2 回想
幼い少女が泣いていた。彼女はひとりぼっちだった。
栗色の髪と光の加減でグレーに見えるその大きい瞳は、周りの子供を引き寄せるほどの神秘的な美しさを秘めていた。しかし、彼女の頭脳は周りから人を遠ざけるほど優秀なものであった。
「あーちゃんの言う事、意味わかんない」
捨て台詞のようにそばにいた女の子に吐き捨てられ、少女はしゃがんだまま泣き続けた。その身体に影が落ちる。
「どうしたの? 」
近寄ってきたのは近所に住む一個上の男の子だった。物静かで、いつもひとりで本を読んでいる姿を見かけていた。今日も、そう。近くの木陰にあるベンチに座っているのを見かけた。
「みんな居なくなるの」
少女はしゃくりあげるように上擦る声をどうにか絞り出して答えた。
「そう、1人は嫌かい? 」
「いや」
「そうか……」
少年は首を少し傾けて少女を見る。少女もまばたき1つせず、少年の目を見つめた。
「じゃあ」
少年はニッコリと微笑むと少女に手を差し出す。
「僕と一緒に本を読もう」
少女は少年が差し出した手をじっと見つめた。もう片方の腕の間に挟まれていた本は、少女が普段読む物よりずいぶん易しい内容のようではあったが、今の少女にとって一番大事なのは誰かと一緒にいる事だった。
少女はおずおずと手を伸ばし、少年の手を取った。
「行こう」
2人は手を取り合って、ベンチへと駆けた。