一章 魔法少女-The Angellift-
「なんだ、夢か」
御南斗は不思議な夢で目を覚ました。寝起きは良好とは言えない。血まみれの少女が夢の中に現れたのだ。それで気分がいいはずがない。
「それにしても、なんだったんだ」
とてもリアルというか、「夢だから」の一言で処理してしまっていいのか迷ってしまうほどの現実味を帯びていた。
「まぁ、深く考えても無駄か」
モヤモヤした気持ちを払う意味も含めて、彼がベッドから降りようとしたときだった。
「ん……?」
モゾモゾと、布団が何かの生き物のように蠢いたのだ。
しかも脛の辺りが妙に温かい。まるで人肌のような温かさだ。
「怖いもの見たさ」という言葉がある。人は正体不明のものに対して異常なまでの関心と興味を持つというあれだ。
何が潜んでいるのか分からないからこそ見てみたい欲求が彼に布団を剥がさせた。
「!?」
そこには、一糸纏わぬ少女が寝息を立てて眠っていた。雪のように白い肌に、対照的な漆黒の長髪。芸術品とも形容出来うるほど端整な顔立ちと肢体。
御南斗はドキッ! と、胸の中で高鳴るものを感じた。
この少女に見覚えがあった。いや、もしかしたら見覚えがあったでは済まないのかもしれない。
つい先刻、顔合わせしたばかりなのだから。
――そう、夢の中で。
「ぅ、ぅん……」
外気に触れたせいか彼に気が付いたせいか、少女が眠そうに目を開ける。
「あ、おはようー」
眠気を吹き飛ばす勢いで少女が挨拶を済ませるなり、一直線に彼に抱きついた。
裸体で。
「昨晩は助けてくれてありがとう!」
「――ッ――!?」
とてつもなくスベスベした肌が密着して温もりが伝わって息が触れ、女性経験皆無な御南斗は声にならない叫びを上げた。
◇
「はい、オムライス」
「いゃった!」
落ち着くためと、話し合いの場所として居間を設けた。つい数十分前まで“あんなこと”があったため、御南斗としてはこうして二人で同じ空間にいるのは些か抵抗があった。
少女の方はどうかといえば問題なし。無我夢中にオムライスを頬張っている。
「あのさ、朝ご飯を食べてるところ悪いんだけどさ」
今となっては彼一人となってしまったが、この家の住人は元々四人。彼と姉と母と父。女性物の服の品揃えは抜群とまではいかないものの、必要最低限の量は残っている。彼女にはサイズがピッタリな姉の部屋着を着用してもらった。
「なぁにー?」
「さっきの話もう一度訊かせてくれるかな。その、俺と君が会った場面」
その部分を念入りに確認しておきたい。彼女は御南斗のベッドに潜り込んでいた。つまりはそこに至るまでの過程があるということだ。朝起きたら異性と裸でベッドで過ごしていた結果の経緯なんてそう多くない。もしかしたら学生の身でありながら一晩の過ちを犯してしまったかもしれないのだから。
「だから、あなたが昨夜にわたしを助けてくれたの。死にかけてたわたしの命をあなたが繋ぎ止めてくれたの」
「それは本当なんだよね!? 嘘じゃないよね!?」
「本当だってばー」
この証言で彼は一安心する。
「(そっか、あれが正夢ってやつか)」
でも厄介なことにもう一つの疑問が生じた。どのようにして彼女を救い出したかだ。
彼女の話を辿ると、目を覚ましたときにはもう死ぬ一歩手前だったらしい。
それ以前の記憶がないのでそれが事故的なものか人為的なものかは知る由もない。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。俺、何も出来ないはずなんだけど」
保健体育の授業の一環として人工呼吸だの心臓マッサージだのの応急処置程度ならば心得ているのだが、生死の狭間から人の命を救うまでの大層な技術なんて学んでいない。
「あなたは何もしてないよ。あなたがしてくれたのはリンクの接続だけ」
「……は?」
「生体リンクだよ? エンジェル・リフトの生体リンク」
「ごめんなさいちょっと何言ってるか分からないです。はい」
「えぇ!? じゃあ、う~ん。なんて説明したらいいのかな……」
彼女は顎に手を添えて、頭を小さく横へ倒す。
「――ねぇ、十七年前のことは知ってる?」
「まぁ、知ってるけど」
彼が「覚えてる」ではなく「知っている」と答えたのは、これから語る昔話の経験者ではないから。
「でも、それがどうかしたのか?」
「うん。まずはそこから話さないといけないからさ」
十七年前。御南斗が生まれた年。日本では世界に類を見ない超常現象が発生した。何の前触れもなく空に亀裂が入り四足の獣と六枚羽の天使が落下してきたのだ。
