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第1章-10

自分の部屋。

そこにいることによって、遙は何かと落ち着くのだ。

「……」

既に遙の服装は制服から部屋着に着替え終え、それでベッドに転がり、天井を見ていた。

『最低限こよみちゃんだけにでも言った方がいいだろ?』

「……」

『何でだよ!!こよみちゃんはお前の彼女だろ!?』

寝返りを打ち、彼の視界にはいるのが自分の部屋の天井からベッド脇の壁に変わった。

『後三ヶ月後には、絶対に別れるから』

『下手したら、今すぐかもしれないし』

あの時、僕は不思議なくらい笑いたかった。

本当は、笑うような場所でないくらい分かっていたのに――笑いたかった。

そして、あの時の久樹の表情を今でも瞼裏に焼きついていて、忘れようとも忘れることが出来ないでいた。

『後三ヶ月後には、絶対に別れないといけなから』

何で……あんな言葉が口から出たのどうか?

あれでは、既に自分が死ぬことに対してなんとも思っていように感じられる。

と云うか、現実的にそうなのだが――

とは言え、あの場にこよみがいなかったのが不幸中の幸いなのだが。

『明日来たら、別れるよ』

そして――最後に行った自分の言葉。

その中に、希望があったのか?

或いは、絶望しかなかったのか?

遙は、再び寝返りを打つと、今度はベッド脇の壁から自室の扉に変わった。

「明日か……」

遙は、顔だけを動かすとベランダへと繋がる窓が視界に入った。

その向こう側が暗いというとこは、既に夜と言う時間帯なのだろう。

そして、後半日の半分か――それ以下の時間が経てば明日がやってくる。

明日と云う時間は確かにやってくる――

「来るのかな……僕にも……」

遙は、僅かながらの期待を胸に、瞼を閉じ――眠りについた。

明日が来ることを信じて――


そして、翌日――

遙は、いつも通りの時間に起き、そしていつも通りに身支度を済ませ、いつも通りの時間に家を出て中学への通学路に着いた。

「ヨッ!お早うさん」

「お早う、久樹」

そして、いつも通りの時間と場所で久樹と合流した。

「そうそう、昨日のドラマ見たか?」

「ドラマ?」

そして、いつも通りの話しを交わしながら共に歩く。

「おはよう、遙ちゃんに久樹ちゃん」

「おはよう、こよみちゃん」

「おはよう、このみ」

そして、あの桜並木道の少し前でいつも通りの時間にこよみと合流した。

三人で、どうでもいいことや昨夜のドラマのことなどの話しを交わしながら中学へと向かっていった。


時間が流れると云う実感は湧くものでもなく、感じるものでもなかった。

そして、今の遙はまさにそれだった。

そして――久樹も同じだった。

彼は、午前中の授業が終わるや否や一人で、購買までやって来た。

勿論、その目的は昼食で食べるパンを買う為だ。

今日だけが特別なのだろうか、いつもなら隣の食堂並みの混みなのだが、久樹独りしかいなかった。

「おばちゃん、これらお願い」

適当に四種類のパンを摘み、購買の会計に出した。

そして、茶色の紙袋に詰めてもらい、久樹はそれを受け取り次の目的の場所に向かった。

その途中、自販機で二百五十ミリリットルの牛乳パックを二つ購入した。

そして今に至る。

彼は、その場所に到着していた。

が……自分の前にある鉄製の重い扉を開けようとはしなかった。

否、しなかったのではなく出来なかったのだ。

この向こう側にいる友人のことを思ってしまうと――

『後三ヶ月後には、絶対に別れないといけなから』

『下手したら、今すぐかもしれないし』

あいつは……どこかで決心してるのかもしれない。

どうやっても変らないあいつの未来を受け止めてしまったことで。

「……久樹ちゃん?」

突然、自分の背後から自分のことを呼ぶ聞き慣れた声が聞こえた。

久樹がゆっくりと顔だけ振り向くと、そこには自分のお弁当を持ったこよみがいた。

「こよみちゃん……」

本来なら、彼女は自分の友達と教室で食べているはずだった。

なのに、何故今日はここにいるのか、久樹には理解できなかった。

それほど、今日と言う日が特別であるのだろうか?

「どうしたんだ?いつも教室でたべてんのに?」

「え……え~と……」

久樹の問いかけに口籠りながらも弱弱しく答えるこよみ。

「たまには……三人で食べるのも悪くないよね」

笑顔を久樹に向けるこよみ。

何時かしたら壊れてしまう、輝いた笑顔を――

「……あぁ」

それも悪くなかった。

今だけしか過ごせない時間だから。だったら、三人でどうでもいい事を話しながら食べるのも悪くなかった。

「この向こうに、遙ちゃんがいるんだよね?」

「あぁ。行くか?」

「うん」

久樹の誘いに、いつのも笑顔で答えるこよみだった。


そして、今自分のすぐ近くでそのことが起きていることを知らない遙は、いつものようにフェンス越しから外を見ていた。

使い慣れたグラウンドに体育館。

そして、通学電車として多くの生徒たちが利用している駅。

今、自分の目に映るもの全てが、懐かしく――新鮮に見えていた。

「……もう……無理なんだ……」

誰もいないことを承知の上で呟いた。

そう、彼はそう思っていただけだった――

「何が、無理なの?」

「え?」

突然の声。

それに遙が過敏に反応し、振り向いた。

「こよみ……」

そこにいたのは、こよみだった。

「何が無理なの?」

いつものクリッとした表情で訊いてくるこよみ。

そして、その後には平謝りをする久樹がいた。

「ん~?いろいろとね」

「いろいろ?」

「そ、いろいろ。さ~て、こよみもここで食べるんだろう?」

「うん♪」

上手く誤魔化し、上手く話しを逸らすことに成功し、三人はそれぞれの昼食をとることにした。

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