気になる二人
あの事件からしばらく経った日曜日。私はエリカに約束を果たして貰うべく、街へ繰り出すことにした。
「大丈夫かしら」
「大丈夫だって。その為にルカとフォルテさんがいるんでしょ?」
「そうだよ。俺はともかくフォルテさんがいるなら安心だろ」
「そうですね、そう思っていただけるよう頑張ります」
従騎士の格好をしたルカと、今はこの国の騎士服を着た隣国の騎士さんことフォルテさん。
まだ警戒警報が出ている街では、騎士隊所属の人たちには休暇であろうと隊服の着用が推奨されていて、ルカも従騎士の上着を着て行くつもりらしい。
フォルテさんは向こうのお家騒動が落ち着くまでこっちにいるそうで、エリカの護衛をするにあたってそのままの服装では目立つから、この国の騎士服を借りているのだそうだ。
「どこ行くか決まってるんだっけ?」
「うん、パフェ奢って貰う約束だから!」
不安そうなエリカをフォルテさんに押し付けて、私はルカと手をつなぐ。
2人は恥ずかしそうに、でも護衛だし、まだ不安だしと理由を付けて手を握っていた。
「青春だねぇ」
「応援したいよな」
実は幼馴染らしいエリカとフォルテさんはじれじれするほどお互いに矢印が出ていて、見ているとにやにや出来る。他人事なら恋愛は大歓迎ですありがとうございます。
私はと言うと、街に出ること自体の不安はもうとっくに無くなっていた。だって、ルカがいつもいてくれる。スキンシップはいつも通りで、1人になった時だってペンダントを握ればほんのり暖かくなることを知った。
「エリカ!今日は遠慮なんかしないからねっ!」
手をつないだままくるりとエリカを振り返る。うん、なかなかお似合いの二人じゃないか。身長差も良い感じだし、このまま良い感じになって欲しいものだ。
「でかい」
「冗談のような大きさよねぇ」
「本当に頼むとは思わなかった……」
「これは……」
大通りに面した喫茶店では、予約注文限定で特性パフェが食べられる。大きさは金魚鉢サイズと言えば、どの位大きいか分かって貰えるだろうか。
一番下はフルーツ、その上に四角く切られたスポンジが乗って、それから8種類のアイスに最後は生クリームがこれでもかと。
スプーンはもちろん4つ。ルカは躊躇なく受け取って、エリカは苦笑い。フォルテさんは1回断ったけれど、女の子の頼みを断るんですか?と言えば肩を落として受け取ってくれる。
もしかして、エリカと一緒のものを食べることの方を気にしたのかもしれないけれど。間接キスと言えばそうだし。
「「いっただっきまーす!」」
「いただきます」
「……いただきます」
甘いもの好きなルカと私の声は綺麗にハモって、そうしてその甘みに酔いしれた。
「改めてお礼を申し上げます。あなた方がいなければ救出は難しかったでしょう」
むぐむぐとアイスを攻略中に、フォルテさんが頭を下げた。そう言えば、落ち着いて会うのはこれが初めてだ。
私達はあの時着替えてしまっていたから、探索は難航していたらしい。ルカが迎えに来たのとは別で動いていた人たちは、馬車で王都を出たことは何とか突き止められたけれど、それ以上の事は分からなかったと聞いた。
喫茶店はざわざわとしていて、ケーキとおしゃべりに夢中でこちらに意識を向けている人なんかいない。だからこういう話をしていても、誰にも聞かれない。穴場と言えば確かに穴場だ。
「私は、何もしてませんので」
チョコレート味のアイスの塊を崩しながら、気にしてないことを告げる。実際私は一緒に誘拐されただけだ。何かしたというならルカだろう。
「俺も、自分の仕事をしただけなので。礼を言うなら俺を雇ったアビントンさんに」
ルカもミントっぽい緑のアイスをぱくぱく食べながら流していた。むしろやっと護衛らしいことが出来たな、と言っていたくらいなので、お礼を言われるのは不本意らしい。
「分かりました。ではそのように伝えておきましょう」
父さんたちには次の日手紙を出した。
ルカのお陰で無事に帰って来たけれど、隠し通せるようなことではないと思ったし、騎士団から言われるよりは自分で報告した方が良いと思ったから。
返事はすぐに届いて、騎士団から報告と謝罪を受けたこと、怖ければいつでも帰って来て良いこと、それから、やっぱり護衛は必要だったろう?と父さんのどや顔が透けて見えるような字体で書いてあった。
フォルテさんは甘いものがあんまり得意じゃないらしく、さっきからコーンフレークっぽいのものばかり食べている。エリカが食べたところに手を付けていないように見えるのは気のせいかな?ん?
「そう言えば、ルカ。これってどういう仕組みなの?」
「ん?」
話の流れで思い出したから聞いてみれば、ルカはスプーンを咥えたまま首をかしげる。
「ペンダント。貸して貰ったから身に付けてるけど、何か普通じゃないっポイし」
相手の位置が分かるペンダント。
実際そう言う機能があって助かったのだけれど、普通に渡されたから私が知らないだけで流通してるものだと思っていたら、どうやらそうではないらしい。
「あぁ、それ母さんの特製」
ルカは何でもないことのようにそう言う。それで解決、説明終わり、みたいな感じで。いやいや、何にも分からないよ。
そんな感情が表に出ていたのか、ルカはスプーンを置いてちょっと真面目な顔になった。
「確か、深海クジラの核をなんやかんやして作ったとか言ってたけど」
しまった、説明を聞いても全く分からないやつだこれ。
「ええと、それは私達も聞いて良かったの?」
「良いよ別に。うちの傭兵団が特別製の道具使ってるのなんて、ギルドは知ってる事だし」
あぁ、そうなのか。ルカ達にとっては普通なんだ。それが、他では普通でない、と言うだけで。
「そのペンダントと同じものを欲しい場合はどうしたら?」
「んー…今は材料がないらしいから何とも……」
「それは残念です」
「詳しいことは傭兵ギルドを通じて『暁の翼』までどうぞ?」
「了解しました」
あ、ルカが営業してる。フォルテさんの反応が良かったからか何だか満足そうだ。
でもこれ、結構貴重なものなんじゃないだろうか。私なんかが持ってていいのかな?
「受けた依頼に必要であれば貴重だろうと使うし、それを躊躇わないようにってのがうちの指針だから。その分の金も貰ってるし」
ルカの顔を見れば、にんまりと笑われる。……父さん、暁の翼にいくら支払ってるんだろう……。
「俺も魔道具も試作品だからその分安いよ、心配しないで」
「ルカも?」
「そう、俺も試作品。まだ発展途上の成長途中。完成をお楽しみに?」
ルカは身長もまだまだ伸びていて、剣やナイフの腕もどんどん上達している。将来どんな大人になるんだろう。きっと格好良いんだろう。姿だけでなく、その精神までも。
「で、お嬢、エリカ。アイス溶ける」
「あっうん」
「食べきれるかな、これ。フォルテもがんばって」
「……はい」
ストレートの暖かい紅茶と、金魚鉢パフェ。それが無くなるころには、エリカの表情も柔らかくなっていて、ちょっと早いかなと思ったけれど外に連れ出して良かったと思う。
エリカが学院を中退、なんてことにならなくて、本当に良かった。私はルカと顔を見合わせて最後の苺をパクリと頬張る。
「ところで、従騎士って何してるの?」
「うーん……介護?」
世間話のつもりで話を振ったのに、なんだか謎が出てきてしまった。騎士団で何してるの、ルカ。