天使に意識はなかったが、獣は違った。姿勢を正すと同時、鬱憤を晴らすかの如く暴れだした。
咆哮一つでビルは崩落。
爪の一振りで生き物は真っ二つに断裁。
牙は硬度なんてものを無視して差別なく噛み砕いた。
そんなバケモノを野放しにするはずもなく、自衛隊が立ち上がったものの、いかなる強力な兵器を以ってしても傷一つどころか怯ませることすら叶わなかった。
そして最後は抵抗空しく全滅した。
人々が意気消沈してからも、獣はますます殺戮と破壊と暴虐の限りを尽くした。
だが悪夢はいつかは過ぎ去るもので、この大惨事にも終末が訪れた。
倒れていた天使が意識を取り戻し、獣を殺したのだ。
それは相打ちだった。
天使の不意の一撃に獣は即座に反応。死してなお、最後の抵抗として三本ある角で天使を貫いた。
これで何もかも終わりを告げた。誰もがそう勘違いしていた。
これはまだ序章でしかなかった。
それから数年の月日を経、大災害の傷跡も癒えた頃、再び獣が出現した。天使はすでにいない。獣に対抗出来うる手段を人類は持ち合わせていない。
なす術なく蹂躙されると誰もが予見したとき、颯爽としてヒーローは登場した。
それが魔法少女、殺気院峰。
彼女はいともたやすく獣を駆逐した。
国民は政府が投入した救世主に、彼女のあまりの強さに、美しさに、格好良さに、勇ましさに、凛々しさに歓喜し、熱狂した。
その日からが始まりだった。獣がときおり空から降ってくるようになったのは。
「長かったな」
「ちょ、ちゃんと聞いてた!?」
さて、前置きはここまでにして本題へと戻る。
「あなたもご存知の魔法少女。あれは一体なんだと思う?」
「何だって、国の獣への対抗手段じゃないの?」
「うん、そうだよ」
彼女は一拍間を置いてから、
「……そのことについてあなたは何にも疑問を感じないの?」
傷を負わすことすら困難だった獣との絶望的な戦力差を、どうやってたった数年で埋めたかについてだ。
「だから、あれじゃないのかな。レーザー兵器とか」
「今の技術力じゃ実現できませんー」
「な、ならオーパーツとかの超古代文明の力を借りて」
「それが本当の話だったら出来るかもしれないけどね。でもどこから掘り返すの? それ以前に古代文明のメカニズムを解読できるの?」
「うっ……」
何でだろうか。彼女に真正面から論破されると無性にイラっとする。
「もう。ならわたしからヒントをあげる。一番最初に獣にダメージを与えたのは誰?」
そんなもの、有史以来ただの一人しか事例がない。
「天使……?」
「そうだよ。魔法少女はね、天使の血を引き継いでるの」
「さてはお前バカだろ」
間髪入れずに御南斗はそう言い放った。
「!?」
彼は呆れていた。魔法少女が天使の子孫だとか、天使と人間で交配でもしたというのか。
「ほんとなんだもん! ほんとのことなんだもん!」
興奮のあまり身を乗り出した彼女に、御南斗は内心驚いた。
「だってなぁ。天使が落ちてきてから十数年も経ってんだぞ? それに天使は死んでんだから子供なんて作れないだろ」
「え、子作りしなくても天使の遺伝子は受け継げるよ?」
その代表的な例がクローン技術。命を弄る非人道的行為として条例で禁止されてはいるが、その技術力は本物である。有名な成功例は羊のクローンが挙げられる。
「心臓が止まったってすぐに細胞が死ぬわけじゃない。冷凍保存して細胞の治癒機能を手助けしてあげればいくらでも培養できるよ」
「だとしてな、そもそも天使の細胞を受け継がせる必要ないだろ。わざわざ天使モドキを造るならサイボーグとかでいいじゃないか」
「分かってないなぁ」
チッチッチッと、彼女は自慢気に人差し指を左右へ動かす。
「そんなの意味ないよ。次元が違うもん」
「次元?」
「そう、次元」
二次元(絵)は三次元(現実)には干渉できないが、人は筆を執って絵画に干渉できる。それと同じだ。下の次元では上の次元に手出し出来ないが、上の次元は一方的に下の次元に介入できる。
だからこそ魔法少女は造られた。獣と同じ次元に立つために。
理屈は合っていた。理に適っていた。合理的だった。
だからこそ御南斗は何も言い返せなかった。
「でもね、人の科学力で個人一人に天使の力を制御させるのは力不足だったの」
そこで役割分担という手段を用いた。単独で魔法少女に変身するプロセスを止め、一人に天使の力のコントロールを一任して、パートナーに力を分け与える方法に変えた。
天使の因子を受け継ぎ、天使の力を一任されているものをエンジェル・リフトと呼ぶ。
