第1章-8
遙とこよみの家は少しであるけど離れている。
とは言っても、歩いて10分もしないで着く距離だが。
そして、二人――むしろ、三人の帰路は途中まで一緒。
「それにしても、一年って早いね」
人ひとり分あるか無いかの距離を空けて、前を歩くこよみが上を見ながら囁いた。
今、二人が歩いているのがその場所である、並木道。
「あぁ」
色褪せ、本来の色を取り戻した桜の葉は、殆どが堕ち、枝が露出していた。
そして、立ち止まり遙もそれを見ながら答え―囁いた。
「僕さ、こよみに言うことがあるんだ」
「え?」
少し距離を離した位置で立ち止り、遙がいる後ろに振り向くこよみ。
「今日……気づいたことがあるんだ……」
「気づいた?何に?」
真顔の遙に、きょとん顔のこよみ。
正に、二人のそれは鏡に映した裏と表だった。
「今までさ、当たり前のように近くいたから、気づくのが遅かったんだね」
「近く?」
「あぁ」
二人の間に――そして、二人を取り囲むように冷えた風が吹いた。
「僕は、好きなんだ」
「え……」
突然の言葉に、何が起きたのか理解し難い表情をするこよみ。
遙だけが、その意味を知っていて、彼の顔色は赤く照れていた。
「好きなんだ」
「すき?」
未だに、何の事だか理解出来なくきょとん顔で繰り返す、こよみ。
そして、軽く深呼吸をし遙は自分の心の中にある本心本音を口にした。
「こよみのことが、好きなんだ!!」
それを聞き――そして、その言葉の意味を知ったこよみの顔は一瞬で赤く染まった。
突然の出来事で、それが信じられないのか――
「あ……」
遙が、呼び止めようとした時には、こよみの背中は小さくなっていた。
容易く言うなら、突然こよみが走り去ったと言うこと。
「……失敗したかな~」
残された遙を嘲笑うかのように、風が吹いた。
気持ち的に、一番寒かったような感じがした風だった。