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Spring has come!

高校生 × 高校生 同級生


Summer splashの続編です。卒業間際、友代以上恋人未満の川嶋くんに想いを伝えようとした菜々美は……。

王道ど真ん中ですw

ピピピッ


「38度……」


計測完了の音に体温計を口から出せば、まだ高めの熱。


「仕方ないわねぇ。お医者さんに行く?」


体温計を受け取ったお母さんがおでこに当ててくれる手の冷たさが心地いい。


「うーん、いい。薬飲んで一日寝てたら治るよ」

「そお?」

「沙羅にメールして寝る」

「そ。じゃあお母さん学校に連絡してくるね」

「今の時期私一人くらい休んだってわからないと思うけど……」


私の最後の言葉は部屋を出ていく寸前だったお母さんには届かなかったけど、実際卒業式を一週間後に控えた今、3年生は自由登校になってるんだから。


『風邪ひいて熱が出ちゃったから今日は休むね』

寝転んだままメールを打つ。

そう待たずに、

『あらら。お大事に~! 放課後アイスでも持ってお見舞い行くわ』

という返事。

『ありがと。じゃあテキトーに来て? おかーさんいるし』

『OK』


沙羅からの返事を確認してから電源を落とした。睡眠の邪魔をされたくないしね。携帯を枕元に置きそのまま目を閉じる。


「うう……。罰が当たったんだよね……」


そうつぶやき、寝返りを打つ。途端に襲われる頭痛に泣きそうになる。いや、頭痛のせいじゃないか。


何故風邪をひいたのか。


それは昨日のことだった。




夏休みに、奇特にも、私なんかに告白してきてくれた川嶋くんに伝えたいことがあって彼を探していた。あれ以来彼とは『友達以上の友達』としてお付き合いしてきた。まあいわゆる『友達以上、恋人未満』てやつだ。スポーツ推薦枠で大学が決まっている彼とは違い一般枠で受験する私は余裕がなかったけど、勉強にも付き合ってくれたし、合間を見ては遊びに行ったりもしていた。

それでもまだ告白の答えはしないまま、友達の枠からは抜け出ていなかった。別に川嶋くんから催促されることもなかったし、むしろ『ゆっくり考えてくれていいよ』って言われて甘えてたのもある。

今まで告白するチャンスやイベントは何度かあったけど、それどころじゃなかったからしていないだけ。クリスマスなんて勉強の追い込みシーズンだし、バレンタインもまだ試験の結果が出ていなかったので余裕なし。一応チョコは渡したけど。

で、卒業一週間前になってようやく合格通知をもらい、晴れて川嶋くんと同じ学校に行けることになったので、合格通知とともに『私も好きです』の一言を届けたくて彼を探していたのだけれど、どこに行ったのか見つからずで。


明日にしようかと諦めて、正門まで続く道をとぼとぼ歩いていたその時。


「あ、川し……」


思わずその先を飲み込んだ私。伸ばしかけた手が中途半端に力をなくした。


私の数メートル先を川嶋くんが歩いている。


そしてその横には、可愛い女の子。知らない女の子。

なんだか微笑ましい光景に足が止まる。


「そっか……」


一向に答えを出さない私なんか、愛想ついちゃうよね。

ズキン。


自分から言い出した以上引っ込みがつかなくなって、しかたなく今までお付き合いしてくれてたんだね。


ズキン。


……ごめんね。


ぽろん、と一粒涙がこぼれた。


私の存在に気付いてほしくないけれど帰る方向は同じだから、気付かれないくらいに距離をおいて駅へと向かった。


楽しそうに笑う女の子。

楽しそうに笑う川嶋くん。


その女の子は私と違って可愛いから川嶋くんにお似合いだと思う。

そう思うのに心がぎゅっと痛む。

また泣きそうになったけどもうすぐ駅だし人が増えてきたので我慢した。


使う駅は一緒だけど進む方向は反対方向の私たち。

ここまでは距離をおいていたから気付かれずに済んでいたけど、階段を下りホームに降り立った瞬間、


「菜々美!?」


向かいのホームから声がかかった。

見なくても声で彼だと判る。

今気づいたかのようにゆっくり彼の方を見ると、彼女をまだよこに連れたまま。ああ、彼女と一緒にいるのに他の女の子の名前、しかも下の名前を呼んだりしたら後で大変よ?

