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Refrexive love

社会人(25)× 社会人(25) 会社の同期

クリスマス・イブの日に同期の三宮涼子に呼び出されたオレ。彼氏持ちのはずの涼子なのに、そして彼女を諦めたはずのオレなのに。


クリスマス・片想い・甘々なお話です☆

『あ、もしもし柏木くん? 今日よかったら仕事帰りに付き合ってほしいんだけど』


昼休みに入った一本の電話。

同期の一人、総務部の三宮さんみや涼子から。

「え? あ~、うん、いいけど」

ざっと頭の中で今日のスケジュールを確認する。うん、終業時間後のアポはない。

営業のオレに終業時間もくそもあったもんじゃないけど。

『残業、大丈夫?』

「ああ、多分。突発は仕方ないけどな。つか、お前こそいいのかよ?」

『え~? ああ、大丈夫大丈夫』

電話の向こうで笑う声。ほんとかよ。

今日は12月24日だぞ。世間様で言うところのクリスマス・イブだ。彼氏と約束してて当然だろ。三宮の彼氏も同期。まあヤツは営業ではなく企画開発だけど。

「やだぜー、オレ。あいつに呪われるの」

優しげに笑うヤツの顔を思い浮かべながらため息をつく。

『ほんと大丈夫だってば。てゆーか、これをお願いできるの柏木くんしかいないんだもの』

電話の向こうで手を合わせている三宮が目に見える。

「わーったよ」

結局俺はこいつのお願いに弱い。仕方なく折れる。

『ありがとう! じゃあ6時に下のロビーで!』

「ああ」

『じゃね!』

そう言って通話は終わった。

携帯をテーブルに置くと、好奇の光で目を爛々と輝かせた後輩と視線が合う。こんな時だけものすごくいい笑顔だよ、お前。

「柏木さーん、もしかして彼女さんとデートの約束ですか~? 今日イブですもんね~」

何も知らない後輩は無邪気に聞いてくるけど、ほんとそんなんじゃなくてさ。

「ちげーよ。同期だよ。しかも友達の彼女」

「ほんとですかぁ?」

「ほんとだよ」

これ以上は話したくないので、オレは伝票を持ってレジに移動した。




なんとか仕事を終え、定時に切り上げることができた。追加の資料をオレのデスクに置こうとする課長の手を、隣の後輩のデスクにスライドさせるという技を使ってまでな!

営業たるもの遅刻は厳禁だし? いや、これは建前か。三宮を待たせたくなかったから。

手早くデスク周りを片付け帰り支度をして、

「お先に失礼します!!」

誰かに引き留められる前に、逃げるようにフロアを後にした。


約束の6時前にはロビーに到着したオレだったのに、三宮はすでに来ていて、街路を行く人々をガラス越しに眺めていた。

派手ではないえんじ色のコートを着て佇む三宮は、小柄で童顔だからか26には見えない。新卒社員と言ってもまだ通用しそうだ。

眺めているガラスに映ったオレに気付き、こちらを振り返り目を細める彼女はいつみても可愛いと思う。


そう。オレは彼女が好きだった。


入社して最初の頃の研修で一緒の班になったのがきっかけで、話すようになった。そこにはヤツもいたのだが。

オレは三宮とも仲良くなったけど、それ以上にヤツと仲良くなった。

初めは三宮の可愛さに目がいったのだけど、研修が進むにつれて、彼女の真面目さや明るさ、前向きさに魅かれるようになった。しかし、オレと同時にヤツも彼女の良さに魅かれていたようで、気が付けばヤツと彼女が付き合っていたという悲しいお話だ。

