最終章-1
卒業式当日の夜。
時間は、午前三時を若干回ったところ。
国立がんセンターの夜は、昼間のときの騒がしさとは別格で閑静の姿を曝け出していた。
だが、その閑静な姿は、とある一種の機械音で脆くも壊されるものだった。
ビィビィビィビィ―――
ナースセンターに突然、その音が鳴り響いた。
それは、センターで入院している患者たちの様態に異常を知らす、警告音だった。
そして、その音がなる中、加原は入院病棟の廊下を全速力で駆け抜け、警告音を鳴らした原因の病室に駆け込んだ。
『此方 遙』。
そこの病室への唯一の扉にかけられていたネームプレート。
「状況は!?」
加原は、彼の病室に入るや否や、先に到着し応急処置をしている二人の看護師に訊いた。
その声には、焦りがあり、憤りがあり、そして何よりも平常心を保っていられなかった。
だが、それでも彼が出す指示は、的確であり、正確なものだった。
そして、なによりもそのような状況にさせてしまうのは、遙の心拍数や血脈数を映し出す装置が異常警告を高らかに鳴らし続けているからこそ。
更に、よりよって最期の最期に最悪な事態になってしまったこと。
その装置を操作していた看護師が加原に伝えた。
加原は、それを聞きながらも、心臓マッサージを行った。
だが――
ピィ――――――……
その場で、一番聞きたくなかった機械音が鳴り響いた。
それでも、加原は諦めることなく、もう一人の看護師に電気ショックの準備を促しながらも、心臓マッサージを繰り返した。
ピィ――――――……
だが、その音が鳴り止む様子はなかった。
そして、彼女が電気ショックの機械を載せた台車を押しながらやってきた。
その場に到着するやいなや、加原は手馴れた速さでそれを彼の身体にセットし――
電気ショックを加えた。
何度も――何度も――
電気ショックを加えては、威力を上げるように指示し、それで電気ショックを加え――
自動心拍装置の画面を睨みんでは、電気ショックをくわえ――
「死ぬなぁぁぁぁ!!遙ぉぉぉぉ!!」
加原は、叫んだ。
だが――
ピィ――――――……
死の宣告を知らせる機械音が鳴り止む様子はなかった。