そして、
「わたしがそのエンジェル・リフト」
ここで話は振り出しに戻る。御南斗がどうやって彼女の命を繋ぎ止めたかについて。
「あなたはわたしとリンクを繋いでわたしを助けてくれたの」
生体リンク。それはエンジェル・リフトのみに許された信頼の形・パートナーの証。会話を交わさない意思疎通や感情の譲渡、生命の共有など、リンクを結んだ者同士は文字通り一心同体となる。
「あなたが死ななければわたしは死なないし、わたしが死ななければあなたは死なない」
ここまでの説明を受けて、御南斗は腹を抱えて盛大に笑った。
「ちょ、何で笑うの!?」
「え、だって、あまりにも良く出来た作り話だなぁって」
「作り話じゃないし!」
あまりにも失礼な態度を取る御南斗に彼女の堪忍袋の緒が切れたようで。
「ようし分かった! なら証拠を触らせる! それなら信じるよね!」
「あぁ、うん、いいよ。何でも信じてあげるよ」
彼女は服を捲り上げたと思うと、御南斗の腕を掴むなり胸まで潜り込ませた。
下着は嫌がったので着けさせてはいない。サラサラの地肌だった。
「!?」
御南斗は腕を引っ込めようとするも、彼女がそれを阻止する。
「ちょ、何やってるはな――」
「聞こえる? 心臓の音」
静かだった。肉を隔てた彼女の心臓から命の鼓動が伝わって来ないのが分かる。
「わたし、心臓がないの。でも、それでも生きていられるのはあなたのお陰。ねぇ、これでもまだ信じられない?」
「……わ、わかったよ!」
ボソッと、御南斗は呟く。
「ん?」
「分かったから信じるから!」
この場合、決定的な証拠を突き付けられてそう口にしたというよりも、逃げたい一心で口走ったと説明した方が正しい。
「だから、その……早くこれを離してくれ!」
御南斗も男児だ。これ以上女の子の夢が詰まった柔らかいものを触っていたら理性がフライアウェイしてしまいかねない。
「え? もっと触ってもいいんだよ?」
「何言ってんだ!?」
◇
登校した御南斗が自分の席に着いて初めてしたことは溜め息だった。
「ん? どうした御南斗。いつにもなくため息なんかついて。お前らしくないぞ」
彼の救難信号をキャッチしたのは同級生の神夜神。ビジュアルは端的に述べるなら超が付くほどのイケメン。友達であることが誇らしく思えるくらい。
そのあまりの人気ぶりに校内にファンクラブが設立されたことを本人は知っていながら、そのことをまったく鼻にかけず、男の友情を何より大切にしてくれるという人格者である。
「あぁ、ちょっとな。とある事情で家族が増えてさ」
時間は約三十分前に遡る。
「君がそのエンジェル・リフトっていうのは分かった。でさ、それも踏まえてこれから警察呼んでいい?」
「警察!? なんで!?」
御南斗の唐突な発言が彼女の度肝を抜いた。確かに、彼女の視点からすれば何も悪いことをしてないのに警察を呼ばれるのは理不尽である。
「話をまとめるとさ、君は政府が造った生物兵器みたいなもので、ようは政府の所有物なんでしょ。なら警察に身柄を引き渡すのが正解じゃない?」
まぁ、もっとも、そのエンジェル・リフトが人型でなければここまで話を訊いていなかったのだが。
「嫌だ嫌だここにいる! わたしはここに住むの!」
「住むったってなぁ……」
「……いいの? 警察なんか呼んで」
彼女は何かよからぬことを企んでいる表情をしていた。
「おいそれはどういうことだ」
「もし御南斗が警察を呼んだりしたら、わたしは警察に助けを請います」
「!?」
彼女はその幼稚な言動とは裏腹にかなり出来るタイプのようだ。女の子という特権を最大限に悪用してきた。電車で女子高生に「この人痴漢です!」と手を掴まれたら最後、待っているのは破滅。
「警察はどっちを信じるかなぁ。わたしの言葉かな? それとも御南斗のことかな?」
これにはもうどうしようもなかった。
「く、くそ。分かった。要求を呑もう」
「いぇっしゃい!」
幸い、金銭難に陥ってはいない。一人分の生活費なら問題なく賄える。
それに彼としても家族が増えるのは嬉しかった。これでようやく独り暮らしから脱却できるとなると浮き足立ってはいられない。
御南斗の「女の子と一緒に住めるから」という本音は秘密でお願いします。
「そういえば、まだ君の名前を教えてもらってなかった気がする」
「え、わたしの名前? そんなのないよ」
そういえばと彼女は記憶がないのだと、彼は思い出す。
「じゃあ、好きに呼んでいいか?」
「いいよ!」
