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第1章-8

翌日の朝。

「で、昨日の成果は?」

通学路として利用している桜並木の中を、二人は歩いていた。

遙と久樹だ。

「失敗したかも」

「マジ!?」

どんより顔の遙に対して、本心から驚いている久樹。

「……なんて言ったんだ、お前?」

「普通にだけど」

「普通って……『こよみちゃんを食わせて!!』か?」

「あのな~、それのどこが普通なんだ?」

「普通だと思うぞ。俺的には」

胸を張って威張る久樹。

「馬鹿がここにいる……」

そんな久樹を見て、肩をすくめて呟く遙だった。

「ホント、朝から元気だよね。久樹ちゃんは」

いったい、何時からそこにいたのだろうか?

後ろにいたこよみが、付け加えるかのように言った。

「ね、遙ちゃん」

そして、あの笑顔を遙に向けながら、訊いた。

「あ……うん。そうだね」

遙は答えた。

笑顔を浮かべて――


僕は間違っていたのだろうか――

こよみに告白したことが――

あの時は思っていなかった。けど、今ははっきりと思ってしまっている。

幼馴染として、共に過ごしてきた時間が消えてしまうかもしれなかった。

幼馴染としての僕たちの関係が壊れてしまうかもしれなかったことを――

でも――でも――


僕は、こよみのことが好きになっていた。


午前中の授業内容が頭に残っていないし、記憶にも残っていない。

その原因と理由を、僕は実感している。

ずっと――こよみのことを横目で見ていた。

こよみの横顔を――

授業に集中するこよみの横顔を――

「んで、どうするんだ、遙?」

誰か僕のことを呼んだ。

「お~い、生きてるのか活きてるのか?」

「生きてる」

遙は、軽く答えた。

「そうか、活きてるのか」

「ツッコミ必要?」

「……いらん」

遙の問いかけに、即答する久樹。

「んで、昼飯はどうするんだ?」

「ん~」

遙が、自分の制服のズボンのポケットから新五百円玉を取り出した。

そして、無言でそれを久樹に向ける――

「パン」

「は?」

「適当に買ってきて」

「……」

無言で久樹はそれを受け取り、ポツリと遙に尋ねた。

「俺は、パシリか?」

「下僕」

「……同じだろ……」

それでも、それに従う久樹であった。


それから数分後――

両手で抱えきれないほどのパンを持った久樹が、屋上にやってきた。

「お前な~、普通先に行くか!?」

教室に戻ってきたときには、既に遙の姿がなかった。

その為、真っ先に訊こうとこよみの元に行こうとしたが、こよみもいなかった。

が、久樹は遙の行動の全てを理解していた為、屋上に来た訳であった。

「ほれ、好きなのとれ」

「悪いね」

苦笑を浮かべながら、遙は久樹が抱えていたパンの山から適当に引っ張り出した。

そして、その直後久樹は抱えていたパンを屋上の地面に置き、自分も適当に摘んだ。

「全く、お前らしくないな」

摘み取ったパン――イチゴジャム&コシアンサンドの封を開けながら、久樹が呟いた。

「ん~……」

遙は、パン――バナナソ―スサンドの封を開けながら、否定としても取られておかしくない答え方をした。

「何があったんだ?」

「……な~、久樹」

「ん?」

互いに、自分のパンにかぶりつく二人。

「僕たちって幼馴染だよね」

「んぁ?」

一時の沈黙。

「変わらないよな」

「何が?」

二個目の封を開ける久樹。

今度は、焼きクリ―ムパンだった。

「僕たちの友情」

「当たり前だ、バカが」

「だね」


午後の授業も、午前中と同じ流れだった。

そして、この日の全ての授業が終え、その後の掃除も終わった。

「遙ちゃん♪」

「ん?」

自分の帰りの支度を進めていた遙に声をかけたのはこよみだった。

「一緒に帰ろう♪ね」

「あ……あぁ」

こよみの誘いを断る理由がない遙は、それを受け入れた。

「俺は、俺」

それに交じるように久樹が、自分のことを主張したが――

「いらない」

こよみに即答で拒否された。

勿論、悪気がない笑顔で――


二人――遙とこよみが中学を出てからどれくらいの間、そうして歩いているのだろうか?

一言たりとも言葉を放ち――会話を交わしていなかった。

ただ、二人の間にあるのは沈黙と言える静けさだけだった。

遙は、告白による気まずさ。

こよみも、同じような気まずさだった。

そして、あの場所まで二人はやってきた。

色褪せ、本来の色を取り戻した桜の葉は、殆どが堕ち、枝が露出して桜並木道。

昨日、遙がこよみに告白した場所に――

「ここだよね」

今まで二人の間にあったそれを打ち破るように、こよみが呟いた。

「遙ちゃんが……」

風が吹いた――

今の季節を感じさせる冷たいモノだったが、どことなく心地良い涼しさをも感じさせるモノだった。

「私のこと好きって言ってくれたところだよね」

遙に向けたこよみの顔は、赤く染め上がっていた。

恥ずかしさから――照れから――

そして、こよみ自身の中にある答えを口にする為に。

「わ……わたしもね」

沈黙ではないが、それ以上になんとも言い難い気まずい雰囲気に包まれる二人。

「……好きだよ」

「え……」

それは、あまりにも小さな声だった。

恐らく、その小ささは言った本人すらも聞き取れなかったであろう。

そして、勿論のこと、遙には何も聞こえていなかった。


「好きだよ!!わたしも、遙ちゃんのこと好きだよ!!」


それは、こよみの思いを口にした『想い』と言う名の叫び。

それは――二人が繋がったことを教える言葉――

こよみは泣いた。

言えた嬉しさから――開放された苦しみから――

こよみは、涙を流し、俯き、小さくしゃっくりを上げ泣いた。

遙は、黙ってこよみを優しく抱いた。


「ありがとう」


耳元で囁き――優しく彼女の髪を撫でた。

こよみは、泣いた。

嬉しさから泣いた――

彼の胸で泣いた。

遙の制服は、こよみの涙によって僅かに濡れて――

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