第2 話
朝起きてからいろいろな事があったがクロハ達は無事に目的地―ステラ王国首都セレン―に向けて出発することができた。
ステラ王国はクロハ達が住むウォーレン大陸の中央部に位置しており、中央の国家の連邦組織である中央国家群に属している有名な国家だ。
国家の規模としてはそこまで大きなものではなく、土地は狭い上に土は乾いており農業には適さない国である。しかしなぜ有名なのか、それはステラ王国でしか出土しない特殊な鉱石に関係する。
その名も―ステラの星屑―
星のような美しい光を仄かに発していることからその名がつけられており、加工もしやすく、柔軟性に優れさらに魔力をため込む事の出来る性質を持つ鉱石で、良質の魔道器を製造するときに必要になる素材の一つとまで言われている。
ステラ王国はその鉱石の過度な流出を抑えるために、国家が販売を独占、一括管理しており市場に出ることは少ない希少鉱石なのである。ただ年に一度、ステラの星屑を販売する日があるため、クロハ達はその販売する日に合わせて出発したのであった。
クロハと久遠は馬車の運転座席に座って目的地のセレンを目指してのんびりと移動している。クロハ達が通っている街道からまっすぐ進むと町を一つ挟んでセレンに着く。急いで行って村を無視して山を越え短縮する道を行ってもよかったのだがクロハ達はそこまで急いでいなかったので普通の道を通る事にした。
クロハは馬車の後ろで眠っているフィリアの寝息をバックにステラの風景を楽しんでいたが、隣に座っている久遠にとってはただ退屈でそわそわと体を動かしている。
「ボスー」
「うん、どうした?」
クロハは何の気なしに反応する。
「暇です。」
「我慢しろ!」
一言で断する。
「酷いですよー。僕暇なこと大嫌いなのにー。何か起きませんかねー」
「やめろ。お前が言うとシャレにならん。」
クロハは顔を顰める。
「ああ、何でしたっけ翔さんが言ってましたよね。口に出したらそのことが起きるってこと…」
「確か…ふらぐだったかな。」
「それです、それフラグですよ。翔さんの言葉は難しいですね。ってあれ?向こうの方、何か騒がしくないですか?」
久遠がその言葉を口にした瞬間遠くの方で何やら小さいが怒号のような声が聞こえてきた。
距離があったためよく見えないが、察するに商人か何かが盗賊か魔物かに襲撃されているんだろう。
クロハは久遠のフラグっぷりに呆れて溜息をついた。
一方久遠は体を動かせることができそうな気配がしたので嬉しそうに馬車の荷台に行き、置いていた大きな袋を持って出てくる。
大きな袋から中身を取り出すと大きなバスターソードだった。久遠は刃こぼれがないか確認して、それを背中に背負う。
そしてクロハに向かって敬礼しつつ、気合の入ったような声で宣言する。
「ではボス、久遠行きまー「あーよく寝た。」…す」
久遠はお節介にも助けに行こうとした瞬間、横から気の抜けた声が聞こえてくる。
クロハはその声の聞こえる方を向くと、寝起きの顔をした金髪をポニーテールの女性が立っていた。
その女性のスタイルは細身ながらも出るところは出ており、顔は少しキツイ印象を持たれるかもしれないがそれでも、容姿端麗でどこかの貴族を思わせる気品がある。
しかし、着崩してへそを出しただらしない格がすべてを台無しにしていた。しかしそれも二人にとって見慣れたものなので大げさな動作はなかった。
それよりもクロハは決めポーズで意気揚々と出発しようとした久遠のその表情に爆笑していた。
「あれ、久遠どうした?クロハも。」
その女性はクロハの腹を抱えて笑いをこらえている姿と、苦虫を噛み潰したような渋い顔をしている久遠を見て、キョトンとした表情をクロハに向ける。
「くくく、出鼻くじかれてやんの。」
「姉さん…空気読んでくださいよ。」
「はぁ?」
出てきた女性フィリアは、何を言われているのかわからず頭をひねる。一方久遠はまったくといって憮然な表情をしていたが、今することを思い出したのか久遠は気合を入れ直して宣言する。
「改めて、久遠行きまー「ちょっと待って」…なんですか!さっきから姉さん、僕の邪魔して。」
久遠が先程から行こうとしていたがちょこちょこ邪魔され、少し怒る。だがそれに意も返さずフィリアは遠くの方を見て話を続ける。
その視界の先には盗賊とその集団に襲われている人たちがちらほら見える。
「久遠、お前あの乱闘に参加するのか?」
「ええ、そのつもりですけど。」
久遠がそう答えると、フィリアはにやっと笑う。
「よし、私も参加する。久遠、どちらが多く倒せるか勝負な。」
「え?マジですか。」
「マジ、マジ。私はもう着替えたし行くぞ。負けた方罰ゲームな。」
いつの間にかフィリアは先程の着崩した服ではなく、いっぱしの女性冒険者のような恰好になって、出撃準備万全な出で立ちだった。
久遠はその様子を見て気合を入れ直し靴をしっかりと履く。
