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第1章-7

遙が教室に戻ってきたのは、昼休みが終わる数分前のことだった。

まだ、時間的に余裕があった為問題がなかった。

「どこ行ってたんだ?」

遙よりも先に戻ってきていた久樹が、自分の席に座った遙に訊いた。

「ん?屋上だけど?」

それに、当たり前であるかのように答える遙。

「寒いのに物好きだな、お前も」

「まぁね」


遙は、自分の机から五時間目の授業で使用する教科書類を取り出しながら、久樹に言った。

「久樹」

「ん?」

「僕って鈍感なのかな?」

「イエス」

真顔で答えた、久樹だった。


その後、時間に狂うことなく授業が始まった。

こよみは、幼馴染三人組の中で一番真面目であり、成績も抜群である彼女は教師の言葉を聞きながら、黒板のものを綺麗にノ―トに写していた。

久樹は、舟をこぎながらも僅かに残っている意思で、凶悪な睡魔と闘っていたが、負けを認め、机に突っ伏していた。

遙は――黒板に書かれた文字をノ―トに写していたが、彼の視線はこよみを見ていた。

遙の席は、窓側の最後尾。そして、その隣に久樹。

こよみは、廊下側の中腹あたり。

視線を少し動かすだけでも、遙はこよみのことを確認できる場所にいた。


『好きとも思っていないのか!?』


……

授業中の時間は確かに流れている。

教師が又、何かしら黒板に書いているのを知らす音が聞こえているが、遙はこよみから視線を外すことが出来なかった。


『ここに、天然記念物級究極鈍感男がいたとは~!!』

『お前のことだよ!此方遙!!』


何となくではあるけど、あの時久樹が言っていたことが分かってきた。

恐らく、こよみは僕のこと『幼馴染』とは思っていない……

それは、異性のことを『好き』であるように――


『お前、本当にこよみちゃんのこと『幼馴染』としか思っていないのか!?』


こよみが遙の視線に気付き、彼の方を振り向いた。

難無く、二人の視線が絡み合うと――

こよみは満面の笑みを浮かべた。

いつも、浮かべているようなものではなく――

それ以上に嬉しそうな笑み。


好きだったんだ……僕。


遙は、自分の気持ちに気付いたのもこの時だった。


授業もすべて終え、帰るまでに終わらすことが掃除だけになった。

「こよみ」

「どうしたの、遙ちゃん」

ゴミ箱を両手で抱えたこよみが教室から出る前に、遙が呼び止めた。

「僕が持っていくよ」

「ありがとう、遙ちゃん」

あの時と同じ笑みを浮かべたこよみから、遙はゴミ箱を受け取った。

「私も、付いていっていい?」

「もちろん」

こよみに付き添ってもらいながら、二人はゴミ箱の中身を捨てに、焼却炉に向かった。

「それにしてもどうしたの?」

空になったゴミ箱を両手で抱えながら、こよみは遙に訊いた。

「ん?」

「だって、いつもは手伝ってくれないのに、今日は違うんだもん」

「そうか?」

「うん、そうだよ」

こよみから空になったゴミ箱を渡され、受け取った遙。

「ま~、今日は特別だと思えばいいんじゃないか?」

「特別?」

意味がわからないのかきょとんとした顔のこよみ。

「そ、特別」

遙は冷静を装って呟いた。


そして、掃除も終わり、遂に下校時間になった。

「こよみ」

「何~?」

学校指定の黒い学生鞄に、教科書類をしまっているこよみに、遙が声をかけた。

既に、遙のほうは帰る準備が済まされていた。

「一緒に帰ろうか」

「うん」

遙の誘いに、あの笑顔で答えるこよみ。

「じゃ~、先外で待ってるから」

「は~い」

教室から出ていく遙の背中に、こよみは元気よく返事をした。

そして、背中越しに訊く遙だった。


「おい!遙」

遙が昇降口から出る直前、突然何者かに呼び止められた。

そして、その声が聞こえた方向である後ろに振り向くと、そこには先に帰ったはずの久樹がいた。

「あれ?久樹、先に帰ったんじゃないの?」

「ん、お前に聞きたいことがあったから待ってた」

「物好きだね」

「るせぇ~」

久樹が靴に履き替え、二人は校門までともに歩くことにした。

そして、数分もしないうちに二人はそこに着いてしまった。

「誰か待ってるのか?」

「こよみ」

「ほ~」

「久樹も、一緒に帰る?」

「結構」

遙の誘いを、即答で断る久樹。

勿論、いつもの表情で答えているので悪気など一切ない。

「んで、言うんだろ?」

「何を?」

「何をって……お前な」

にやつきで緩んだ顔で訊いた久樹であったが、遙の答えを聞き、表情からそれが消えた。

「嘘。言うよ」

「だろうな。ま、結果は明日教えてくれ」

「了解」

それだけを言い残し、久樹は片手を軽く挙げ、彼の自宅への帰路に着いた。

それから、数分もしないうちにこよみが遙の元にやってきた。

恐らく、こよみの性格上は走ってきたのだろう。その証拠に、こよみの呼吸が乱れていた。

「ごめんね、遙ちゃん」

「大丈夫、そんなに待っていないから」

「ほんと?」

「勿論。んじゃ、帰ろうか?」

「うん」

そして、遙とこよみも帰路に着いた。



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