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金の羽  作者: yu
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第1話

 「ふぁぁぁ、よく寝た!」

 太陽が昇ってきて、朝日が差し込んでくる頃一人の青年はベットの中から出て、窓から外を見る。

 外の天気は雲一つない快晴で、もう冬に差し掛かろうという時期なのに暖かいというより熱いと感じるそんな気温だった。

 ゆっくりと腕を伸ばし、体をほぐす。そして体の調子が整ったところで一息入れる。

 「さて着替えよう。」

 青年―クロハ―はそう言うとベットの横に置いてあるタンスの中から自分の服を服を着る。

 そして、ベットの傍に立てかけてある刀を腰に携え部屋を出る。

 丁度クロハはドアを開けて外に出たとき、鐘の音が7回聞こえた。

 (7回なったということは朝の7時か、まだまだ時間は一杯あるな。今日はゆっくりと飯を食おう)

 鼻歌を歌いつつ廊下を通り宿の食堂のある一階へ向かって階段を降りて行き、食堂の前につく。

 「ん?何だこの雰囲気?」

 食堂に入ろうとして扉を開けようとすると、昨日と雰囲気が違っていてすごく静かである気が付く。昨日はあんなにも活気があったのにと不思議に思い首をひねりながら、クロハが食堂に入ってみると何故かカオスな状況になっていた。

 まず目に付いたのは鼻血を出したまま、床に仰向けになって気絶している毛むくじゃらのおっさん達だった。

 その大きな体を痙攣させ寝そべっており顔の一部が赤く腫れ上がっているところを見ると、誰かに殴られて気絶したってところだろう。

 ほかの人たちを見てみると、客たちはおっさん達が倒れている中心の席付近からあからさまに離れて座っいた。

 そしてひそひそ話をしながら、ちらちらと中心の席の様子をうかがっていた。

 クロハはいまいちどういう状況か掴めないながらも中心の席を見て、一気に理解する。

 その席に座っていたのは、白い髪をした少年と金髪の女性だった。

少年は倒れているおっさん達がまるでそこに存在していないかのように行儀よく食べており、女性の方は机に顔を伏せているのが見えた。

 客観的に見てその二人が何かをしたのだろう。

 クロハはその様子を見て溜息をつき、その席に近寄る。すると少年はクロハが来たことに気が付いたのか、食べる手を止めクロハのほうを向き丁寧に挨拶する。しかし久遠の様子はいつもと違い態度があからさま冷たかった。

 「おはようございます、ボス」

 そういうと食堂にいる客は一斉にクロハの方を向く。クロハはその他人の好奇な目から避けるようにしながら少年たちの席に近づきこの状況はいったいどうなのか尋ねた。

 「おはよう久遠。……それよりこの状況はなんだ?」

 白髪の少年久遠(くおん)にこの状況を説明してもらう。

 「これはですね。まずフィリア姉さんが酔いつぶれたとこから入るんですが…」

 「なんで!?フィリア朝から酒飲んでんの!!」

 「それは何でも出発する前の夜、バクー姉さんと賭け勝負してボコボコにされて悔しいから酒で誤魔化そうって言ってましたよ。」

 (確かに、あの日バクーの身振りがいいなと思っていたがそんなことが!)

 クロハはそれを聞いて頭を抱えた。そして続きを促す。

 「で、なんでこうなってんだ?」

 「僕が食堂付いた時には、すでに酒盛りしていて酒がまわっていて酔いつぶれる寸前まで酔っていまして、取り敢えず『バクーに賭けで負けた。悔しい。だからこの悔しさを酒で晴らしているのよ。』と言ったところまで話は聞き取れたのですが、後は何を言っているのか全く分からなかったので適当に酔っぱらいの言葉を聞き流していたら、姉さん寝てしまったのです。それで仕方なく僕がここで朝ご飯食べている時に、いきなりあそこで仰向けになっているおっさん達が押しかけてきて「席を替われ、げへへへ」って言ってきたんですよ。」