その頃にはヤツのことも大事な友達と思えるようになっていたオレは、友達の幸せを優先させることにしたのだ。

彼女を幸せにするのがオレではないことはひどく苦しかったけど、三宮が幸せならば、と諦めることにした。


「ごめん、待たせたか?」

三宮に駆け寄りながら、オレは言った。

「ううん、私も今来たところよ。ごめんね、急に誘ったりして」

顔の前で手を合わせてゴメンネポーズの三宮に誰が勝てるというのだろう。

「いや、どうせ独り身だし? 逆にこんな日に空いてるオレを誘ってくれてありがとな」

自虐っぽく笑って言う。

「ふふ。じゃあ、行こうか」

軽く笑ってくれて助かった。二人でエントランスに向かいながら、

「どこか決めてるの?」

「うーん、それも相談しながらっていうことでいい?」

「OK」

そして二人で空気の澄んだ12月の寒空の下に出て行った。




三宮の相談とはクリスマスプレゼントは何がいいかってことだった。

ちょっぴりわかってたけどな。


そんなの本人に聞けばいいだろって思うけど、

「だって聞けなかったんだもの」

ぷう、と口を尖らせて拗ねる。あーはいはい、そーですかー。ごちそうさまです。

独り身のオレにとっちゃ、これは惚気にしか見えねーからな!

しかし付き合うと言ったのもオレだし。半分自棄になりながらも観念した。

「しゃーねーなぁ。で、三宮は何がいいと思ってんの?」

デパートやショップが立ち並ぶエリアを、見るとはなしにぶらぶらと歩くオレたち。どの店も、そして街路さえもイルミネーションでキラキラしている。冬の澄んだ空気に映えて、いっそ幻想的だ。

「ん~、毎日身に着けてくれるものがいいかなぁとは思ってるけど、実際どうなんだろ?」

人差し指を唇に当て、虚空を見つめながら答える彼女。

「例えば?」

「社会人だしネクタイとか?」

「ああ、必要だね」

「でもさ、ネクタイを贈る意味って『貴方を束縛したい』らしいって聞いたことがあるのよね~」

「『貴方に首ったけ』っつーのも聞いたことあるぜ~」

「うー。どっちもなんだかなぁ」

「うん、確かに」

お互い思わず苦笑いになる。

「時計はどうかな」

三宮が気を取り直したように言い出した。

「時計か。うん、いいと思うけど値段によりけりじゃね? あんまり高いとひいちゃうぜ」

「そりゃあ、ロ○ックスとかブル○リとかフラン○・ミュラーとかは無理だよ?!」

「俺らの給料何か月分だよ」

「絶対無理無理!! そんなんじゃなくてさ~。もうちょっとお手頃でいいのあるじゃない?」

「まあな~」

どうせオレが貰うんじゃねーし? そんな風にちょっといじけモードで軽く返事していたら、

「もう! 真面目に考えてよ~! こんなの相談できるの柏木くんしかいないんだから、お願い!」

眉尻をキュッと下げて困り顔の三宮。あ、また可愛い。

「ごめんごめん。ちゃんと考えます」

「お願いします! ちゃんと考えてくれたらご飯ご馳走するよ?」

困り顔から一変、ニコッと笑う。うわ、やられた。

彼女の心臓破りスマイルにやられたのであって、ご飯に釣られたのでは断じてないからなっ!

「じゃあ張り切って相談にのらせてもらうわ」

三宮の笑顔にやられたのを悟られないように、ことさら軽く答えた。




何件目かに立ち寄ったショップで、これだと思える物が見つかった様子の彼女。

真剣な顔でショウケースを覗きこんでいる。

時折はらりと落ちてくる柔らかそうな茶色の髪を、無造作に耳にかける仕草にドキリとする。白い華奢な指先は、上品なネイルに彩られ、それだけで何の装飾品も必要とはしない。

ふんわりとウェーブしたショートのボブ。艶々と光る天使の輪は、撫で心地もいいんだろうなぁなんて思わず妄想してしまう。いかんいかん。

そんなオレの葛藤を他所に、

「ねえ、これなんてどう思う?」

なんて上目遣いに聞いてくる。がんばって冷静を装って、オレもショウケースを覗きこむ。

彼女の白く綺麗な指に見惚れそうになるところをこれまた頑張って引き剥がし、指差すものを見る。いいお値段だけど、高すぎるわけでもなくプレゼントにはいいと思う。

これを付けてるヤツを想像するが……なんとなく違う気がすんだよなぁ。

ヤツはインテリっぽいから、彼女の今指し示している金属のベルトよりも黒とか革のベルトの方が似合う気がする。

「いいと思うけど、ヤツなら革のベルトの方がよくね?」

「そう? でも柏木くんはどう思う?」

「オレ?! んー、オレはこれ、いいと思うよ」

「じゃあこれにするわ」

「って、えええ?! いいのかよ?」

つけるのオレじゃないし、ヤツに似合うものの方がよくねーか?

