私を見て!
私をみて!
大柳 朱
静岡県の沼津市のある中学校で成人式が行われている。各々かつての学友と再開を喜び合っている中、少女は独り座っていた。
「はぁ…」
少女はため息を吐きながら携帯を見る。
ディスプレイにはメールの受信が表示されていて、すぐさまそれを確認する。
少女はメールを確認するやいなや一言つぶやいた。
「…楽しくないよ」
この時、少女がわずかながら涙をこぼしていたことを誰も知らない。
「え~、これから君たちは世に羽ばたいていくわけですが…」
ありきたりの言葉を並べられ、新成人たちは皆各々にあくびをしていた。
やがて時間は過ぎ、式は終了した。
結局、少女に話しかけるものは誰もなかった。
「かえろう…」
適当に写真撮影を済ませ、少女は学校は後にした。
家に着き少女は扉を開ける。
“おかえり”と母が出迎える。
「ただいま」
「楽しかった?」
「…うん」
少女は嘘を付いたことを後悔しつつ、自室へと戻った。
少女はすぐさま私服に着替え家を飛び出した。
家の近くに海があるため、そこを目指した。
海に着くと少女は海を見つめながらしゃがみこんだ。
「どうせ…私のことなんか…だれも…」
そう言いながら少女は石を海に向かって投げた。
それから数分同じことを繰り返した。
「新屋?」
不意に人の声が聞こえた。少女…新屋奈緒が振り向くと青年がこちらを見ていた。
青年はタバコをふかしながらこちらを見ている。
「井沢…くん?」
「おうおう!井沢誠二だ。久しぶりだな~」
誠二はニヒと笑いながら言う。
「でもさぁ~新屋って女だったっけ?」
「えと…あの時は…男だった」
「そうだよな!俺、修学旅行の時の風呂場でお前のチンコ見てるし」
奈緒の顔がかぁーっと赤くなる。
「あははは!照れてんのか?」
「だ、だって…今は女の子だし…」
「ふ~ん。ま、今の新屋って結構可愛いからいいけどな」
またニヒと誠二が笑う。
しかし、いやらしいようには一切見えず心のそこから笑っているようにみえた。
「は…恥ずかしいな…」
奈緒は少し照れていた。
「そうだ!新屋、お前も飲み会に来いよ!」
「え!?で、でも私友達いないし…」
「大丈夫、大丈夫。いざとなったら助けてやるよ。俺が誘ったんだしさ」
もちろん奈緒も飲み会があることは知っていた。
しかし、どうせ自分は誘われないと思い込んでいた。
「…少し、時間をちょうだい。私考えるから…」
「考えるまでもねぇだろ?」
「考えるよ…だって私」
「誰にも気づいてもらえない?」
「わかってるならどうして…」
「俺は気づいたぜ?他の奴も気づくだろ」
「ぐ、偶然だよ!」
「偶然じゃねぇよ。みんな探してたんだぜ?“新屋はどこだ~?”って」
「嘘だよ…」
「嘘じゃねぇって!あ~もう!行くぞ!」
突然、誠二は立ち上がり奈緒の手を引いた。
奈緒が立ち上がった時ふわりと風が吹き、長い黒髪がなびいた。
長い髪は太陽の光に当たり少し輝いて見えた。
「あの…さ。髪…綺麗だな」
「ななななにを言ってるの!?」
不意に髪が綺麗と言われ奈緒はその場で頬を真っ赤に染めた。
「あぁ綺麗だ。お前、美人だよな」
ついにはなにも言い返せなくなっていた。仕方なく二人はまたしばらく海を眺めながら座ることにした。
「あのさ、一つ聞きたいんだけど…どうして女になったんだ?」
「…」
「いや、悪い…」
誠二は土下座をしながら謝る。
「あ、謝らないで…えっとね…半陰陽って知ってる?」
「なんぞ?」
「私の場合は生殖器が男の子みたいになってたから男の子と間違えられて育てられたんだって」
「あ、ちんこついてたのか」
「い、言わないで…」
「それで、中1の時に発覚して手術をしたの」
「つまり、生まれた時から女だったんだな?ちんこついてたけど」
「そう。だから私は一人だけ東京の親戚の家に預けられて東京の中学、高校に通ったの。も、もちろん家にも時々帰ってたよ?」
「スルーありがとうございます…」
「そっか。なら大丈夫だろ」
「だ、だから!気持ち悪いとか思わない?」
「は?なんで?お前は女なんだろ?別にオカマって訳じゃないんだから気にすんなよ。とにかく飲み会行くぞ!」