ずきんずきんと痛む心で、それでも微笑んで手を振った。


「ちょ!! 菜々美?!」


また私の名前を呼んでから階段を登っていく。まさかこっちに来るつもり?

こんなぐちゃぐちゃな心のまま彼には会えるわけないと焦ったところに電車が滑り込んできた。それに急いで乗り込むと、扉が閉まる瞬間に彼が階段を下りてくるのが見えた。


間一髪間に合わなかった彼。

間一髪免れた私。


『菜々美!!』


彼がまた私の名前を呼んでいる。


ぼんやりしたまま電車に揺られて気が付けば降車駅。とりあえず降りて、駅から出て少し歩いたところで急に雨が降ってきた。冬の冷たい雨。まさか降るとは思っていなかったので傘なんて持っていなくて、しかもズーンと落ち込んだ気持では走る気力もなくて。雨はどんどん激しさを増していく。結局家までの10分ほどを濡れ鼠になって帰ったのだった。


家に着くとお母さんの絶叫。


「菜々美?! ずぶ濡れじゃないの! どうして電話しなかったのよ?!」

「うん、ごめん。中途半端なところで降り出しちゃったの。それにこんなに激しくなるとは思わなかったし」

「もう、さっさと熱いシャワー浴びてきなさい! 風邪ひいちゃうわ!」

「はーい」


のろのろと浴室へ向かった。


で、そのまま夜には発熱という訳だ。




市販の風邪薬と解熱剤を飲んで目を閉じる。

熱で朦朧としているから嫌な夢を見そう。いや、いっそどろどろに溶けるように眠りたいかな。夢も見ないくらいに。


希望通りぐっすりと眠った私。気が付けばもうお昼を過ぎている。解熱剤がきいたのか寝汗をぐっしょりとかいていて気持ち悪いことこの上ない。

熱を測れば37度まで下がっていたのでもそもそと起き上がりパジャマを着替える。

まだ熱の余韻で頭が痛いけどとりあえずお昼ご飯を食べてもう一度ベッドに横になった。

もうすぐしたら沙羅から連絡があるかもと思い、枕元に置きっぱなしにしてあった携帯の電源を入れると途端にメール着信を告げるバイブレーションが鳴りっぱなしに。


「えっ? えっ? ちょ、まだ来るの?!」


私の掌で震え続ける携帯。見る見るうちにメール着信が20件、同時に電話の着信も10件と表示したのだった。

そしてそのどれもが川嶋くんからのもので。

『休みって聞いたけど、風邪?』『大丈夫?』『メール見てる?』等々。いつもの私なら即レスで返ってくるところが一向に帰ってこないからか、『おーい、菜々美?』っていうような呼びかけまである。


「しんどいから電源落としてるとか気付かないかなぁ? これじゃあまるでストーカーだよ」


ついつい苦笑が漏れる。いつもの彼なら気付いて当然なのだけど、今日の彼には何だか焦りを感じるというか。


「昨日あんな別れ方したから気にしてるのかな」


そう一人ごちながらメールを読んでいく。

でも、この優しさが、残酷。

もう私のことなんて構わなくてもいいのに。もうすぐ卒業だし、離れたらすぐに忘れるよ……?

最後のメールを開封したところでその文面にカチンと固まる。


『もうすぐ着く』


って、ええっ?! どこに?!

メールの内容に焦って携帯を取り落しそうになったところで、部屋のドアが軽快にノックされお母さんが顔を出した。


「菜々美~起きてる? 川嶋くんがお見舞いに来てくれてるけど?」


すごい笑顔だ、お母さん。


「えええ~?! いや、無理だよ。パジャマだし、それに来てもらっても風邪伝染っちゃったらダメだし?」


これでもかと頭を横に振ったらめまいがした。


「沙羅ちゃんなら上がってもらうくせに」

「沙羅は女の子でしょ!」

「まあね。じゃあ戸口っていうのも失礼なんだけど、伝染っちゃ悪いからここでいい?」


と何気に振り向くお母さん。最後の言葉はどう考えても私に向かって言われたものじゃないわよね?


