実践演習
武術系で1番強いのは、今のところクロードだ。武門の家柄だけあって、幼いころから現役の騎士である父親や兄妹に鍛えられているらしいし、本人も努力家だ。成長途中ではあるがその剣は重く、一撃必殺を狙える。
イザベルは技術がある。女性であるからか重さはないけれど、その代わりに早く、太刀筋が正確だ。ゲーム的に言うとクリティカルを狙えると言う奴。
シャルルは護身術で良いと言うだけあってたまにしか来ないが、王家の教育の賜物か、防御に長けた剣を使う。王族が自分で剣を取る自体なんて稀だろう。誰かが駆けつけてくれるまで負けない剣だ。
レティシアは、なんというか補助に長けている。コンビを組んで動く動きだ。ヒロインの属性は『強化』で、彼女が剣を振るうイベントは全部パートナーがいるから、それで良いのだろう。
「ルカの剣はいやらしいな」
「褒めてます?」
「あぁ」
俺の剣の評価は、こげ茶の先輩曰く、こんなもんだ。
お嬢にヒロインの目当ては『紡ぎの指輪』だと聞いて、ほっと胸をなでおろす。彼女の行動にちゃんと目的があったからだ。
つまり、ステータスを上げられるだけ上げておいて、指輪を手に入れてから一気に好感度を上げるつもりなんだろう。
確か期間限定のイベントもあったはずなんだが、それをスルーしてでも効率のいい攻略の仕方をしていると言う事になる。手練れとしか言いようがない。
「よろしくお願いしますね、ルカ君」
ぺこりと頭を下げるレティシアの声は、鈴を転がすよう、と言われ始めている。花のかんばせ、と言う評価も聞いた。最初の中庭で見た何の特徴もない女の子は、見違えるほど可愛くなった。
「よろしく。お互いに、頑張ろう?」
それでもにこりと笑って手を差し出せば、普通に握り返される。ペンだこも、剣の豆もある手だ。努力家なのだろうなと思う。俺には到底真似できない。
ヒロインである、という重責はどれほど重いのだろうか。
初めての実践演習は、何事もなく終わった。と言うか、レティシアが優秀すぎた。
学院が買い上げて訓練用にしたその遺跡には、実戦訓練の時だけ使い魔が放たれて、魔物の代わりをする。
1回か2回攻撃すれば倒せるようなぺらっぺらの紙装甲だが、見た目だけはしっかり魔物だ。見た目に惑わされてビビると、その隙に攻撃されてマイナス点が付く。
3回攻撃されたら戦闘不能とみなされてそこでリタイアになる仕組みだ。
「あ、次の曲がり角、いるね」
「マジか」
「うん、マジだよ」
魔法も勉強しているレティシアは、魔力の気配に敏感だ。その為使い魔の位置も何となく分かると言う。
アルバイトで魔王城探索なんてものをやっている所為か魔物の見た目に全く怯えないし、補助が得意なだけあって、俺が取りこぼしたやつをさくっと倒してくれる。
正直言って傭兵団にスカウトしたいくらいだ。
「ルカ君も、平気そうだよね」
「まぁね」
使い魔が化けている魔物は本物を見たことがあるし、Eランクばかりだ。いつも傭兵団のおっさん達に倒されるAランクを見飽きている所為で、怖いと思えない。
ちょっと暗い場所のピクニック、位の気分で進み、とある地点でふと天井付近の壁が気になった。
「どうしたの?」
「うん、あの壁、変じゃない?」
どこが、とは言えないが、何となく気になった。
「ちょっと調べて見て良い?」
「良いよ」
使い魔も付近にはいないようで、少しばかり小休止しようかと言っていたところだったので、俺の提案は簡単に受け入れられた。
壁の石に手と足をかけよじ登る。枯れているはずの遺跡だから、何か残されているとは考えにくいんだが、気になるものは気になった。
ペタリ、と触れてみたその箇所は、何だか周りの壁石と感触が違うようで、えいや、と押してみるとそのまま奥に引っ込んだ。
「わお」
ガコン、と音がして、その後俺が捕まっていた石がパッと消えてしまう。
「うわ!?」
「ルカ君!?」
いきなりで驚いたけれど、落ちたのは足からだったので膝のクッションを使って何とか着地出来た。
「あーびっくりした」
大丈夫?の声に平気平気と返して、出来た穴を覗く。30cm位の空間に、手のひらサイズの箱が置いてあった。
もしかして、これがそうかな?
鍵もかかってないみたいなので開けてみると、そこには思った通り指輪が2つ入っていた。
ん?2つ?
「貰っていいのかな?」
「とりあえず持って帰って教官に聞いてみようか。持っててくれる?」
「うん、良いよ」
重いものは俺が持って、軽いものはレティシアが持つ。指輪が2つ入っているだけの箱は軽いから、レティシアに持ってもらう事にした。
教官にこんなのありましたと見せると、良く見つけたな、と頭を撫でられた。
どうやら分かりにくい所に隠して、見つけられたら貰える追加報酬のようなものだったらしい。
なるほど、クロードやシャルルではダメな訳だ。彼らにシーフの真似ごとをしろと言うのは無茶だろう。
透明な石がはまっていて、彼女は早速それを装備していて、嬉しそうだ。
最初の実践演習は半日で終わり、俺はお嬢にただいまの挨拶をして、ヒロインが『紡ぎの指輪』らしきものを手に入れたことを報告。
俺の分の指輪は、机の引き出しの奥で眠ることになった。
ヒロインのヒーロー攻略は、これから始まるのだ。