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先輩と後輩と

実技の授業が始まって、俺にも訓練場の使用許可が出た。これで夕食後の腹ごなしの時間を、そこで過ごす事が出来る。

学院は危険物の持ち込みは禁止されているから、訓練所にある剣は全て刃を潰してあるようだ。


夕飯の後お嬢と別れて早速行ってみると、先輩らしき人たちが何人か体を動かしていた。

魔法具が働いているのか、昼間と同じように明るくて、これなら訓練に支障はないなと思う。


「お、やっと来たね!」


思いっきり俺の顔を見て、おいでおいでと手招きする人に見覚えがあったので、素直に近寄ると、やっぱり朝ジョギング中にすれ違う人達だった。


「こんばんは」

「うん、こんばんは。いつ来るかなって楽しみにしてたんだよ」


にこにこと言う黒髪の人と、その隣には表情はあまり動かないけど目が柔らかいこげ茶の髪の人がいる。

毎朝走っているだけあって筋肉がしっかりついている彼らは、俺と違ってもう体が出来始めている。

身長も180近くあるんだろう、羨ましいことだ。


「楽しみにされても、特に何もしませんけど」


やってる事はほかの奴と同じだ。習ったばかりの素振りを繰り返すだけの基礎訓練。


「またまたー。活躍は聞いてるよ?教官に捕まらなかったんだって?」


おう、もう噂になってるのか。まぁ自分でも結構派手に動いたと思ったしな。


「あー、はい。がんばりました」


へらりと笑ってそういう言うと、こげ茶の先輩が口を開く。おお、レアだ。


「あれは毎年の名物だからな。全員が捕まることも珍しくない」


あ、やっぱりそうなんだ。何か教官も慣れてたって言うか、今思いついたって感じじゃなかったもんな。


「ちなみに先輩方はどうだったんですか」


ふと疑問に思って聞いてみると。


「ひ・み・つ」


2人で顔を見合わせてから、黒髪先輩の見事なウインクを頂いてしまった。






「ルカ君はさー、将来騎士にならないの?」


模擬剣を借りて隅っこで素振りをしていると、先輩にやたら話しかけられた。手合わせをしながら喋るとか、器用だなこの人。


「はい」

「何で?良いよ、騎士。お給料も良いし、皆の憧れの的だよ?」

「家に、帰るので」

「そっか、残念だなー。きっと楽しいと思うんだけど」

「僕が、王城に、務めるのは、想像、出来ません。煌びやかで、気後れしそう、です」

「そう?慣れれば平気だよ」


まだ筋力が足りていないから、素振りをするたびに重心がぶれる。つかこの人、やっぱり貴族かなんかか。身のこなしがそれっぽいなとは思っていたけれど、将来は騎士になるんだろう。それも、命令を下す方の。

見ている限りこげ茶先輩も強い方だ。多分、乗合馬車の護衛よりはすでに上だろう。


何十回か何百回か素振りを繰り返して、手が痛くなったら休憩して、先輩たちの手合わせを見学するのが俺の新しい日課になった。






お嬢と会議をしてからも、同室のシャルルとは距離を置いている。とは言っても前から挨拶程度はしているから、避けていると言う程のものではない。

と言うか、早寝早起きをしているとあんまり同室者と話す時間がないのが正直なところだ。昼間はお嬢といるし、体が鈍らないように訓練もしたい。

投げナイフも触らないと精度が落ちるから、こっそり隠れて使っている。誤差2cmが今のところの目標だ。


俺が選択した授業では、あとは魔法使いのフレデリクとそのライバル令嬢のナディア、神官のエミールとそのライバル令嬢であるソフィーがいた。彼らも前線に出ることがある職業だから、その内一緒に模擬戦でもやることになるんだろう。知り合いになるのはその時からでも良いだろうと思う。


個人的には、ライバル令嬢達とはお知り合いになりたいのだけれど。






お嬢と言えば、仲の良い後輩が出来たようだ。名前を聞いて、特徴と一緒に週一のアビントンさんへの報告書に書いてみると、どうやら知っていた子の様だった。

なんでも商会がある街を統治している領主の娘だったらしい。言葉遣いが妙にお嬢様っぽいと思っていたらそういう事だったのか。

あの街の気安い領主はわりと子供にも自由にさせているらしく、お嬢に懐く彼女は王都に就職したいらしい。しかも得意の楽器演奏で。

確かに、王都には劇場があるから就職先は街に帰るよりもあるだろうが、それで良いのか。領主なら貴族だろうに。


ベンチに座ったお嬢は、彼女が領主の娘と知っているのだろうか。アビントンさんと領主様は身分を超えた友人の様だから、会ったことはあるかもしれない。

……いや、どうかな。今の会話を聞いていると兄がいるのも知らなかったみたいだから、知らないのかも。

うつらうつらしているお嬢に肩を貸して、しばらく。完全に寝入ったところで、そっと声をかけられた。


「貴方は、フローラおねぇさまをどう思っていますの?」

「んー、被保護者かな」


お嬢は、俺が守るべきもの、だ。そういう契約だし、前世の記憶を持っている同士の連帯感みたいなものや、外見と似合わない精神があるせいで不安定に見えるときには庇護欲もある。

総じて妹みたいなものかな、という結論になった。


「では、おねぇさまは貴方をどう思っているのでしょう?」

「……護衛じゃないかな?少なくとも、君が心配しているような恋愛感情はないよ」


じゃなきゃ、こんなに無防備に寝たりしない。良くて友人かな。


「……貴方は、なかなか鋭いですわね」

「お嬢が鈍いんじゃないかな」

「それはあるかもしれませんわね」


まぁ、領主の息子と有力な商人の娘がくっついたらその街は安泰ではある。俺たちは、すやすやと眠るお嬢の寝息をBGMにしながら長閑な午後を過ごしたのだった。

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