プロローグ
初投稿作品です。
よろしくお願いします。
―目を見開く―
痛みと目の前に映る光景は、あまりにも衝撃で思考を奪っていく。
目の前に映る静謐な神殿、古代の魔道師たちによって作られたであろう犯しがたい空間。
その中で、少年は背中から剣で貫かれていた。そしてその痛みによって立っていることもかなわず崩れ落ちた。
「さて…これで仕事は終わりですね。」
少年を貫いた執事風の男はそういうと踵を返し神殿の入り口に向かって歩いて行く。
少年はその男を引き留めようと、這いずりながらもがく。
執事の男は少年の動きに気が付いたのか、後ろを振り返り侮蔑の目を向ける。そして聞いたものが底冷えするような感情のない声音で言い放つ。
「なんだ…まだ生きていたのですか、坊ちゃん?」
「ど、う…して…?」
「どうしてですって?ああ、いいでしょう。」
そして執事の男は感情のない顔で微笑むと、少年の近くにより耳元で呟いた。
「あなたはもう、我らが主であるストラウス家の者ではないのですよ。」
「な…ん、だと…」
「そして、旦那様があなたを処分するようにと」
「父…上…が?」
少年は目を見開き、絶望した顔になる。その表情に満足したのか執事の男は嗜虐した笑みを浮かべて、少年をその場に残したまま元来た道を通り帰って行った。
靴の音でハッとなり、少年は必死に「待て」と言って手を伸ばすも執事の男は後ろを向くことはなかった。
そして、口から血の味を感じた時、少年の視界が暗くなっていった。
気を失ってからどのくらいの時間がたったのだろうか。
もう音の聞こえない、何も感じることができない、目の前が真っ暗でその瞳は何もうつさない。
「――――」
言葉を発することさえできない。
意識はあるものの、もうそれさえ朧げであったが少年は―自分が自分でなくなる―ということに気が付く。
少年は悟った、これが死と言うものである事を。
少年は恨んだ、この理不尽な死と言うものに。
少年は望んだ、まだ生きたいということを。
その時、何も映すはずのない瞳が確かにとらえた。
美しい光だった、暴力的なまでに神々しいまでに美しい光。
少年はその光に見とれていると、何も聞こえないはずの耳がその声を確かに聞き取った。
「死にたくないのね?」
その声は、少女のように幼くそして抵抗できぬほど威圧感のある声である一方、母親のような優しいものでもあった。
「貴方まだ死にたくないんだね?」
「――――」
「そう…じゃあ助けてあげる。」
少年が声なき声で言い頷くと少しだけ嬉しそうな声をあげ、光が少年を包み込んだ。
「そういえば貴方の名前は?何て名前なの?」
その質問に対して、どうして答えなければならないのか分からなかったが、それでも震える唇から、力を振り絞り自らの名前を名乗った。
「クロ―――ハ」
「へぇクロハって言うんだ。いい名前じゃない。」
その光は満足げな声音でそういうとまるで思いついたかのように、クロハに提案した。
「貴方のこと私気に入った。なぁ私と契約しないか?」
「けい、やく?」
「そうだ、貴方はこの先いろいろな者と出会い、いろいろなことに巻き込まれるだろう。」
クロハはまるで吸い込まれるように、その話を聞き入った。
「守るものも多く現れるだろう、その時お前はどうする?先ほどみたいに、むざむざ刺されて無駄に死ぬのか?」
「無駄に…」
「それとも…?」
「それとも」
「私と契約して、守る力を得るのか?」
クロハは、頷いた。
そして小さく、しかし決して弱々しくない声でしっかりと言った。
「お、俺は、力が、力が欲しい。自分を、全てを守る力を。」
その言葉に満足したのか光はクロハの体に吸収された。
-いい回答だクロハ。君が私の契約主だ。よろしく頼む―
クロハはその言葉を聞き、体が温かい何に纏われるを感じつつ、その暖かさに身を任せ…気を失った。
これがクロハと彼女の出会い。
この出会いがクロハと彼女の運命を変える出来事であった。