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第2章-10

そして、二人が屋上に着いたのと同時に、授業の始まりを告げるチャイムが鳴った。

「一体、何があったんだ?こよみちゃん」

フェンス越しから外を眺めているこよみに、久樹はあえて訊いた。

そもそも、久樹はここに呼ばれた理由を知っていた。というより、察知していた。

あの時に……

「私ね……」

「……」

外を眺めながら――久樹に背中を向けながら、こよみは口を開き、言葉を発した。

「遙ちゃんに振られちゃった……」

「……そうか……」

彼にはそれしか言えることが無かった。

「久樹ちゃんはさ……」

「……」

そして、こよみは久樹のほうを振り向いた。

彼女の表情に、いつもの明るいそれが微塵たりとも感じられないものだった。

「何か知ってるの?」

「……」

何も答えられなかった。

「ねぇ……知ってるなら……教えてよ……」

「……何のことだかわかない」

久樹は、冷静を保ちながら――嘘がばれないように、嘘をついた。

今、こよみが何を知りたいのか非常なまでにわかっている。

それでも……彼は友情よりも約束の方を無意識のうちに選んでいた。

「何で、そんなこと訊くんだ?」

そして、冷静にこよみに訊いた。

「こよみちゃんは……」

そして、その言葉はうまく口から出なかった。

だが、久樹は諦めずに続きを無理にしてまで口にした。

「遙のことを信じられないのか?」

それは、愚問に近かった。否、むしろ愚問そのものだった。

「……」

「遙が……遙が云ったことを信じられないのか……」

「えっ……」

遙はこよみのことを振った。

それは、一方的なことだった。そして、彼が無理してまで抑え込んだ真実の変わりに出した嘘。

それを知った上で、久樹はこよみに云った。

そして、こよみがそのことを知らない上でもあって。

「そ……そんな……」

ガタガタと身体を震わせ、泣き崩れていくこよみ。

そして……今にも、全てが嘘であることを伝えたい気持ちを押さえ込みながらも、無理にでも平常心を保っている久樹。

「……」

「嘘……じゃなかったの……?」

一時の沈黙。

久樹は、顔を俯かせながら答えた。

曇りきった表情を、こよみに見せないように――

「あぁ……」


その言葉を訊き、こよみの中にある何かが彼女の中で音を発て、崩れ去った。

こよみは、コンクリート丸出しの屋上の床に尻餅をついた。

そして……涙を流した。

「全部……真実なんだ……」

それだけを言い残し、久樹はその場を後にした。


ガシャン……

久樹は、屋上への唯一の出入り口である、金属製の重い扉を閉めた。

「くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

そして、それに自分の右拳を全力で放った。

ガンッ……


それが壊れることがなかった。

反対に、自分の拳の方が痛んだ……

だが、このくらいの痛みでは、彼女が今味わっているそれとは大いに違っていた。

「うあぁぁぁぁぁぁ!!」

ガンッ……

そして……二発目。

ドアには何も変化はなかった。

ただ……殴りつけた彼の拳だけが痛みをあげていた。


一人残されたこよみ。

季節の寒さによって冷やされた風が吹き、尻餅をついている彼女の体温をかすかに奪っていく。そして、彼女は体温を奪われ、寒さを感じていく。

だが、その場から動こうとはしなかった。

否、動くと言う気分や身体を動かすと言う行為をする気分すら湧かなかった。

ただ、今は声を出さずに涙を流すだけ。

「遙ちゃん……」

あれは、嘘ではなかった。

本当のことだった。

信じていた……

そうであってほしいと思っていた……

けど……現実はそれを裏切った。

「う……うぁ……うぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

溜まっていた苦しみ。溜まりきった哀しみと悲しみ。

遂にこよみは声をあげ、泣いた。

自分を嘲笑うかのように清々しい青空を見上げ……

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