そして、フィリアが「スタート」と言うと二人は馬車から飛び出し、かなりの速さで二人とも向こうにある襲われた馬車の方に駆けて行く。
一人残された久遠は二人の後姿を見て肩を上げヤレヤレと言って苦笑し、先程より早く馬車を走らせ二人の後に続いって行った。
「はぁはぁ、くそ、このままでは…」
私は愛用の剣を振りながら、馬車を守るようにして戦っていた。周りには、向こう側に見えるだけであと十人以上の盗賊が馬車に向かってくるのが見える。奴らの仲間は3人以上倒したがまだ全然減った気がしない。
一方で私の仲間は殆ど奇襲で倒されていて「生きている奴はいるのか」と呼んで見ても返事がない。何度も何度も読んでみると私の守っている馬車の反対側から聞いた事の有るしかし弱った声が聞こえてきた。
「レスター、レスターか。まだちゃんと生きているか?」
「生きてますよ、ラナさん。でも今最悪の気分ですよ。鎧もボロボロだ。」
「そうか、あと少しで援軍が来るはずだ、それまで持ちこたえろ。」
「…ハイ。」
援軍が来る。私はそう思い続けあの方の乗るこの馬車を守り続けてきた。しかし一向に味方の騎士が来る気配はない。
もしかして来ないかもと言う最悪の考えが私の頭をよぎるが、首を振ってそれを打ち消す。そして剣を構え直したところで先程より弱った声が耳に入ってきた。
「ラナ…さん」
「どうしたのレスター!」
レスターの声が先程より、だんだんさらに弱くなっていくのがわかる。そして敵の来ないタイミングを見計らいレスターを見ると、息も荒く顔色も青くなっていて、遠目から見ても明らかに危険な状態だった。
「毒…です、ね、矢、に付着、して…ました。もう、腕が…上がりま、せん。」
「な!?」
息も絶え絶えでレスターは告げる。
…何てことを。レスターに抜けられると守るどころかこのままでは。
私は守れないかもしれないと言う焦りと長時間戦い続けた疲労で私の剣の持つ感覚が鈍るのがわかる。しかしどうする事もできずに、目の前にいるにやにや薄笑いを浮かべている男に切りかかる。
いつもならもっと早く振れるはずが剣を持つ力が抜け、男は私の剣を受け止め、そのまま無情にも弾き飛ばした。
そして、縁がないことを確認すると気持ちの悪い色欲に満ちた目を向けこちらに近寄ってくる。
「えへへ、嬢ちゃん、良い体つきしているな。」
男はそういうと私の身を拘束しようと手を伸ばしてきた。私はその手を紙一重で躱し拳で相手に反撃するも受け止められ逆に捕まってしまった。
「何すんのよ!?」
「えへへ、痛い目見してやるよ。」
男はそういうと私の腕を掴み私を押し倒した。
「な、や、やめて。」
「他の騎士もいなくなったところだし、こんな女見つけたら一発やるに限るぜ。なぁ皆」
その男の周りにいた小汚い盗賊の仲間たちはいやらしい表情を浮かべ「おう」と答えていた。
私はその顔でその男が何をしようとしたのか理解してしまい、必死に暴れる。しかし連戦の疲労と腕を持たれているため抵抗らしき抵抗ができなかった。
男たちは私のその姿を見て大笑いしてくる。
悔しさと恐怖で涙目になり、暴れるも男はにやにやして手を伸ばし、私の服に手をかけるその瞬間目を閉じてしまった。
私はこの後のことを、一生忘れないだろう。
悔しさと恐怖に目を瞑り怯えていたが、いつまで経っても何もなく、腕を掴まれている感覚が急になくなったので、びくびくしながら少しづつ目を開けると、目の前に立っていたのは先ほどの男ではなく、白い髪の凛々しい私と同じくらいの年に見える少年だった。
周りを見ると小汚い男たちは全て地べたに倒れており誰一人として動く者はいなかった。
再び少年を見るとその目には安堵の表情が浮かんでいるのが見えて、感極まりその見知らぬ少年に抱き着き泣きついてしまった。
少年は、私のその行為に慌てて要る様子だったが、何か諦めたのか私を抱きしめて背中をなでてくれた。
そしてすぐに少年は優しく私を立ち上がらせてくれた後、止める間もなく遠くで何かに驚いている盗賊たちの方へ向かっていった。
「そうだ、レスターは!?」
私はふと思い立ちレスターのもとへ向かう。毒に侵されたままでは死んでしまうと思い向かっていったが、するとそこにはきれいな金髪の女性がレスターの傷口に回復魔法をかけてくれていたのが見えた。周りにはピクリとも動かない盗賊達の姿があって驚いた。
女性はそのままレスターの傷口が完全に塞がったのを女性が確認すると、白髪の少年と同じように遠くの盗賊の方へ駆けて行くのが見えた。
私はレスターの顔色と傷口の状態を見て安堵する。
「…レスター、立てるか。」
「…一応何とか…いてててて。」
レスターは傷口を抑え痛みを我慢し立つと、盗賊団の方を向く。私も同じ方向を向いた。
「あの人たち、何者でしょうね。」
「さぁ、今は生きていることに感謝しないといけないよ。」
「そうですね」
私は盗賊達が居た方を向くと、盗賊達はもう殆ど謎の二人組に倒されていた。