「うん、いいの。私の眼よりも柏木くんの眼の方が確かそうだもの」

「いやいやいやいや、オレは革ベルトの方がいいって言ったぜ?」

「でもこれ、いいでしょう?」

「ああ、うん、まあ」

「じゃあ、これでいいのよ」

何でか頑なに言い張る彼女は、そう言うと店員にその品を出してもらいラッピングを頼んでいた。

オレの好みのものを渡されても、ヤツ、喜ぶのかなぁ……?




「今日は付き合ってくれてありがとう! じゃ、ご飯ご馳走するね」

そう言って彼女に連れてこられたのはカジュアルだけど雰囲気のいいフレンチのレストラン。男だけで入るのはちょっと……なところだけど、カップルモドキなら大丈夫。こんな日にモドキなのが残念だけどな!

しかし、周りはみんな見事にカップルだらけ。居心地悪いことこの上ないのだが、三宮は気にならないのか、呑気にワインリストを吟味している。

なぜかこの店を三宮は予約していた。コースの料理まで。

クリスマスイブに彼氏でもない男とディナーなんていいのかよ。

オレの彼女がそんなことしたら、オレは絶対許せないけどなぁ。ヤツはどうしたんだよ?

これから現れるのか? それだったらオレ辛くね?

いくら三宮を想って身を引いた俺でも、さすがにそれは耐えられる自信ないぞ?

じっと三宮の様子を見守りながらそんなことをぐるぐる思っていたオレに、

「柏木くんは飲み物何にする? あ、いっそワインをボトルで頼んじゃおか?」

なんてニコニコしながら聞いてくる。この小悪魔め!

「つーかさぁ、いいのかよ。ヤツじゃなくてオレとディナーってさぁ」

堪えきれなくて、オレは三宮に聞いたのだけど。

「じゃあ白のボトルにするね? 私赤苦手なの」

なぜかオレの言葉は華麗にスルー。

「って、おーい、三宮? ねえ聞いてる? オレの話」

彼女の目の前で手を振りながらもう一度言ったオレだけど、

「あ、すみませーん」

やっぱり見事にスルーして店員を呼びつけている。そして呼ばれてやってきたギャルソンにおススメを聞いて、それを注文した。ああ、もう。諦めて椅子に深く腰かけなおす。ギャルソンと相談する彼女を眺めていた。


注文を終えて再びこちらを向き直った三宮に、

「で。どうなんだよ。ほんとのところ」

もう一度聞き直した。すると。


「ん? とっくに別れちゃってるよ。彼とは」


何だって――?