 クロハはそれを聞き心の中でそのおっさん達に同情する。久遠を見ると同じような表情を浮かべているのが分かる。

 そしてクロハは久遠に続きを促す。

 「フィー姉さんが座って寝ているから、退く訳にもいかないですし、その旨を相手に伝えるとそいつらも酔っていたのか大声で俺に叫んできたんですよ。そしたら…」

 「そしたら?」

 「フィー姉さんが、ムクリと起きて『やかましい!』と言って容赦なく顔面を殴ってぶっ飛ばしたんです。」

 「ああ…そうか。でこんなにも静かだったのだな。殆ど予想通りだ。」

 クロハはその状況をありありと想像できたので諦めたような表情になって、周りを見渡す。すると目があった人はすぐに目を逸らしてしまうので何とも居心地が悪かった。

 クロハの気持ちをくみ取ったのか、ぽつりと冷え切った声で久遠が呟く。

 「ボスは良いじゃないですか。僕なんてさっきからずっとこんな目で見られているんですよ。フィー姉さんは原因なのに全然起きないし、ボスは全然来ないしめちゃくちゃ気まずかったんですよ。」

 その剣幕に押されて、つい謝ってしまう。

 「す、すまん。」

 肩を落とし、諦めた声で言う。

 「もういいです。さっさと朝ご飯を食べてここから出ましょう。」

 「そ、そうだな、そうするか。」

 宿の人に朝ご飯を注文して(その時に、朝のことで宿の主人にしこたま怒られたが)できるだけ素早く食べ、クロハがフィリアを自分の部屋に返して宿から出た。

 

 町に出て買い物する時間がまだ少しがあったので、クロハは久遠と男二人で買い物に出た。

 時間が早かったが、もうちらほら店が開いて何人か商人の声が聞こえてくる。

 その出店を二人はゆっくりと商品を見ながら歩いていた。

 「ボスー何買うんですか?」

 「え、ええっと。一応野営ができるように、明かりと食べ物と…」

 二人はやいのやいの言いつつ買い物をしていると、通りかかる人たちが二人のほうをちらちら見ながら何かを話している。

 (あれ?見た限り、さっきあの宿にいた人たちじゃあないんだけど…)

 クロハは真剣に考えていると、横から声が聞こえる。

 「どうしたんですか?ボス。」

 「そうか、お前か!」

 「?」

 久遠はいったい何を言われているのかわからない様子だったが、クロハは何故周りの人たちがこそこそ噂話をするのかを理解した。

 (こいつが(久遠)の見た目のせいか!)

 久遠は白髪の髪の毛をしているが目立つところはそれだけではなかった。まだ少し幼いが整った顔立ちに優しげな笑みを浮かべる姿は女性から人気がある。クロハ達が住んでいる地域ではファンクラブまでできているという噂が立つくらい人気者であった。

 「はー、参った、参った。」

 そういうと久遠は不思議なものを見た様な困惑した表情を浮かべる。

 「あのー?いったい何を言っているんですか、さっきから一人で。」

 「なんでもないさ。さぁ行こうか。」

 「?わかりました。」

 時間をかけ各店を回り、必要になるであろう荷物を買い漁ると気が付けば門の開閉時刻である九時の鐘がなっていた。

 「ボス、自分は馬車を預けているところに行ってくるんで、今持っている荷物は俺に渡してフィー姉さんを持ってきてください。」

 余りのぞんざいな言い方に苦笑する。

 「持ってきてくださいって…物じゃないんだから。」

 「まあ今の姉さんはそんなもんですよ。」

 「ぷっ、違いない。じゃあ門の付近で待っていてくれ、すぐに持ってくるから」

 クロハは少し噴出して同意した。そして久遠はそのまま馬車のある場所まで駆けていくのでその後ろ姿を見ながら宿に戻って行った。


 宿に戻ると、先程とはさらに雰囲気が違いなんだか物々しいものであった。

 どんどんと机を叩く音が聞こえたので好奇心が湧いてきて、揉めているところを見ると、宿主と先ほどのびていたおっさんたちが言い争いをしていた。

 クロハは何故宿主とおっさん達が言い争っているのかよく分からず首をひねり話を盗み聞きする。

 「アイツらの場所を教えろ!やられっぱなしじゃ俺たちの面目丸つぶれなんだよ。」

 「そうだ、金髪のねーちゃんと白髪の餓鬼を連れてこい。」

 「そう言われても、宿主の儂としても困るんだが。」

 「ウルセエ!俺たちギルド『黒シャチ』を舐めてんのか。」

 「だから誰であれ、勝手に客を連れてくるなんて儂には出来んとあれほど言っているだろう!」

 宿主との会話が堂々巡りをしていて、なかなか進んでいなかった。

 (これは俺たちが悪いのか…悪いんだろうな)