と切り出したものの、これといった名前が思いつかない。
「……椎名、でいいかな」
「何それ凄い良い名前じゃん!」
「そ、そうか?」
椎名とは姉の名前。彼女は姉に非常に似ていたのだ。髪型も、顔立ちも、身長も、天真爛漫な雰囲気も、何もかも瓜二つ。まるで海崎椎名の生き写しだった。
「あなたのお名前は?」
「海崎御南斗。……漢字分かる?」
「わかんない」
以上、回想終了。
「ほぅ、家族ねぇ。独り暮らしのお前には丁度良いんじゃないか?」
まさかその家族が本当の意味での人だと捉える人物はまずいない。神夜は何かの比喩表現なのかと勘違いしているらしく、話を上手に合わせてくる。
「いや、かなり手間がかかりそうだな」
特にお世話に。
「それで、どんなやつなんだ?」
「猫みたいなやつだなぁ……」
「ほぅ、野良猫に餌あげたら懐かれた感じか」
「まぁ、そんな感じだな」
二人で談笑していると、御南斗は食い入るような視線を感じた。そちらへ目を配ると、いつの間にか覗き込むような形の人集りが扉に出来ていた。どうやらイケメン君の声と匂いと気配を嗅ぎ付けた他クラスの女生徒が野次馬として見物に来ているらしい。
しかし所詮は烏合の衆で、人数が増えると陣形を維持できなくなり、業を煮やした一名が教室に侵入してくるのを皮切りに、残りの生徒達が雪崩のようにドッと押し寄せてきた。
あっという間に囲まれ、逃げ道を封鎖される。
「神夜君、実はわたし猫飼ってるの」
「へ、へぇ、そうなんだ」
「(訊いてねぇよ)」
悪態をついたのは御南斗。
「わたしだって猫飼ってるんだよ!」
「何よ! わたしが先に話しかけたんだからシャシャリ出るんじゃないわよ!」
「うるさいわね! あんたの話なんて誰も聞いてないわよ!」
正論だ。そして彼女の話も誰も聞いていないし訊こうともしていない。
「あんたと神夜君はビジュアル的に合わないのよ! 月とすっぽんなのよ! 雲泥の差なのよ! 大人しく遊園地で遊んでた男と寝てなさい!」
「なっ!? 今そのこと言わなくてもっていうか何のことよ!」
「どうせあんたのことだから神夜君も遊び目的なんでしょ!?」
「それはあんたのことでしょうがぁああぁああぁ!」
なにか、耳にしてはいけない部類の話を聞いてしまったようだ。
と、取っ組み合いに発展しそうな二人を退かせて一人の女子が図々しくも前に出てきた。
「わたしね、スコティッシュフォールド飼ってるの。凄いでしょ神夜君!」
スコティッシュフォールドはイギリス原産の猫の種類である。折り曲がった耳が何よりの特徴だ。
自慢話で優越感に浸る彼女をどつき、次々とまた別の女生徒が割り込んでくる。
「わたしはマンチカン飼ってるよ!」
「定番はやっぱりアメリカンショートヘアでしょ!」
「いやいやペルシャよ! ねぇ神夜君!?」
「あ、御南斗だー」
「猫は種類じゃないのよ種類じゃ!」
ここの集団は主に猫好きか猫を飼っている人の集まりなよう。
「ん……?」
空耳か幻聴か。神夜にアプローチを仕掛ける女子の声に混じって椎名の声が聞こえたような気がした。「いやいやそれはない」と御南斗は即座に否定する。だって彼女は家で大人しくお留守番しているはずなのだ。
「おーい御南斗ー。無視しないでってばー」
「!?」
今度は聞き間違いではない。
「ちょっとごめん。退いてくれる?」
人をかき分けた先に椎名がいた。廊下でこれでもかと手を振っている。
「椎名!?」
「えへへ。来ちゃった!」
なんて、可愛らしく言ってくる。
「来ちゃったじゃねぇよ! 何でここにいるんだよ! てかどうやってここに!?」
「警備員のおじさん何も言わずに入れてくれたよ」
「お前なぁ……」
椎名の格好に目を通して初めて、顔パスで門を潜れた理由が分かった。彼女は姉のクローゼットから無断拝借してきたであろう制服を着ていたのだ。それはもう見事に様になっている。こんなに酷似していたらもう本人でいい。
「ふぇええぇ~ん。寂しかったよぅ」
いきなり御南斗の胸に顔を埋めたかと思うと、手が背中に回ってきてがっちりホールドされた。椎名は幸せそうで何よりだが、御南斗に向けられるクラスの視線が痛い。というか怖い。特に男性陣からの視線がヤバイ。何がヤバイってそりゃあもう今にもハサミやらカッターやらを取り出しそうで怖い。
「や、あ、あの、、椎名さん?」
「ふへへへ。暖かいですぅ」
抱きつかれるのは二度目とはいえ、女の子と密着するのはどうやっても慣れない。しかも公衆の面前というある意味羞恥プレイを披露してしまっている。心臓が破裂しそうで、もういっそのことここで死んでしまいたい。