「僕は構いませんよ」


扉の向こうから川嶋くんの声が聞こえた。




「今日、なんでケータイ出てくれなかったの? 返信もないし」


単刀直入とはまさにこのこと。川嶋くんは戸口のところに立ったままこちらをじっと見ている。私はカーディガンを羽織り、一応起き上がってはいた。


「あ……ごめん。熱があって頭が痛いから電源落としてたの」


それは本当のことだ。


「でも山辺には連絡したよね」

「それから切ったの」

「切る前になんでオレに連絡くれなかったの?」

「あれ以上メール打てなかったの。しんどくて」


これは、半分嘘。それでもしっかりと川嶋くんの目を見返して答えた。

不機嫌そうに口をぎゅっと結んでいる顔は、ちょっと珍しい。詰問口調も。だって彼は、いつも明るくて優しく微笑んでいるような人だから。


「そっか。……じゃあ、なんで昨日待ってくれなかった?」

「待つ?」

「そ、駅で」

「あ……」


間一髪すれ違ったことを彼は聞いてきた。真っ直ぐに私を見つめる彼の視線がつらくて、私は思わず目を伏せてしまった。


キュッと布団を握りしめる。


少しの沈黙。


「なんかね、楽しそうにしてたからつい声をかけそびれたの」

「え?」


視線を布団に落としたまま、昨日のことをポツリと漏らす。戸惑う彼の声。


「かわいい女の子と楽しそうに話してたから、ね」

「なにそれ」

「私がずっと答えを言わなかったから」

「うん?」

「じらしてたとかじゃなかったの」

「うん」

「待たされるのって、嫌なものよね。気のある素振りばっかりされるのも、嫌よね」

「菜々美?」


彼が動いた気配がしたけど、もう最後まで言ってしまった方が楽になれると思い続けることにした。


「合格したよ。川嶋くんと一緒の学校。だから報告したかったの。……気持ちも伝えたかったの。なのに遅すぎちゃったね、ごめんなさい。聞いてもらえてすっきりした。これからはキャンパスで会うかもしれないけど今までどおりに友達でいてくれる?」


泣きそうになりながら顔を上げると、真横に川嶋くんが立っていて。


「それってさ、菜々美もオレのこと好きになったってことでいいの?」


まだ不機嫌そうな顔のまま見下ろされる。


「うん、そう。ふふ、でも言うの遅すぎちゃった」

「おかしなこと言うね、菜々美。なんで遅すぎなんだよ」

「だって、川嶋くんは昨日のあの子と付き合うんでしょ? 可愛いし、お似合いだったよ……」


自嘲気味に笑うと涙がこぼれそうになった。

ぎゅっと目を閉じて涙をこらえていると、


「ありえねー。菜々美、オレのことみくびりすぎ」


呆れ声でそう言うと、川嶋くんの指が優しく目尻に触れ、滲んだ涙を拭ってくれた。

びっくりして閉じた目を全開にすると、そこにはさらに近くなった川嶋くんの顔。


「っ、かわし……」

「告られたってのはあるけど、ちゃんと断ったよ。もちろん菜々美のことも言ったし」

「私のこと?」

「そ。大切な人がいるからって」

「いや、ちょ、それは恥ずかしいかも」

「なんで恥ずかしい? ほんとのことだし?」

「~~~~!」


臆面もなく言う川嶋くんに絶句の私。顔がどんどん熱くなる。


「ちょ、菜々美?! また熱上がったんじゃないのか?!」


それを見て焦る川嶋くん。


「ちがうよ、もう! ……くすくす。あーなんか恥ずかしいけどうれしいな」


焦る彼が面白くてつい笑い出してしまった。


「そっか、うれしい?」

「うん、うれしい」


笑い止んで彼の顔を見れば、真っ直ぐに私を見つめる優しい瞳とぶつかる。


「じゃあ、改めて。佐保菜々美さん、オレと付き合ってください。恋人として」


ふっと目を細めたかと思うともう一度告白してくれる彼。


「私も川嶋くんが好きです。お付き合い、おねがいします」


その瞳に微笑み返して、今回はキチンとお返事できた。






「で、菜々美はどこの学部?」

「社会学部」

「おお! 同じじゃねーか!」

「え? そうなの?」

「そうなのって、菜々美、オレの学部知らなかったの?」

「うん、ごめん」

「……ま、いっか。結果オーライってことで」

「そーだね」

「菜々美、大学では水泳部のマネやれば?」

「えええ~~~?!」


今日もありがとうございました(*^-^*)

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