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第一章-1

何でだろう?……何が?

何で……僕は生きようと頑張っているのだろう?

人には命があり、そして―――永い人生がある。

だから、人は生きる。生きて、生きていき続けている。

だけど……僕は違っていた。

幾度目かの春を迎え、夏……秋……冬……と過ごしてきた。

そして、それはいつからだろう。

僕の中にある『悪魔』が目覚めたのは――

それが、在ったから僕が在ったと言うのかな?

もし、それがなかったら僕は無かったことになるのかな?

一体、僕にとってその『悪魔』は何なのだろう?

僕のこと蝕み続けるその『悪魔』があることが幸せだと言えたのか?


一体、生きるということはどんな状態を示しているのだろう?

健康であること?

呼吸をしていること?

異性の人を恋すること?


今の自分に夢を持つことができるのであろうか?

こんなにも、短い僕に――

こんなにも……脆い僕なんかに――

持てる夢なんて……あるのだろうか?


「よっ、元気にしてるか?」

僕は、目的の階に到着しエレベ―タから出ると、直ぐにすれ違った見た目からしても小学生の少年に声をかけた。

勿論、僕らは知り合いだ。下手したら、今の学校のクラスメ―トなんかよりも仲が良いかもしれないほどの関係だ。

「あっ、兄ちゃんだ~」

僕は、そいつの頭をクシャクシャと撫でた。

「にひひ、元気だよ」

そいつは子供特有の満面の無邪気な笑顔を僕に向け、答えた。

「あ~、古萓(こがや)君だけずるい~」

「ん?」

今度は、女の子の声が聞こえた。

よく見ると――と言うか 、直ぐ近くにその子がいた。

そして、それがスイッチだったのか十数人の子供たちが僕の元に集まってきた。

彼らが、ここで暮らしている子供たち。

頭に包帯を巻いていたり、松葉杖を付いていり、室内なのに毛皮の帽子を被っていたり、見た目はなんともないけど髪の毛が一本すらなかったり、自分よりも背が高い点滴台をひいていたり……と、姿はまちまちだったが、一つだけ共通していることがあった。

それは、異常に痩せ細っていること。

けど、そんなことを気にするものはこの場にいなかった。

否、厳しい言いかたかもしれないけど、そんな人はこの場にいてはいけない。直ぐに出て行って欲しいものだ。

そして、僕はその前者というか……彼らと同じ。

この場では、彼らの姿が当たり前なのだ。

僕だけが、特殊みたいなものだ。


僕は、一時間ぐらい彼らと戯れてから、本来の目的の場所に向かうことにした。

「悪いけど、もう行かないといけないから」

勿論、子供たちは不満を口にする。

とはいえ、彼らもふざけてやっているものでないくらい承知の上だ。

「わかった、わかった。また今度、遊んであるから」

すると、さっきまでの不満はなんだったのか、子供たちは喜びの声を上げた。

ホント、子供って言うのはある意味強いよな――

その後、僕の別れの言葉に、子供たちは素直に送り出してくれた。


そして、僕はさっきまでいた病棟から診察棟に移動して来た。

『薬物治療課』と付けられている診察室の扉を開け、中に入った。

「時間通りに来たな、少年」

僕が扉を開けるのと同時に、回転椅子に座っていた加原(かはら)医師が振り返った。

しかも、よく見るというか――見なくとも苦笑いを浮かべていることがわかった。

「今日も頑張ってロリプレイか?」

「ろ……ロリプレイって……」

この人はいつもこんな感じだ。そして、ここにいる子供たちが慕っている人だ。

と、言うかこの場所にはこのような人が必要なんだ。

「ま、これからもヨロシクやってくれ」

「医師として、それはやばくありません?」

「さ~な。生憎ながら、文学知識を持っていないのでね」

僕も、加原さんと同じような苦笑を浮かべながら、丸椅子に座ると、即座に診察が始まった。

「さ、喉を見せてくれないか」

僕は、指示に従い口を開けた。

「ふむ。喉の異常なしか」

続いて、上着を首元まで捲り上げた。

「よし、こっちも異常なし」

そう良い、加原さんがカルテに何やら書き込んだ。

いつも思うけど、カルテに書く文字ってどこの言葉なんだか……

「ま、いつも通りの現状維持だな」

「はい」

「お、それと今日で切れだな」

カルテに押した印鑑の日付を見て、加原さんが告げた。

「顔色もよし、体調よし。点滴やるぞ」

ま、僕には拒否権とかないけど、一応言いたい一言だけポツリと呟いた。

「優しくしてくださいね」

「……男に言うべき言葉ではないぞ、少年」

「同感です」


それから程なく、僕は加原さんに処置室へ連れてこられた。

あ、ちなみに処置室と言うのは、点滴や採血をする為の病室のこと。

そして、僕はそこに来て、いつも通りベッドの上に横になった。

「さて、こちらの準備も終わった」

いつの間に、準備したのかの?

既に、加原さんの隣には器具一式が揃っていた。

恐らく――と言うか、絶対看護師が前もって準備したんだろ。

「ま、いつも通り一時間程度で終わるからな」

「わかりました」

加原さんは僕の右腕を捲り、手馴れた手つきで僕の肌に点滴の針を刺した。

「いつも、思うんだが……」

「?」

「少し、親に甘えたらどうだね?」

刺した針が落ちないようにテ―プで固定しながら、加原さんが訊いて来た。

それに対して、僕は出来るだけの笑顔を作り、加原さんに答えた。

「出来るものであればしてます」

確かに、その通りだった。

そして、これがふざけや気遣いなんかではなく、僕の本心だった。

「あ、それと」

「いつも通り、家に帰るのか?」

「そうです」

「わかった。余り無理するなよ」

加原さんは、肩をすくめそう答えた。

ま、点滴を打つことそのものが無理してるけどね。

そして、加原さんは周りにいた看護士にいくつかの指示を出し、処置室から出ていった。

その際、僕に向かって一言言い残した。

「君は、まだ甘えることが出来るんだから、十分に甘えるべきさ」

僕は、点滴の第一作用の睡眠薬で、ゆっくりと瞼を閉じ、暗闇の中に落ちて行った。


僕の名前は、此方(このがた) (よう)

外見はどこにでもいそうな中学三年。成績は、上から数えると片手で数え切れる。

高校受験は経験済み。

そして、三ヶ月後には晴れの舞台の卒業式が控えていた。


けど――僕は、その式で卒業するのは、中学だけじゃない。

この世界から、卒業しなければならなかった――


なぜなら、僕の命はどんなに長くても三ヶ月しか持たない。

それは、どんな手段を使っても変わる事がない、事実。

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