「クンカクンカスーハースーハ」
「ちょっと椎名さぁんッ!?」
御南斗は教室が険悪な雰囲気(主に男子からの殺気)に包まれるのを懸念して彼女を抱えて脱出。人通りが少なく、あまり使われていない一階の男子トイレに連行してきた。
「え、こんなところに連れ込んでどうするの? え、何、襲うの?」
「うるせぇよ話を逸らすなよ!」
椎名が学校に来たことを糾弾しようとしたときだった。
――ウウゥゥゥゥウウゥゥゥゥウウゥゥウゥゥゥウウゥゥゥウゥゥウウウゥウゥゥゥ――
と、甲高いサイレンが街中に鳴り響いた。
「ん? これって……?」
御南斗の額から一筋の汗が流れ、表情が強張る。
これは獣の襲来を知らせる警鐘。速やかな避難を要求する警笛。
「おい、椎名。話は後だ。急いでここから逃げるぞ」
「……来るね。ううん。来てるね」
サイレンは街にまんべんなく流される。
なぜなら、獣の被害で最悪、街一つが壊滅するのもザラではないから。
「おい! なに突っ立ってんだよ椎名!」
未だ獣に対する決定的な防衛手段が普及していないご時世、避難は地下通路を介して被害の及びにくい隣街に逃げる方針をとっている。
頼みの綱は魔法少女のみ。市民は逃げるしかないのだ。
全部が時間の勝負。獣が降ってくるのが先か、魔法少女が来るのが先か、死ぬのが先か。
「こっち、だね」
何かを探すように顔を上げながら、椎名はどこかへと走り去ってしまった。
「あいつ……あぁもうクソッ!」
自分勝手な彼女に苛立ちを覚えても、彼の足は自然と追っていた。
非常口へ向かう生徒の波に逆らい、校門を抜けると、
「椎名っ!」
まだそう遠くない彼女の背中があった。
走って肩を掴むと、椎名は小さな非難の声を上げた。
「痛。何するの御南斗」
「それはこっちの台詞だバカ!」
「え、御南斗、怒ってる……?」
今直ぐにも大声で怒鳴りつけたいところだが、そうしてる場合でないと、グッと堪える。
「あぁ、怒ってる。だからこれ以上俺を怒らせるな」
「う、うん」
椎名が怯えているのが分かる。でも、御南斗の方がもっと震えていた。
「椎名、いいか。言うことを聞けよ。急いでここから離れるぞ。学校の近くに地下通路の入り口がある。そこから隣街まで逃げる」
「ごめんね御南斗。それ以外のことなら何でも聞くけど、それだけは聞けない」
「なん、でだよ。椎名……」
怖かった。とてつもなく怖かった。一刻も早く立ち去りたい。
ここにいることが御南斗にとってどれほど酷か、椎名は理解していなかった。
「なぁ、お願いだ」
家族の死が脳裏に蘇る。身を挺して守ってくれた父。遠くへ逃がしてくれた母。そして、御南斗の代わりに獣に殺された姉。めちゃくちゃに噛み千切られ、ぐちゃぐちゃに咀嚼され、最後には骨すら残さなかった。
一日にして何もかも失った。だから、目の前の少女をなんとしてでも生かせたい。
「頼む。一緒に逃げよう。……な?」
「それは出来ないの。わたしはエンジェル・リフトだから。戦う立場だから。逃げるわけにはいかない」
「そんなのどうでもいいだろ。椎名が頑張らなくても峰がなんとかしてくれる」
動機が激しくなる彼の心臓とは裏腹に、椎名は落ち着いた口調で返した。
「ねぇ、御南斗。あなたは本当の意味で信じてないんだろうけど、わたしには戦える力があるの。なのに、それを隠して安全な場所に避難するの?」
彼女はまるで御南斗の本心を見透かすように、真摯な眼差しを向けてくる。
「御南斗、あなたが一人ぼっちになった日、あなたは悔しくなかった?」
言い当てられて言葉も出ない。あのときは自分自身に怒りを覚えるほど悔しかった。それは今でもだ。無力がどんなに最低なことなのか、守られるだけの立場がどれほど愚かか、身を以って教えられた。
「ほら、聞いて」
彼女は震える御南斗の手を、自身の左胸にあてがう。
「これ、あなたのお陰なの。わたしが生きてるのは。御南斗はね、優しい人だから、もしあなたに力があったらこう思ってたと思うよ。……ううん、今も思ってるかな。『獣なんてぶっ飛ばして、みんなを護ってやるんだ!』って。それでね、本当に獣を倒しちゃって、誰も大切な人を亡くさないで笑顔で暮らしていくの」
御南斗は思い返す。子バカにしていた彼女の話を。命の脈動が感じられない身体と照らし合わせて、作り話ではないんだと、実感する。
「もう、遅いよ。いまごろ頑張ったって何も変わらない。俺の家族は帰って来ない」
「そうだね。過去は変えられない」
