幽霊 田中さん
暑い夏といえば、祭り、プール、アイス、クーラーの効いた部屋。
後は怪談話。
「そういえば、この学校ってでるらしいよ? 」
クラスの女子が昼休みに話す声が聞こえてくる。
別にその女子が気になる子というわけでもなくて、たまたま近くで昼食をとっていることで嫌でも耳にしてまう。
「出るって何がー? 」
「幽霊」
「マジで? 怖っ」
本当に怖いと思ってるのか? っと女子達の会話を聞きながら心の中でツッコミをいれる。
「なんでも夜の10時ぐらいに、学校に忘れ物を取りにきた人が見たんだって…昔この学校の屋上から飛び降りた女の子の幽霊が夜な夜な徘徊してるらしいよー」
「やばー! 」
何がヤバいんだ!
女子の掛け合いが面白くて顔がにやけそうになるのをこらえる。
「お前、幽霊とか信じてる? 」
「なんだよ、急に…」
一緒に昼飯を食べていた友人が喋り始めた。
おそらく彼も彼女達の話を聞いていたんだろう、なんとなく彼女達の話を聞いて話題が出来たなんて釈に触るので知らないフリをする俺だった。
「別に、夏だしな…」
男というものはこういう時めんどくさい。
お互い同じことを思ったようだ。
「いるわけないだろ」
「俺はいると思うんだよな」
「マジで? 」
やべ、さっきの女子と対して変わらない会話だ。
「いたら面白いし」
そういうものなんだろうか? 彼が夢見がちなのか、自分がつまらない人間なんだろうか少し彼が羨ましいと思ってしまう自分がいる。
あー、幸せ。
学校も終わり家に帰ってきてから、好きなお笑い番組を観て満足気にプライベートの時間を満喫していた。
やっぱクーラーの効いた部屋でのアイスは上手い。
コタツにアイスも捨てがたいが、やっぱりこれだよな。夏の夜を満喫する。
ピロンっ
携帯が音を鳴らす。
友人からのメッセージが届く。
「明日英語の課題提出だったよな? 」
まるで夢から覚めたように、ふにゃふにゃになった脳が固まる。
やっていない。
携帯をその場に放置して、慌ててカバンを開ける。
英語のプリント、英語の…
俺は溜息を吐いた。
「忘れた」
明日早く起きて学校に行くしかないか…
時計を見ると20時前、今から行って帰ってきたら今日中には終わるんじゃないか?
そう思い、早めに知らせてくれた友人に感謝しながら慌てて制服に着替えて自転車のペダルを回した。
友人には、ありがとうと返事だけしておいた。
学校にはもちろん誰もいなくて、守衛さんいないかな?と職員玄関を見たが開いておらず、しょうがないからと一階の窓を触り開いている教室がないか探した。
運良く窓の鍵を閉め忘れた教室に巡り会えて、不法侵入にはなるがそこから入ることにした。
時間は20時30分頃、順調だな。
計画通りにいっていることが嬉しくて鼻歌まじりで廊下を歩いた。
廊下の温度はひんやりと冷たくて、気持ちがいい。
夏の夜、独特の虫の鳴き声と、少しベタつく体。
ただ夜だけというだけで雰囲気が違う学校。
教室に着いてドアを開けた。
ガラガラ
目を疑ってしまった。
暗闇といっても月明かりがあるわけだから真っ暗ではないから微かに見えてしまった。
「あははははー!」
女の子が机の上で両手を広げてぐるぐる回ってる姿を……
「は?」
「え?」
目が合った瞬間ドアを閉めてしまった。
「今のもしかして……」
冷や汗が背中を伝った。
昼間の会話を思い出す。
「昔この学校の屋上から飛び降りた女の子の幽霊が夜な夜な徘徊してるらしいよー」
女子だった、あれは女子だった!
いやいやいやまさか幽霊とか、そんな…
俺は恐る恐るドアを開けた。
「見られた恥ずかしい、見られた恥ずかしい」
何か蹲ってる!