 クロハ自身は何もしていないが、仲間がやった上に宿主に迷惑をかけ続けているという事態に罪悪感を感じ、自らおっさんたちに向かって名乗りを上げた。

 「おい、おっさんたち!」

 するとおっさん達はクロハのほうを向き訝しむような目でクロハを見る。そしてそのおっさん達のリーダーらしき人物が口を開く。

 「なんだ餓鬼?お前に構っているほど俺たちは暇じゃないんだよ。」

 「まぁ話を聞けよ。宿の主人に迷惑かかっているだろ?」

 そういうと、主人はこちらに気が付いたのかほっとしたような顔になったのでクロハは目で謝り、オッサンのほうを向く。

 「ああ?それがどうした?」

 「だから…迷惑かけんなよ。」

 「うるせえ、こちとら全員恥かかされてんだぞ。このまますっこんでられるかってんだ。」

 「はぁ?恥だのなんだの言っても、お前たちが雑魚なのは変わらないだろ?女性に三人がかりで瞬殺されてんだから」

 クロハはそう言い放つとおっさん達は顔を真っ赤にしてぶるぶる震える。そして切れたのか唾を飛ばしながら、クロハに告げた。

 「貴様、さっきから舐めた口ききやがって…死にたいらしいな!」

 おっさん達は口々に恨み事を言うと背中に背負っていたハンドアックスを取り出し構える。

 その姿に野次馬として様子を見ていた周りの客は焦り避難する。

 リーダーらしき男が、その様子に卑下びた笑みを浮かべ言い放つ。

 「お前、土下座して謝ったら許してやらんこともないぞ。がはははは」

 数でクロハより多いせいか先程の怒気を収め、まるで自分が勝ったかのように笑っていた。しかしクロハはそれでも表情すら変わる様子がなく、言う。

 「弱いやつが集まっても、弱いままなんだぜ」

 「!?お前たち、こいつを後悔させてやれ。」

 リーダーの男がそういうと、オッサン二人がノッシノッシと歩いてきて斧を構えまっすぐ縦に振り下ろす。クロハはそれをジッと見て躱す素振りすら見せない。そしてほかの野次馬たちは、悲劇を予想し悲鳴をあげようとした。しかしそうはならなかった。

 クロハは斧で切り裂かれそうになる瞬間すっと横に動き躱した後、振り下ろしてがら空きになった鳩尾を拳で殴り、男はうずくまる。それを見て焦ったのか隣の男も斧を構えたがその隙に顎に軽くパンチを決め脳震盪を起こさせ気絶させた。それを確認すると、顔を青くしたリーダーの男に聞いた。

 「…で、どうする。このまま殴られて痛い思いするか、それともそこの二人を連れて帰るかどっちがいい。」

 「お、お前、い、いったい、な、なんなんだよ?」

 「そんな怯えるなよ。でどっちにするんだ。」

 「っち!きょ、今日はここまでにしといてやる。覚えてろよ!」

 リーダーのおっさんは声を震えさせつつ捨て台詞をはいて二人を抱えつつ足早に駆けて行った。その様子を見届けると、ぼりぼり頭を搔きクロハは溜息を吐いた。

 「なんでこんなことになるのかねぇ。」

 そう言いつつ(宿の前でまた宿主に怒られたが)自分の借りている部屋に着き、男性二人分の荷物を整えて、フィリアのいる部屋に行く。そしてまだ起きていなかったのでフィリアの荷物の整理を勝手にしてから、フィリアを抱え部屋から出た。廊下を歩いているとほかの客とクロハ達を見てにやにやした、生暖かい目線を二人に送っていてクロハは所在ない様子で宿屋から出て行った。

 その後三人分の荷物とフィリアを抱えつつ、久遠が宿の近く馬車に馬車を手配してあったので乗り込み目的地に向かって出発した。

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