ルカ
前世の記憶があると言っても、この世界に生まれて、そして過ごしていく内に曖昧になるものだ。
ここで覚えることがいっぱいだから、それに脳の容量を圧迫されて隅に追いやられている。
その中で、前世でやったゲームの内容を思い出せ、と言われてもとても難しい。乙女ゲームは沢山やったから何となくの流れは分かるけれど、イベントとか混ざりがちだ。絵師さんが同じだと特に。
ルカからヒロインにはまだ好感度の高い人はいないらしいと言う情報を聞いて、その時からずっと思い出そうとしているのだけれど、今、レティシアがやっているのは正規ルートじゃないっぽいので、余計に時間がかかる。
裏技とか、そっちの方向だ。
ルカはそんなに熱心にやってたわけじゃないらしいから、私一人が思い出さなきゃいけない。
一人でうんうんうなっていると通りすがりの人とかに心配されるので、課題を机の上に広げてからうんうん言うようになった。
まぁ、それはそれで今度は同じ課題をやってる人に心配されるんだけれど。
思い出したのは、ルカが実践演習が始まると教えてくれた時だった。
武術系ステータスを上げているとやることになる『実践演習』。今回は一番最初の『枯れた遺跡へ2人一組で潜る』、と言うイベントだろう。
学院で管理して訓練に使っているその遺跡はすでにモンスターもおらず、ダンジョン探索のチュートリアル的なイベントだった。
勿論、普通なら一定以上の好感度のある人の中から好きな人を選んで、パートナーにする。パートナーにした相手は好感度が上がるし、勿論武術系ステータスも上がる美味しいイベントだ。
その相手がルカ。攻略対象ではない相手。
ヒロインが今まで買ったアイテムは6人全員の好感度を上げるアイテムと、ステータスUPのアイテム。おそらく目指しているのはハーレムエンド。ライバル令嬢達との関係から考えると、『真・ハーレムエンド』を目指していると考えてよさそうだ。
けれど、今の時点でここまで好感度が低いのは、もう意図があるとしか思えない。となると、つまりこれは。
「『紡ぎの指輪』か……!」
「え、どうした?」
ルカが目を丸くしているけれど、私は閃光のように思い出したことで手一杯だ。
『紡ぎの指輪』。あまりにも難易度が高い真・ハーレムルートの為に後日追加されたアイテムだ。
効果は『好感度UPの効果を上げる』。入手方法は『何らかの実戦訓練でNPCとパートナーを組む』こと。
つまり、実戦訓練が始まるまで誰とも好感度を上げられなかった人のための救済アイテムだ。
「そしてルカ!」
「うん、俺ですけど?」
実戦訓練もそうだけど、2人1組のコンビを組むイベントはいくつかあって、普通は好感度の高い人と組む。
けれどそれには一定以上の好感度が必要で、足りない時にはNPCが出現した。
その中の武術系NPCとして選択できる中に、あったのだ。
『ルカ』の名前が。
攻略対象は各々属性の精霊の加護があって、必殺技が使えるからそっちと組んだ方が攻略は楽だ。
けれど、他のステータスで言えばそんなに遜色のないNPCはいて、NPCと組むならこいつと組め!と言うのはwikiにも載っていたりする。
武術系NPCでのお勧めは『ルカ』。デフォルメキャラはちゃんと紺の髪と目だった。
「そっか、ルカ、強いもんね」
「え、うん。まぁ、そのつもりだけど」
どういうこと?と聞くルカに向かってかくかくしかじか。
「つまり、今までレティシアはあえて好感度を上げないように行動してて、俺と組んで『紡ぎの指輪』を手に入れるつもりってことか」
「多分。それだとつじつまが合うし」
「しっかしそんな方法があったとはね。チートって言うよりタスか」
「タス?」
「気にしないで」
重度のゲーマーだったらしいルカは、時々私の知らない言葉を使う。
「実戦訓練、気を付けてね」
「大丈夫、俺強いから」
怪我とかの心配じゃなくて、なんと言うか、実技が始まってからルカ、有名になってるからなぁ。
クロードやシャルルの視線がたまにこっちに向くのはきっとルカが目当てだ。
クロード、シャルル、イザベル、レティシアとルカ。同学年で武術に優れていると言えばこの5人の名前が上がるようになっていた。