三宮の言葉に呆然としたオレは、ワインが運ばれて来たのでようやく現実こちらに戻ってきた。

「って、はぁ?!」

ようやく反応を返したオレに彼女は苦笑しながら、

「あーもう、反応遅いなぁ。ハイ、グラス持って、かんぱーい」

メリークリスマース、と言って軽くグラスを合わせる。

が。

「おいおい。そうじゃないだろ」

危うく流されるところだったけど、ここで踏ん張る。

すると観念したのか、彼女がグラスを置き、こちらを見る。

「ああもう。私たちが別れたのを知らないのって、柏木くんくらいだよ?」

「うそ?!」

「最近柏木くん忙しくて会ってなかったじゃない? 海外出張とか行ってたでしょ?」

まあ、確かに。そういやここ何か月か同期にも会ってなかったな。もちろんヤツにも。

「あ、ああ……」

「いつだったかなぁ。もう結構経つから忘れちゃった。へへ、振られたの」

そう言って舌を出す三宮。辛いことを話しているはずなのに、全然軽く言う。ふふ、と微笑んでからワインに口をつけている。

ワインで唇を湿して、

「『涼子は違うところを見てるよね、幸せにできるのはオレじゃないよね』って言われちゃったの」

まだ微笑む三宮。

「……どういう……?」

オレは訳が分からなくて動揺している。どういうことだ? いつも仲良かったじゃねーか。少なくともオレがいるところでは。喧嘩したとかも聞いたことねーし。

「いつからだろうね。彼には気付かれていたみたい。自分ですら気付いてなかったのに」

自嘲的に言いながら、ワイングラスを転がす彼女。その手元、ろうそくの光を反射するワインに見入る。

「何に?」

「うん。本当に好きな人が彼じゃないって」

「……は?」

三宮は事もなげに言うが、オレはさっきから彼女の話に驚きっぱなしだ。そもそも彼女が曖昧に話をしているからなんだけど。

でも、彼女がヤツ以外の人を好きで、それをヤツが気付いて別れたってことだけは理解できた。いや、それしか言ってねーか。

それ、誰だよ……。

そう思いながら三宮を見ると、ばちりと視線がかち合った。


「でね。せっかく自分の気持ちに気付いたんだし、告白しようかなって思ったの」


まだ真っ直ぐにオレを見つめる彼女。


「あのね、私、柏木くんのことが好きです」


ゆっくりと一語一語切りながら、彼女が言った。




なんか夢みたいで、せっかくのディナーの味なんてしなかったも同然だった。ワインもオレがほとんど飲んだ気がする。

とりあえずお腹は一杯だし、心も一杯だし、目の前にはすでにデザート。

でもよく考えたら『好きです』って言われただけだよな? それからどうしたいんだ? いや、守りに入っちゃいけないんだよな! ここはちゃんとオレから付き合おうって言うとこだよな?

覚悟を決めて身を乗り出した時、


「はい、これ」


彼女が先程買ったばかりのプレゼントを差し出してきた。

出鼻をくじかれた感じになったオレだけど、素直にそれを受け取った。

「勝手に告白してゴメンネ。柏木くんにその気がないならこれは返してもらっていいの」

そう言って微笑む三宮は、どことなく儚くて。

これはオレのために選んでくれたんだな。だから革のベルトじゃなくて金属のベルトだったんだ。オレ好みの……

じゃあ。

「せっかく一緒に選んだのにくれないなんて、オレ、泣くよ?」

わざと明るく言ってみた。

「でも」

ぱっと顔を上げてオレを見る彼女。瞳が揺れている。

「オレこそ、ずっと三宮のこと好きだったのにな。三宮に先に言わせてごめん。情けないな~」

彼女の瞳に真っ直ぐ笑いかけながら言う。

「私のこと、好き……?」

オレの言葉が咀嚼できなかったのか、瞠目したままの彼女。

「ああ、もう入社当時からな。あーあ、ずっと諦めようと努力してきたのにな」

オレがおどけてそう言うと、

「だめ!! 諦めないで!!」

慌てて止めようとする三宮。かわいすぎる。

「んなわけないだろ」

そんな慌てる彼女がかわいくてつい笑ってしまう。

「でも、オレ何にも用意してないわ。ディナーだってプレゼントだって」

だってサプライズだったからな~。まさかこんな展開になるなんて、正直さっきまで思ってなかったし? いいとこ残業で、その後しがない独り身ばかりでやけ飲み会くらいだっただろう。

「私がしたかっただけだから、いいんだよ」

ふ、と幸せそうに微笑む三宮。そして、


「時計を贈るっていうのはね『あなたの時間を束縛したい』って言う意味なんだって。束縛するのは嫌だから、少しだけ。柏木くんの時間を、私に少しだけわけてくれませんか?」


顔が赤いのはワインのせいか、相乗効果か。


その時計の話、聞いたことあるな。って、また先に言わせてるじゃねーか。オレってつくづくダメなやつ……。

じゃあ。


「明日、一緒にプレゼント買いに行こうな。これとペアの時計」

今もらったばかりのプレゼントを彼女に見せながら言う。

「ペアの時計?」

コテンと首を傾げる彼女。これは知らなかったか?

「そ。ペアの時計だと『時間の共有』って意味があるんだって」

「えっ……?」

「全部先に言わせてごめんな。少しなんて言わずに、オレとこれからの時間を共有してくれますか? 三宮涼子さん」


長い片想いが実ってつい緩んでしまう頬を叱咤し引き締めながら、オレが真っ直ぐに見つめる彼女の瞳はもう揺れていなくて。


一度ゆっくり目を閉じたかと思うと、見る見るうちに満開の笑顔。ああ、やっぱりかわいいな。


そして。


「はい」


しっかりと頷いてくれた。


読んでくださってありがとうございました(^^)

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