でも未来は変えられる。死んだ人々は帰って来ないが、死んでいく人は減らせるかも知れない。誰も大切な人を失わずに済むかも知れない。
「ねぇ、御南斗。あなたは戦いたくない? 誰も護りたくない? 護られるだけの存在になりたい?」
あの頃から何も成長していない。家族の命を貰った半生を振り返ってみて、非常に申し訳なかった。何一つ、死後、家族に会わせるに値する人生を送っていない。
「俺、……出来るかな」
もう終わらせたい。
「うん、出来るよ」
止めにしたい。逃げるだけの弱者を。護られるだけの立場を。
「あなたにしか出来ない」
次は、護る側でありたい。
「椎名。俺、戦うよ。頑張る。だから、力を貸してくれ」
「うん!」
椎名は御南斗に口付けした。
直後、爆音と共に粉塵が飛び散り、爆弾のような衝撃波は周囲の建物の窓を叩き割った。
砂煙の中からは腹を空かせたような唸り声が響いている。
「うわ! なんだこれ!?」
コンクリートの粒が風に吹かれ、視界が晴れた御南斗が目線を降ろすと、いつの間にか服装が変貌していることに驚く。学ランに右腕全体を覆うプロテクター。腰にはベルト代わりの小型ポーチと、正直なにをしたいのかよく分からない佇まいをしている。
『エンジェル・リフトの正装でふ』
「ん、椎名か? どこにいるんだ」
声は聞こえるも姿は見当たらない。
『御南斗の中だよ。キャッ』
「……う、うん。そか」
文字通り身も心も一つになってしまった。能天気な椎名と深い階層まで心を繋いでいるからなのか、獣への恐怖心は微塵も感じられなかった。
眼前に堂々とした存在感を放って獣が居座っている。目算だけで体長五メートル以上を有する獣を無視して会話に花を咲かせる余裕も持ち合わせている。
「これが正装か……」
『どう? 気に入った?』
「気に入ったというか、安心したというか」
魔法“少女”という名称から、女の子チックな装いを頭に浮かべていた。
『あぁ、それはリンクの相手が女の子の場合だったらだよ。御南斗は男の子だから』
「何気にそういう細かいところの気配りが出来るのな」
『お。そんなこと言うとスカート穿かせるよ?』
「冗談だ止め――」
自業自得というか、駄弁に夢中で獣の動きに気がつかなかった。
グニッと、爪が御南斗の肉に食い込んだ。ゴミを払うように獣が腕を振ったのだ。
そのままの体勢で真横にぶっ飛び、十数件の住宅を突き破る。
「いった――くない?」
折れた木材に埋もれながら、やはり危機感とは程遠いトーンで口を動かす。通常なら即死のはずなのだが、これでもかというくらいピンピンしている。試しに上半身を起こしてみるも、身体のどこにもこれといった損傷はない。
『ナイス防御』
「防御も何も、俺なにもしてないんだけど」
『あれ、そうなの? おっかしいなぁ。確かに防いでたはずなんだけど……』
「お、おい椎名」
彼は焦り気味に声を発した。
「どうすんだあれ!?」
獣は進路上の障害物を蹴散らしながらこちらに突進して来ている。
『多分御南斗ならモロに食らっても無傷で済むと思います』
「おい止めろ諦めんな! 無傷だとしても何度も飛ばされて堪るか!」
『了解! じゃあ御南斗、めいっぱい両手を前に出して』
こうしているあいだにも獣との距離は縮まりつつある。
「こ、こうか?」
『片足を後ろに引いて壁を押すような体勢で』
五十メートル、四十メートル、三十メートル、
「椎名早くしてくれ!」
獣の巨体と速度から計算して、これ以上時間を浪費してはいられない。
『ういっす!』
「(なんか、殺したくなってきた)」
『目の前に壁を作り出すようなイメージで』
捕食しようと、獣は大口を開ける。
『叫んで!』
「リ・アクト!」
バチンッ! と何かに弾かれ、獣は倒れ込む。御南斗と獣との間には青に近い半透明の、決して厚いとは言えない壁があった。その壁が獣の進入を拒んだのだ。
「何これ。すっげぇぇ……」
これが彼に発現した魔法。「護りたい」強い想いが形と成り、実現された。
『ふむ。やはりこの程度の獣、御南斗の敵ではないですね』
「段々お前のキャラが分からなくなってきたんだけど」
ギギギと、鉄を鋭利なもので切ろうとする音が鳴った。
先ほどから獣は壁の破壊を試みている。
されど壁はビクともしないどころかかすり傷すらつかない。
「よし椎名! ここから反撃開始だ!」
『……え?』
調子が狂う間が抜ける返事だった。
『反撃ってさ、もしかして攻撃のことだよね?』
「それ以外に何があるんだよ」
『そんなのないけど』
「……は? いやいやそんなわけないだろ」
