第1章-2
あれから、大体一時間ぐらいしてから遙は、タクシ―を利用し自宅前に帰ってきた。
とはいえ、彼の身体は既に限界を超していた。
痛烈な吐き気、頭痛、更に四肢の震え。
止めは、彼の全ての神経をも狂わしていた。
両眼共に視力抜群なのだが、視界はとてもそう感じないほどに狭く、暗かった。
「くぁぅ」
喉が異常に渇き、声も日常会話で使っていたものから程遠いものになっていた。
遙はそんな状態で何とか玄関前に着き、その直後家の中から彼の両親が彼の元に駆け寄ってきた。
そして、彼は自室に運ばれた。
遙が、この延命処置を受けるようになったのは、彼自身が異変を感じたときからだった。
もともと、遙自身は運動神経が鈍く、又体力も平均を少し下回っていた。
だが、それでも日常生活に支障が出るようなものではなかった。
むしろ、それは日常生活を送る上で必要最低限なくらいと言った方が的確な表現だろう。
その為、彼自身と――彼の両親も余り気にする事はなかった。
そして、彼はいつまでも続く日々の中を暮らし、その中で成長して行った。
傍から見れば、何一つとして問題がない健康体として――
だが……誰もが気づかなかった。そして、知らなかった。
その時から、『悪魔』が存在していた。
それは、あまりにも小さかったので、目に見えなければ、レントゲン写真に写ることがなかった。
その為、誰にも発見されることなく、それも成長してしまった……
そして、それが発見されたときは既に遅かった。
あの日、彼を襲った悪夢。
そして、その翌日、彼は自分の両親と共に診察をしにやってきた。
その結果――初日で『国立癌センタ―』に回されてしまった。
それは、まだ中学生であり青春真っ盛りの少年にはあまりにも酷なものだった。
そして、そこで診察したのが加原医師だった。
レントゲン写真を見て、彼は言った。
『すまないが……此方君が桜を見ることが出来ない』
この時、遙の中にあった癌の進行レベルは『ステ―ジ五』。
それは、多くもの薬品を使おうとも、手術をして取り抜いたとしても、彼の結末が変ることがなかった。唯一できることは、僅かにしか延ばすことしか出来ない延命処置。
それも、気持ちぐらいにしか延ばすことが出来なかった――
最終的に、加原医師が出した決断。
「君の命はどんなにもっても今年一年……勿論、それだけを生きることができるとは保障できない」
泣き崩れる、遙の母親。
彼女を支えながらも、怒りを抑える遙の父親。
顔を曇らし、俯いてしまった加原医師と看護士たち。
そして……自分の短すぎる人生の終わりを知ってしまった遙は瞼を閉じ、そっと囁いた。
「ありがとうございます」
と……
彼は、すべての人たちへの感謝を口にした。
自分を産んでくれた母親。
自分を育ててくれた両親。
自分を励ましてくれたり、遊んでもらった友達。
自分に知識を教えてくれた教師。
自分の終わりを教えてくれた加原医師。
「そして……ごめんさない」
彼は、すべての人たちへ謝った。
心の底から――