誠二は強引に奈緒の手を引き走り出した。
夕方六時のとある居酒屋に奈緒たちはいた。
「あ、井沢くんおそーい!」
奥の方から幹事の沢田せつこが声をかけた。
「悪い悪い」
「あれ?井沢くん彼女連れ?」
「はは。うらやましい?」
「ば、ばっかじゃないの!」
“せつこは素直じゃないわね~”と女子たちは口々に笑う。
「あ、あの…」
おずおずと奈緒が前に出る。
“新屋だろ?”と誰かが言う。
「え!?ど、どうして…」
奈緒は今にも泣きそうな顔をしている。
「言ったろ?みんな探してたって」
「で、でも…」
「忘れてないわよ?同級生だもの。中学からあなたは転校しちゃったけど、六年間は一緒だったじゃない」
「沢田さん…」
みんな口々に“かわいくなったな”やら“あのときから可愛かったのよね~”など言っている。
「まぁさ。とにかく飲もうよ。せっかく会えたんだし」
「…うん」
それから2時間が過ぎた。
「井沢くんと…奈緒って結構お似合いよね~妬けちゃうな~」
突然の発言に奈緒の思考が停止した。
「ささささ沢田さん!?ナニイッテルノ?」
「言ったとおりだけど?」
「井沢くんとじゃ釣り合わないっていうか…私…元男の子みたいなものだし…」
また奈緒は半泣きになっている。
「んもぉ~!奈緒は可愛いんだから泣かない!」
「でもぉ…」
「しょうがないわねぇ…」
せつこは呆れた顔をしながら今度は誠二に話しかける。
「奈緒と付き合えば?」
「…ああ」
誠二はうなづくとタバコに火をつけた。
「…ぇ」
奈緒の顔は驚いている反面少し嬉しそうだ。
「でもでも…」
「結婚するか」
「「「「えぇえええええ!!」」」」
その場にいた誰もが驚いた。店員すら口をあんぐり開けている。
「え!?でも、でも、私たちまだ仲良くなって数時間も経ってないし…」
「な、なんだよ…」
「い、いえ…」
奈緒はつい視線をそらしてしまう。
そして、じどろもどろに答える。
「えっと…まだつ、付き合ってすらいないし…その…まだせ、誠二くんのことよくわかりません…だ、だから…お、お付き合いからでよければ…」
今度は誠二が口からタバコを落として驚いていた。
「ほ、本当か!?」
「え、えぇ…」
照れくさそうに奈緒が答える。
ここに一つのカップルが生まれたことで周りでは祝福と若干の嫉妬が生まれた。ちなみに嫉妬というのは女子の方ではなく男子である。
店を出たあと二人はデートへと向かった。
おわり
あとがき
皆さん、こんばんは~。大柳朱です。つい先日童話を書かせていただいたばからりですが、短編小説を書かせていただきました。まぁご存知の通り私は文才ないんですけどね…。
というわけで、今回も読んでいただきありがとうございました。
では、私のワガママにもう少しだけお付き合いくださいませ。
おまけ
「娘さんを僕にください!」
「「イヤ!!」」
現在、誠二は奈緒の両親に挨拶に来ていた。
「ど、どうしてですか!?」
「だって~可愛い娘をあげられないわ」
母・あき恵が言う。
「そうそう。まぁ~君が息子になるなら…いんじゃね?」
軽い感じで父・晴彦が言う。
「お父さん!お母さん!」
少し怒り気味に奈緒が言う。
「じょ、冗談だよ…パパは意地悪しないよ~。たださ、一度言ってみたかったんだよ~」
「もぉ~!」
「落ち着きなさいな。別に本当に拒否してる訳じゃないんだから。それに…誠二くんイケメンだし…げへへ」
「お母さん…最低…」
「ち、違うのよ!?べ、別に誠二くんが好きとかじゃないんだからね!!」
あき恵がツンデレと化していた。
「まぁとにかく。結婚おめ」
「み、認めないんだからね!っと、おめでとう」
結局のところ二人は奈緒が彼氏を連れてきたことを心の底から喜んでいた。
奈緒が手術を受けた日から二人は”奈緒は結婚できないんじゃないか?”と心配していた。
しかし、成人式から二年経過した今、誠二と奈緒は結婚を決意して奈緒の両親に挨拶に来ていた。
その晩、奈緒の両親は声を張りあげ喜びの涙を流していた。二人暮らしのアパートに帰った奈緒はこの事を知らない。
おわり