『や、そんなこと言われてもねぇ。ないものはないんですよ』
「じゃあどうやって倒せばいいんだよこいつ!?」
『まぁ、ほら、あれだよ。パンチとかキックとか』
確かにその通りなのだが、如何せん気乗りしない。せっかく魔法を扱えるようになったのだ。やはり最後は魔法で締めたいところ。
「はぁ、地味だけどこれしかないのか」
『ファイト!』
そのときだった。一陣の風を引き連れた“何か”が真上から真下へと落ち、御南斗の壁を真っ二つに引き裂いた。
パラパラと、たくさんの西洋剣が足元に転がる。
「(なんだ、これ……)」
獣でさえ傷を負わすことが叶わなかった壁。
それを裂いた“何か”。
運良く壁の上に降ったから良いものの、頭の上に落ちていたら真っ二つになっていたのは御南斗。
突然の出来事に、彼はしばらく固まってしまっていた。
―――グウゥゥウ……――
獣は考える時間など与えない。
隔たりが消滅したならば、これは好機と、
――グオォオォッォ!――
獣が激昂したように襲い掛かった。
「くっ!」
二度もドジを踏むわけにいかない。
椎名に教えられた手順で両手を前に突き出し、後ろ足で支えを取り、叫ぶ。
「リ・アク――」
言い切る前に、彼の左耳をかすめて、散らばっている剣と同じデザインの剣が後方から飛来し、獣の眼球に命中。進行を阻止した。
「え――」
とある一人の少女が彼の横を無言で通り過ぎた。胸元が大きく開いているなど肌の露出が多く、騎士の鎧をモデルに動き易さを重視したデザインの格好。縦ロールの金髪に碧眼と、日本人の外見からかけ離れたルックス。その容姿はまさに西洋の女騎士と形容できた。
「おい、あれって」
悶え苦しむ獣の目から剣を引き抜いた彼女はまさしく、
「本物かよ……!」
殺気院峰その人だった。
「ふぅ……」
峰は溜め息を一つ漏らすと、迫り来る獣の腕を両断。そして、ついでにと言わんばかりに残りの四肢も切り離してみせた。
そこからのシーンは酷い有様だった。獣に飛び乗ったかと思うと、断末魔を上げる獣が可哀想と同情できてしまうくらいに滅多刺し。
彼女が獣に対してどんな怨恨を抱いているのか垣間見えそうなくらいに虐殺した。
すでに肉塊と化した獣を踏みにじりながら嗜虐色に染まる双眸と、恍惚色に満ちる歪んだ顔色から彼が受け取ったのは強さでも、美しさでも、格好よさでも、勇ましさでも、凛々しさでもなく、単純で純粋な恐怖。テレビでの高評価から一転、御南斗の中で峰は獣よりも恐ろしい存在になった。
「あら?」
不幸にも目が合ってしまう。急いで離れればいいものを、筋肉が弛緩して足が動かない。
「こんなところに一般人。……っていうガラじゃなさそうね。避難はとっくのとうに終わってるはずだし」
返事はしない。出来ない。唇が開閉しない。
「おおよそ、地上の惨状に乗じて盗みを働こうとする不届き者かしら?」
逃げ出せばよかったと今になって後悔した。
「それなら今ここで殺してもいい誰にもばれませんわよね?」
ニッコリと、口角をあげながら、彼女は世界に己の魔法の名を語りかけた。
「『剣戟舞踏会』」
空に大量の剣が出現する。矛先を御南斗に向け、待機。剣の増殖は留まるところを知らず、ついには太陽光を遮蔽する規模にまでその数は膨れ上がった。
「わたくしは興に乗っていますの。ちょっと派手に行きますわね」
「おい! 椎名ァ!」
「堕落」
それが合図として、剣山の空が墜ちた。
「ふざ、けんなァ! リ・アクトォ!」
四角形の壁でこの物量を捌け切れるとは到底思えない。
四方八方をカバーするように、ドーム状のシールドを展開。
全方位から剣が撃ち込まれ、ドームを支える手が重くなる。
「あら、これって、もしかして魔法……?」
『御南斗頑張って! わたしも目一杯魔力送るから!』
彼の額から嫌な汗が流れる。
「どうだろうな。これはかなりヤバイかも」
一本一本に大した脅威はない。ただ、手数が尋常ではなく多すぎる。
手足が痺れてきた。このままだとジリ貧になる一方で、攻め落とされるのは時間の問題。
「おい椎名!」
『は、はい!』
「何か! この状況から抜け出せる手段はないのか!?」
椎名はしばらく考え込んでから。
『……可能性があるとしたら一つだけあるかも』
正し、
『今は使えないよ。一瞬だけでもいいから隙を作らないと』
そうは言うものの、この劣勢で自ら隙を作るのは難しい。
「そうか。なら、根比べだな」
峰の力が尽きるか、彼の筋力が尽きるか。
「椎名。魔力はもういらないから力を貸してくれ」