しかも、見られたのが恥ずかしかったのかかなり落ち込んでる。
どうやら、俺の考えすぎみたいだな。
俺は教室の中に入った。
「えっと、お前こんなところで何してるの? 」
俺が声をかけると、彼女はびくっと体を揺らしてこちらを振り返った。
意外に可愛い子だった。
「夜の学校で遊ぶのが楽しくて…」
こいつ頭おかしいんじゃないか?
これは関わらない方が良さそうだな。
俺は、彼女と目を合わせず自分の席からプリントを探した。
「そうか、どこのクラスの人間かしらねぇけど早く帰れよ」
「帰るって…私ここに住んでるので」
「そうか……は? 」
今こいつなんて言った?
「だから、ここに住んでるんだって」
つまらなさそうに近くの机に腰を下ろす彼女
「お前、だってココ学校だぞ? 住むつったって…」
「だって、私、幽霊だし」
今度は昼間の友人との会話を思い出す。
「お前、幽霊とか信じる? 」
「いるわけないだろ」
そういるわけないんだ、幽霊なんて
幽霊なんて
「はははっ、ちょっと冗談キツイわ。お前本当病院行った方がいいぞ」
「病院行っても触ってもらえないけどね」
「あはは……ふざけんな! 」
俺は、机の中にあった教科書を投げつけた。
彼女に当たるはずなんだ。当たって床に落ちるはずなのに、教科書は彼女をすり抜け床に落ちた。
「どう、信じる? 」
「マジかよ」
「でた! マジかよ! マジマジーおおマジ! 」
それにしても、妙にテンションの高い幽霊と出会ってしまったな。
「俺、霊感なんて持っていたのか」
「霊感? 違う違う、幽霊……私たちの方が見えないようにする力出してないだけだから。この前も力使ってない時に見られてキャーなんて叫ばれちゃって、こっちがキャーっだよ」
「お前のせいで幽霊話が話題になってるぞ」
「やだ、私人気者なの? 」
幽霊って怖いものだと思ってたけど、なんていうかコイツはただのバカだ。
「お前、この学校で自殺したわけ? 」
「いや、ただの病気だよ。何そんなかっこいい説明がついてるの? じゃあ次生きてる人間に会ったら、許さないとか言った方がいい?」
「余計、騒ぎになるわ! 」
「残念」
調子が狂う。
「んで、お前何でここにいるわけ?」
「一応、名前があるわけで」
「………何? 」
「田中って言います! 」
「…田中さんは何でここにいるんですか? 」
「学校が好きだから」
「はぁー……」
もういいや、馬鹿馬鹿しい。
幽霊怖くねぇし、疲れたし、暑いし。
俺はプリントを見つけ教室を出ようとした。
「帰っちゃうの? 」
「ここは俺の家じゃねぇしな」
「また会える? 」
「夜の学校なんて来ねぇよ」
「そっか」
「じゃあな、田中さん」
俺は教室のドアを閉めた。
入ってきた窓から出て、外に出て自転車のペダルに足をかけて学校を見上げた。
「幽霊なんて、いるわけないだろ。」
夢だ、全部夢。忘れてしまおう。急いで家へ帰った。
「ふぁ〜あ〜…」
自然とあくびが出た。
家に帰ったら予定よりも2時間後に宿題が出来上がり、おかげで寝不足だ。
「お前、昨日の返信なんだよ」
「あー? はよ」
「はよ、せめて会話で返してくれ」
昨日はそれどころじゃなかった。
友人からのありがたいメールの後に、学校へ行って、そしてそうだ
ぐるぐる回る彼女を思い出す。
「何か疲れてるな」
「あぁ、なんか変な奴と知り合ってな」
「変な奴? 」
「田中さん」
「呼んだ? 」
「え? 」
友人と喋っている間に割り込んできたのは、例の田中さんだった。
「会いにきちゃったよ」
嘘だろ?
「おい、どうした?」
友人には見えていないのか、彼と田中さんが同時に喋りだす。
俺は顔をひくつかせながら、その光景を見つめるしかなかった。
これが彼女、田中さんと俺との出会いだった。
続きません。
夏といえばホラー。
ホラーを書きたかったけど全く思いつかず、結果こうなりました。
今後田中さんは、主人公とてんやわんやと過ごす予定です。
とりあえず、夏が好きなんです。