第2章-3
のろのろとした足取りに、何とかトイレにたどり着いた遙は、そのまま洋式トイレの個室の中に入って行った。
「うぅぅ……くっ……」
そして、その中で激しく不規則に暴れだしている心臓――右胸辺りを強く掴み抑えながら、声を殺しながら苦痛の声を漏らした。
それは、今まで感じた痛みの中で最大級の痛みだった。
むしろ、それは痛みと言う感覚を超越し、死んでしまいそうな激痛だった。
「ぅ……あぅ……」
それは治まる所か、毎秒に痛みが増して行く一方だった。
そして、全身から生暖かい汗が噴出しているというのに、身体はそれと正反対に異常に冷たく寒かった。
「うぁ……あぁぅ」
激しく痙攣し出す胃と、そこから湧き出す激しい嘔吐感。
だが、喉から沸き出る感触は、錆付いた釘を舐めているかのような味が染み出していた。
「……お……落ち着け……を……ちぇけ……」
嘔吐感感じ、更には鉄のような味が染み出していると言うに、喉は異常なほどに渇ききって、無数の鋭い剣山がその中にあるかのような痛みまでもが感じはじめた。
「くぅぁ……うぁっ……」
それでも、彼には我慢することしか出来なかった。
今、自分の身に何が起きているのかさえ分からず……そして、なによりもこよみが自分のことを待っていると思ってしまうと、それしか出来ることがなかった。
「ぁ……は……はぁはぁ……」
一体どれくらいの時間が経ってからだろうか?
遙を襲っていた数多くのものが治まり、肩で乱れきってしまった呼吸を整え始めた。
「はぁぁはぁぁはぁぁ」
乱れきっていた呼吸が整っていくたびに、それに比例するかのように噴出していた生暖かい汗が引いていった。
「はぁ……はぁ……」
そして、それが整え終わったときには、噴出していたあの汗も完全に姿を消していた。更には、あの症状そのものが夢であったかのように消えていた。
彼は、ゆっくり立ち上がり、その場を後にした。
向かう場所は、つい先ほどまでこよみが戻ってくるものを待っていた場所――