彼の魔力だけでも充分に耐えている。後は盾を支える力だ。
『う、うん』
椎名が内側から手を貸してくれ、腕の負担が少し減る。
「おい、待てよ……」
刃物が降りしきる中で、御南斗は剣と剣の隙間からおぞましいものを目撃した。射出に使われない幾千の剣が連結に連結を重ね、天を衝かんとする極大な剣を形造っていたのだ。
「あなた、どちら様ですか? わたくしたちの他に同類がいるなんて聞いたことがありません。よって、あなたを敵対勢力と見なし、わたくしが葬り去ります」
一目で悟った。
「【暴虐皇剣・一国潰し】」
壁を切り裂いたのは何本もの剣が束になった一本の剣なのだと。
「あんなの防げねぇぞ」
振り下ろされたら最後。御南斗は終わる。盾ごと、潰される。
「……なぁ、椎名。俺にちょっとした考えがある」
絶対絶命のピンチだというのに、意外にも冷静な自分がいた。
「俺の手伝いはもういいからさ、だからあいつの剣を見ててくれ」
これだけの数の剣を同時に操るのは至難の技。右手と右手で別々の文字を書くのに等しい。必ずどこかにブレやムラがあるはずだ。そこを狙う。
『もし隙がなかったらどうするの……』
「お前なぁ、それをここで言うのかよ」
自衛手段しか持たない御南斗にこの劣勢を逆転させる手立てはない。あるとすればこの状勢を打破するチャンスのみ。
最初から敗戦濃厚だった。
その負け確定の形勢から負ける以外の結末を、僅かながらでも捻り出せるかもしれないのだ。なら、ただ敗北を待つより、藁にすがる方がよほど有意義と言える。
「いいか椎名。失敗することなんて考えるな。そんなもんいくらあったって邪魔にしかならない。椎名は椎名に出来ることだけを精一杯やってくれ」
『うん、分かった!』
「よし。じゃあ頼むぞ椎名」
『アイアイサ!』
峰が柄に手を伸ばす。
『あ、御南斗の目借りるね』
「……は?」
何を言っているのかさっぱりだったが、それを気にかけれる状況じゃない。
「さようなら。久々に力を振るうことが出来ました。あなたに感謝致します」
彼女は規格外なサイズの剣を軽々と持ち上げ、
大袈裟に大雑把に、
振り降ろした。
◇
御南斗の目を借りた椎名は自分の役割をしっかりと理解していた。ただただ、彼の視界で剣の動きが止まる一瞬を見逃さぬように目を凝らし、集中する。
彼の動体視力は彼女の予想を遥かに凌駕していた。恐らく、魔法少女化の補正を受けなくともその瞬間はきちんと視認していたほど。
剣が止まったのは峰が【暴虐皇剣】を振り下ろしたまさにそのときだった。
今や一つの身体となった二人の意思疎通に、齟齬やラグはない。
二人は同時に叫ぶ。
「『リ・ブースト!』」
ほぼ同じタイミングで、一人の少女によって街が一個消し飛んだ。
◇
上空三百メートルで、殺気院峰は自らの手で壊した街を俯瞰しながら自分に呆れていた。
「たった一人を殺すのにずいぶんと力を浪費しましたこと。獣でさえ【暴虐皇剣】の形態を【一国潰し】にまで開放したことはなかったでしょうに」
さしずめ、彼女にとっては幼稚園児相手にムキになってしまった自分を恥ずかしがっている様子。
『……御嬢様……』
彼女の脳内に声が流れた。謙虚で、いかにも大人しそうな少女の声が。
『……差し出がましいようですが、目標は亡くなっておりません……』
峰に話しかけている少女は静寂院小言。魔法少女殺気院峰のパートナー。
『……寸前のところで、加速系統の魔法か何かで脱出したようです……』
「あら、そうなんですか」
悔しがっているようには見えない。むしろ生存を喜んでいるように受け取れる。
「それで、足取りはどうなっています?」
『……はい。たった今避難区域を出たご様子で、探知可能エリアから外れました……』
「まぁいいです。どうせ獣が落ちてくる時期にまた会えるでしょうし」
それ以前にまず追えない。峰は『殺す』魔法に特化している。加速系統の魔法は専門外だし、それに何より、ものの数十秒で街から離脱する速さの物体に追いつける訳がない。
「それよりも今は報告です」
未確認の魔法青年に遭遇したことについて。
『……わたしからお父様に報告しておきましょうか……?』
これは小言なりの小さな親切だった。
「ええ、頼みますわ。街を壊した後でお父様に会わせる顔も、交わす言葉も見当たりませんもの」
『……ですが、反省しているのなら御嬢様ご自身で謝罪するのが効果的かと……』
「やっぱりそうかしら。……あぁでも会うの辛いですし。小言、今日はお願いします」
『……今日“も”ですよ御嬢様……』