第1章-9
「死ぬこと……か……」
現在の空を眺めながら、遙は呟いた。
今、自分にとって一番となりにいる存在を――
「本当は……怖いんだろうな~」
が、それは彼からしてみれば当たり前のことだった。
どんなに頑張っても、それはすぐそこにあるんだから――
「ここにいたのか、サボリ」
「ん?」
聞き覚えのある声が聞こえ、表面を向くと、そこには久樹がいた。
「全く、午前中終わったぞ」
「え?」
それを訊き、遙は急いで自分の腕時計で今の時間を確認した。
その結果――確かに今から一分前に午前中の授業がすべて終わった時間だった。
「あちゃ~、気が付かなかったな」
頭を掻きながら、遙は失敗したかのように悔やんだ。
「全く。クラス中、お前のマイナス噂が飛び交ってたぞ」
「だろうね」
遙は苦笑いを浮かべ、呟いた。
クラスで飛び交う遙の噂――それは、決していい噂ではなく、悪い噂しかなかった。
特に、今朝方は職員室に呼ばれただけに、更にそれは悪くなる一方だろう。
そして、遙はそのことやその存在も知っているが、何もしなく放置しているだけ――
後三ヶ月もしれば、何もかもが消えるから―
「な~、遙」
「ん?」
「クラスの奴らに言わないのはいいけど……」
「勿論、そのつもりだけど。それが?」
「最低限こよみちゃんだけにでも言った方がいいだろ?」
「……」
それが指す意味は、こよみだけにでも自分の病気のことを教えること。
否、それだけじゃない。自分の余命も教えないといけない。
だけど――もし、こよみにこの事を教えてしまったら――
「悪いけど、それは無理」
「何でだよ!!こよみちゃんはお前の彼女だろ!?」
「……今わね……」
「今って……」
「後三ヶ月後には、絶対に別れないといけないら」
それは、遙の死によって――
「下手したら、今すぐかもしれないし」
遙は、何とも言えない想いを隠すかのように、表情を緩めた。
まるで、その表情は薄く浮かべた笑顔であるかのように――
「だったら……」
久樹は分かっている。
いくら、遙のことを説得しようとも無駄であることを――
だが、幼馴染であり大切な友人のことを捨てることなど、彼には出来なかった。
「だから……別れようと思うんだ」
空を見上げながら、遙は呟いた。
「別れる?」
「こよみと……」
「……」
何も言い返すことが出来ない久樹。
否、言い返そうとしてもその言葉が浮かんでこなく――遙の気持ちが痛いほど分かっているからこそ、言い返すことが出来なかった。
「明日来たら、別れるよ」
来るかもしれないし、来ないかもしれない明日という翌日。
「だからさ、その後は――」
久樹の方を向いた、遙。
遙の表情に変化は無かった――が、涙が流れていた。
自分の愚かさ、悔やみを表した涙が――
「久樹……頼むよ」
「……」
今のまま、二人が付き合っていたら、必ず最悪な別れがやってくる。
遙の死と言う、最悪な別れが――
そして、その時が来てしまったら、こよみは壊れてしまう。
絶対に――
だから、今遙がとっているこの手段は正しすぎて、どうすることも出来ないものだった。
「あ……あぁ」
久樹は、苦虫を噛むように答えた。
「ありがとう、久樹」
遙は――心のそこから感謝の言葉を口にした。




