夏の終わり
「フローラ、ちょっとおいで」
「はーい」
商会でお客さんにお茶を出していると、奥から父さんに呼ばれた。
「なぁに?」
ローテーブル前のソファに誘われて座ると、そこには何本かのガラスペンが並べられている。
あれ、これ『お得意様の追加商品』だったやつじゃないかな?
「フローラは、どれが良い?」
「どれって?」
聞いてみると、何でもルカに送ったやつは試作品の1つで、改良型が出来たから本格的に商会で売り出すとのこと。
試させて貰ったらいつも使っているペンよりも書き味が良くて、滑りも良い。インクも擦れることがないし、量も結構つけられるみたいだ。
「これが良いかな」
まだ小さい手に合わせてくれたんだろう、そのペンたちは細く、長時間持っていても疲れないように工夫されている。
施されている模様も小さな花柄で、可愛らしかった。
「じゃあ、それはフローラに。勉強、頑張ってるからね」
「ありがとう、父さん。大事に使うね」
と、そんなことがあったよ、と夏休みが終わるころ家に来たルカに、ガラスペンを渡しながら話した。
ルカの分、と渡されたガラスペンは彼の色に合わせたんだろう、施された装飾の青の線が先に行くほど濃くなっていて綺麗だ。
隣に座った彼の顔は覚えているより少し上にある気がして、もしかしてこの短期間で背が伸びたのかな、と思う。夏らしく日焼けをしていて、元気いっぱいな感じだ。
受け取った彼は早速試し書きをしていたけれど、しばらくしたら手が止まって、何故か微妙な顔をしだした。
「どうしたの?」
「いや、これってつまりあれだろ。ヒロインに売ったやつより性能良いってことだろ」
「そうみたいね。改良したって言ってたから」
「で、アビントンさんはこっちを王都で売る気はないんだろ?」
「王都での商売許可書は無いから、そもそも無理だけどね」
「だよな。いや、でも、うーん。別に問題は無いのか…?」
頭に疑問符を浮かべながらルカはそれを丁寧な手つきで仕舞って、代わりにキャッツアイのような縦に線の入った赤い石のはまったペンダントをくれた。
「なにこれ?」
「それ対になってて、もし離れ離れになったら分かるようになってるから。お守りだと思って肌身離さず付けといて」
「うん、分かった」
付けてみると、鎖の長さが調節出来て、ちゃんと制服の下に付けていても見えないくらいになっている。
装飾品は禁止ではなかったけれど、あまり派手だとさすがに注意される。このペンダントは石以外の装飾はなくてシンプルだし、鎖も銀だから大丈夫だろう。
「どう?」
「似合う似合う」
適当な賛辞に、私も笑ってお礼を言う。ルカと過ごすのはとても楽だ。子供っぽいことをしなくてすむし、多分妹みたいに思われてるんだろう、視線が優しい。
「明日からまた学院だねぇ」
「馬車何時だっけ」
そんなことを言いながら、私達は特に必要もない荷物の確認をして、そして翌日、再び学院に戻った。
1ヶ月半ぶりに会う友人たちと夏休みにあった出来事を喋りあい、課題を提出して日常へ戻る。
テストは、年度末に1回あるだけだ。それによって次の年も学院に通えるかが決まる。一定の得点がなければそれまでで、追試はなく1発勝負。
学期末ごとにテストがあるのとどっちがましかは分からないけれど、今はのんびりと過ごせることに感謝しよう。
王都の夏は城壁に囲まれているからか暑くて、日曜日はルカと図書館か、一緒に近くの湖に行くことが増えた。
図書館は本を守るために一定の温度になるようにされているし、湖では勿論水浴びが出来る。水着を着て、とまでは行かないけれど、自然に囲まれて、足を水につけるだけでもだいぶ違った。
私達が日曜日ごとに出かけていることは結構みんなが知っていて、一緒に行っても良い?と聞かれることもある。
王都は賑やかだ。その分何となく尻込みするのだろう。気持ちは分かるので、そういう時は人数が増えることになった。
劇場で見た演劇の感想を言い合ったり、買い食いをして食べ比べをしてみたり。
素晴らしいリア充っぷりに前世の私もびっくりだ。楽しくて仕方がない。大人数で行動する分には、何だか見たことあるような人がいても気にしないでいられる。
ヒロインちゃんは、また可愛くなったようだ。




