通り、その場に幾つかあった木製の椅子の一つに座って、部屋を見渡してみた。全体的に物が少ない。整理されているというより、整理が必要なほど多くの物を置いていないといった感じだ。


 「はい、どーぞ」


 しばらくすると、青年は二人分の紅茶を持ってきて、片方を少女に手渡し、自らも適当な椅子に座った。


 「ありがとうございます」


 少女はお礼を言って、軽く紅茶を口にする。それほど高価な物には感じなかったが、淹れ方がいいのか少女は予想よりもおいしく感じられた。


 そして少女は自分を助けてくれた青年を改めて、観察してみた。


 夜の闇を思わせるほどの深い黒髪は首元で切り揃えられていて、こちらを見る金の瞳は髪の色と相まって夜闇に浮かぶ月を連想させる。面立ちは人当たりの良さそうな感じの良い顔つきをしているが、どこか悲しさを感じさせるその雰囲気に少女はなぜか視線を外せないようだった。


 「……。あの……そんなに見つめられると流石に恥ずかしいんだけれども……」


 「ご、ごめんなさい!」

 

 自分のしていた事を自覚して、思わず少女は赤面する。


 「え~……まあ、これも何かの縁という事で名前だけでも言っておこうか。俺はルークス・ブラッド。ここで何でも屋をやってるよ。あなたは……多分だけど、クロエ・エルメリア殿下かな?」


 「……!? どうしてそれが?」


 少女は驚いた様子でルークスに聞き返す。


 「隣国、ルクスリアの王家には桃色の髪を持った美しい王女様がいるって有名だからね。あとは……勘かな? 一般人ならあんな見るからに面倒事に巻き込まれるはず無いよね」


 そう言ってルークスは楽しそうに軽く笑う。その雰囲気に釣られて、今まで少し緊張した様子だったクロエも思わず笑ってしまう。


 「それで? 君はどうしてあんな目に? 護衛の一人もいない様子だし、おまけに此処はルクスリアと接しているとはいえ、隣国だよ?」


 ルークスのごく当たり前に抱くような疑問に、クロエは楽しそうだった様子を沈めて神妙な面持ちを見せる。


 「私も、こんな事になるとは思っていませんでした。……。あの! ルークスさんは何でも屋なんですよね? 護衛の依頼を請け負ったりは出来ますか?」


 「それは……まあ、受けたりもするけど」


 ルークスのその言葉を聞いたクロエは神妙そうだった顔を途端に嬉しそうな様子に変えた。


 「なら、私の護衛依頼を受けてもらえませんか? 報酬は……今は手持ちが無いので、王城に辿り着いてからという事になるんですけど……」


 「報酬が先でも後でも俺は気にしないけれど、さっきの質問に答えてもらえないと、依頼を受けられるかどうかの判断が出来ないよ」


 「それは……」


 ルークスの言葉にクロエは沈黙で答える。しばらくクロエは思い悩む素振りを見せたようだが、申し訳なさそうな様子で口を開く。


 「申し訳ありませんが、話す事は出来ません。私が追われていた理由は国に関わる程、重要な事なんです。お金は相当額お支払いしますので、どうか受けて頂けませんか?」


 「……。それは……無理です」


 その言葉を聞いたクロエは驚いた様子だ。


 「ど、どうして……。私、見ましたよ! あなたの実力を。私も多少剣術を習っているのですが、あんな動きは私の剣術の先生でも出来ないと思います。あなたならきっと――」


 「そういう問題じゃない」


 ルークスは今まで温和そうだった雰囲気をスッと変えて、王女クロエの言葉を途中で遮る。王族の言葉を途中で遮るのはかなり失礼なことに当たるのだが、この場では咎める者などいなかった。


 「人の命は一つだ。護衛の依頼には危険の難度に大小はあるが、死ぬ確率はどれもゼロじゃない。特にあんたの抱えている事はどう考えても危険だ。あんたの言っている事は、会ったばかりのあんたのために、俺に取りあえず死んでくださいって言ってんのと大して変わらない」


 「わ、私はそんなつもりで言ったんじゃ――」


 「それに、だ。俺はそれが無くてもあんたの依頼を受けるつもりはない」


 「それは……何故ですか?」


 ルークスは座っていた席を立って、クロエに背を向ける。


 「……俺の仕事の方針だよ。俺は目立つような事はしない主義なんだ。金が今無いっていうなら、金貨一枚をあんたにやる。それを使って自分で何とかしてくれ」


 「……!? 金貨1枚ですか!? 大金じゃないですか! それこそなんで見ず知らずの私に……」


 ルークスはその質問には答えず、近くにあった鉄製の箱を懐から鍵を取り出し開けて、中から金貨を取り出し、机の上を滑らせてクロエの目の前に金貨を置いた。


 「今日はもう遅いから、家に泊まるといいよ。ただ、それ以降はその金を使って自分で何とかして欲しい」


 「……」


 クロエは俯いたまま、膝に置いていた自分の掌をぎゅっと握りしめる。


 「な……なんで……絶対、あなたの実力なら出来るはずなのに……私一人じゃお金があっても……」


 「……。悪いね」


 クロエはルークスの否定の言葉を聞いて今まで我慢していた何かが溢れだしたのか、静かな嗚咽と共にぽたぽたと涙を流し始めた。だが、それでもルークスは振り返ろうとはしない。


 「時間が……ないのに……このままじゃ……あの子達が……生贄にされちゃう……」


 クロエは嗚咽と共に小さな声でそんな言葉をぽつぽつとそんな言葉を口から漏らした。それは蚊の鳴くようなか細い声だったが、その僅かな呟きにルークスはピクリと反応を示した。


 「…………。な~んてね! うそ、うそ、依頼は受けるよ。いやあ~、ちょっと意地悪するだけのつもりだったんだけど、泣くなんて思わなくてさ! ごめんね! お詫びに晩御飯御馳走するからさ! ちょっと待っててよ」


 「……えっ」


 今までの雰囲気がまるで夢幻ゆめまぼろしだったかのように、ルークスの態度は一変する。溢れだす、どうしようもない感情から泣いていたクロエだったが、そのあまりの豹変ぶりに思わず流れていた涙も止まってしまった。


 クロエの反応も見ないまま、ルークスはそのまま台所の方へ行って、本当に料理の準備をしてしまった。


 それに対してクロエはしばらく放心状態だったのだが、ハッとしたように意識を取り戻すと、慌ててルークスの近くに駆け寄った。


 「あの! 依頼を……受けてもらえるんですか?」


 「おう! 任せといて! 依頼は必ず成功させるさ! クロエ殿下は安心して着いて来てもらえればいいよ」


 「ど、どうして……」


 「依頼を受けた理由? あ~……気にしなくていいよ。殿下はとりあえず無事に王城に着ければいいんでしょ? なら、安心して帰れる事を喜んでればいいさ」


 「……殿下は止めてください。クロエでいいです。……それで……受けてもらえるなら、報酬はどれだけをお望みですか?」


 その言葉を聞いたルークスは一旦調理の手を止めて、クロエの方に向き直った。




 「金は要らない。俺への報酬はあんたが追われている理由を知ることだ」


 


 


 

 


 


 

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